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■事業の内容

新造船需要は回復基調にあるものの、国際競争の激化等により造船市場は依然として厳しい状況にある。建造量の殆どを輸出船で占める斯業としては、今後とも常に海外市場の維持開拓を図り需要喚起に務める必要がある。
 本事業は平成9年度に実施したアジア・大洋州諸国に引き続きアフリカ・アメリカ地域における造船・海運事情等に関する動向の基礎調査を行い、国際協調推進のための基礎資料とすることを目的とし、実施した。
 なお、内外の資料をもとにアフリカ及びアメリカ地域33カ国の海運・造船事情等の動向レポートを作成し配布した。
(1) 調査対象国
アルジェリア、エジプト、ガーナ、ギニア、ケニア、コートジボアール、シェラレオーネ、スーダン、セネガル、タンザニア、チュニジア、ナイジェリア、マダカスカル、南アフリカ、モロッコ、リビア、リベリア、モーリタニア、カナリア諸島、米国、カナダ、グアテマラ、トリニダッドドバゴ、メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、コロンビア、チリ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー (以上33カ国)
(2) 調査研究項目
 [1] 一般事情
 [2] 船舶事情(保有状況、海運事情と保有船主の実態)
 [3] 造船事情
 [4] 漁業事情(漁業の実態、漁業開発計画、漁船保有状況)
(3) 造船・海運動向レポート作成
 [1] 規 格  オフセット印刷(バインダー製本) 約730頁
 [2] 部 数  150部(うちバインダー製本120本)
(4) 配布先
   国際委員会委員     54部
   商社          10部
海外事務所        3部
   関係官庁及び造船団体  18部
   事務局在庫       65部
           (計)150部
■事業の成果

3カ年計画で、約80数カ国を3ブロックに整備する本事業の第2年度目である本年度は、アフリカ、アメリカの33カ国の造船事情・船舶事情等を調査し、動向レポートとしてまとめた。以下、その概要は次の通りである。
〈アルジェリア〉
 アルジェリアは原油、天然ガス等が豊富であるが1995年以降実質的な軍事政権であるため政情不安で今のところ中小型船の輸出市場としては期待できないが、過去には当工業会会員造船所の好市場であった。今後、政情不安さえ解消できれば過去の輸出実績からして中小型船の輸出市場として期待できる。
〈エジプト〉
 エジプトの保有船腹量は約130万総トンであり、年々拡充している。国内にさしたる建造造船所はないので、船型を絞れば中小型船の輸出市場として期待できる。当会会員造船所からも経済協力による船舶供与がなされている。
〈ガーナ〉
 ガーナの船腹保有量は約13万総トンにすぎないが、我が国からの経済協力は第1位である。漁船の需要は多いので、今後は水産無償による漁船は期待できる市場である。
〈ギニア〉
 ギニアは豊富なボーキサイトを保有しており自国の保有船腹量も僅かであるので、この種の運搬船の需要は期待できるが、1982年に我が国からの円借款によるボーキサイト運搬船も現在のところ宙に浮いたままの状況である。
〈ケニア〉
 ケニアとってわが国は経済援助の面でも最大の協力国であるが、主だった海運会社もなく外資系の海運会社によって運営されていることからして、船舶の輸出市場としては期待できない。
〈コートジボアール〉
 コートジボアールの保有船腹量は11,433総トンと極めて少なく、また同国の経済はフランスの影響下にあるため、我が国への船舶需要は全く期待できない。
〈シェラレオーネ〉
 シェラレオーネへは1980年の無償供与によるカーフェリー2隻以来、輸出実績はなく同国は英国と密接な関係にあり、わが国としては無償による経済協力の小型船舶しか需要は期待できない。
〈スーダン〉
 スーダンの保有船腹量は殆ど無いに等しく海運業も外国資本系に依存しており船舶市場としては全く期待できない。
〈セネガル〉
 わが国はセネガルに対する輸出実績は殆どなく、中小型船市場としては期待できない。しかし、フランスに次ぐ援助国であるので今後は無償供与の小型船舶は出てくるかも知れない。
〈タンザニア〉
 タンザニアには1979年に、当工業会会員造船所が円借款による貸客船及びタンカーを輸出して以来、納入実績はなく豊富な鉱産物はあるものの、今後も船舶市場としては期待できない。
〈チュニジア〉
 チュニジアの保有船腹保有量は約18万総トンあるが旧宗主国のフランス系の海運会社が支配しており、今後の新造船計画も同国の影響が強いことから余り市場としては期待できない。
〈ナイジェリア〉
 ナイジェリアは鉱物資源が豊富であり、特に石油、天然ガスの埋蔵量は豊富である。同国の保有船腹保有量は約45万総トンであるが、その大半が船齢20年以上の老朽船で、国内には建造できる造船所はないため同国の代替計画の動向には注目する必要がある。
〈マダカスカル〉
 マダカスカルの一般商船は船腹保有量約4万総トン程度で年々保有船舶は減少しており船舶需要は期待できない。しかし漁業部門は海外からの経済援助により近代化整備に努めているので、水産無償による漁船は数隻期待できる。
〈南アフリカ〉
 金、ダイヤモンド、プラチナ、ウラン等鉱物資源が豊富な同国は1994年以降アパルトヘイト廃止により民主化が進み内政は安定している。船腹保有量は約38万総トンであるが政府は外航を重要視しており、今後はコンテナ船等の小型船舶の需要が出てくるものと期待され有望市場となりうる可能性を秘めている。
〈モロッコ〉
 モロッコは輸出の拡大に伴い自国海運力の拡充に努めており現在の船腹保有量は約42万総トンであるが、今後の拡充計画によっては自国に鋼造船を建造する造船所は無いので海外発注に頼ることからして、今後も注目すべき市場である。
〈リビア〉
 社会主義国であるリビアの船腹保有量は91万総トンをピークに減少傾向にあり現在は約69万総トンである。唯一の外貨獲得源である石油の生産も減少傾向にあり、加えて新たな船舶拡充計画も無いので当面の間は輸出市場としては期待できない。
〈リベリア〉
 便宜置籍国であるリベリア籍船舶は約1,700隻・約600万総トンあるが、同国は船舶市場ではない。しかし、今後も同国の海運政策の動向には注目すべきである。
〈モーリタニア〉
 モーリタニアにさしたる海運会社は無く、唯一の外貨獲得源である鉄鉱石も世界需要の減退により後退している。同国は一般商船の市場ではなく、むしろ漁業権がらみの水産無償による漁船需要に期待が持てる。
〈カナリア諸島〉
 カナリア諸島は自由港であり中継港、漁業基地として各種船舶の入港が盛んであるがスペインの行政地区であるため独自の保有船舶はない。
〈米国〉
 米国の保有船舶量は約1,180万総トンで、一方建造造船所はこれまで艦艇の建造で支えられてきたが、今後は商船建造に活路を見いだす方針が出され、我が国造船業にとって脅威になりつつある。今後も同国造船業の戦略を常に把握する必要がある。
〈カナダ〉
 同国の主な造船所は15社あるが、その規模は大きくない。従って船舶の需要に対する供給は海外調達によるが、現在の保有船腹量は約253万総トンで平均船齢は26年と老齢化しており、商船に進出しつつある米国が地理的有利はあるものの我が国造船業の短納期、技術力等からしても充分太刀打ちできることからして、注目すべき輸出市場といえる。
〈グアテマラ〉
 グアテマラの船腹保有量は無いに等しく、また漁業もあまり発達してなく船舶の輸出市場としては全く期待できない。
〈トリニダッドドバゴ〉
 トリニダッドドバゴは小さな群島から成る小国であるが国家経済を支える石油があり海上荷動き量も年々増加しており自国海運の育成に意欲的ではあるが、国の規模からして我が国の輸出市場とはいえない。
〈メキシコ〉
 メキシコには、我国から水産無償による漁船の供与実績が過去にあり、その後円借款による漁船整備計画発生し、当会からもミッションを派遣したが漁船4隻のみのテストケース輸出に終わり大型の円借款による船舶供与成約にはいたらなかった。同国は水産資源が豊富であるので、今後も円借款による漁船をターゲットに絞り進めることが大型商談に結びつくものと思われる。
〈アルゼンチン〉
 アルゼンチンの海運業は国際競争の中で埋没しており、飛躍的発展は見込めない。従って、我が国から地理的にも遠いこともあり中小型船舶の市場とはいえない。
〈ウルグアイ〉
 ウルグアイの保有船舶は約12万総トンで年々減少傾向にある。当会会員の常石造船(株)が、かつて同国に進出し牧畜業、造船業を経営したが、今は撤退している。地理的ハンデもあり今のところ中小型船舶の需要も特にないので市場としては当面の間、期待はもてない。
〈エクアドル〉
 エクアドルの沖合いは太平洋でも有数の好漁場で漁獲物は重要な輸出商品となっている。過去に我が国からも水産無償による漁船供与があるが、当面の間はこのような無償供与による漁船しか期待できない。
〈コロンビア〉
 コロンビアは中南米でも有数の良質な石炭の埋蔵量を持っている。また、有望な石油埋蔵も発見されており経済発展が見込まれている。同国の保有船舶量は約12万総トンに過ぎないが今後の経済成長に伴い近い将来、中小型船舶の好市場となりうる要素を持っている。
〈チリ〉
 チリは、かつてスペインの植民地であったため本国との交易を活発にしていくうえで海運業は重要であった。保有船舶量は約72万総トンあるが、特に船舶拡充計画もなく我が国の船舶輸出市場とはいえない。
〈パラグアイ〉
 1983〜84年に我が国の円借款並びに輸銀資金により総額185億円の船舶を輸出したがその後は、特に船舶の増強は図ってはいない。今後も、前回納入した船舶の代替建造しか需要はないものと判断される。
〈ブラジル〉
 ブラジル造船業は、政府の自国優先主義並びに船舶拡充計画により発展し南米における最大の造船国になっている。同国は、我が国にとって中南米市場における強力なライバル国であり常に、その動向を把握する必要がある。
〈ベネズエラ〉
 豊富な原油、金、ダイヤモンド等の鉱産物に恵まれた同国は今後、大きく飛躍する可能性を秘めている。海運業も原油の輸出により増強され、さらに政府の自国海運の強化・育成政策により今後も伸びていくことが予想される。自国の造船業はめぼしい造船所もないので、海外発注になるが近隣国にブラジルが控えていることもあり、我が国は地理的条件からしても不利であるが、日本造船業の短納期、技術力等をアピールすることで充分対抗できるものと考えられる。
〈ペルー〉
 1990年、日系のフジモリ大統領の就任により経済再建が図られているが、保有船舶量は、約34万総トンで、年々減少している。同国は一般商船の市場とはいえず、むしろ無償供与による漁船、小型船舶等にターゲットを絞るべき市場といえる。
 以上のように、33カ国の基礎資料を整備することが出来たので、今後の中小型船舶の輸出対策樹立の指針とすることができた。





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