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■事業の内容

航海に必要とされる海況の把握には、海洋観測データが利用されている。海洋観測データの取得には、船艇、観測ブイ、観測衛星等が利用されているが船艇や観測ブイの使用には莫大な経費がかかり、また観測衛星による場合は雲等の障害があり、航海に必要とする海洋データは必ずしも充分とは言えない現状にある。
 近年、合成開口レーダの技術が開発されたことにより、衛星からのデータにより陸域では高精度の大縮尺地形図の作成や微小断層の発見等の研究が進められている。合成開口レーダの海洋への利用は、航空機に搭載し遭難船の発見等の捜索実験に現在試みられている。本手法はレーダによる撮像であることから、観測は全天候型であり昼夜の制限もない。レーダから得られる海面の微小な凹凸から波浪、風、海流等を抽出する解析手法の開発・有効性を検証することにより、新しいセンサーによる高能率な海洋観測手法を確立し、航行船舶の安全に寄与することを目的とし、本事業を実施した。
(1) 画像及び海況データの収集・整備・解析
 調査研究対象として、波浪、海流を選定し、北海道留萌沖、伊勢湾等の衛星搭載型の合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar) 画像データを、財団法人リモートセンシング技術センターから入手した。又関連する船舶観測データ及び沿岸波浪観測データを、海上保安庁水路部及び運輸省の波浪観測施設から調査・収集した。入手SARデータに雑音除去、フィルタ等前処理及び幾何補正を行い地図座標合わせ等の画像作成解析作業等を行い、両データを比較し、流向・流速等の海況要素把握の可能性を検討した。
 航空機搭載型SARについては、実際のデータが入手できなかったため、既存の知見による検討のみを行った。
 なお、流氷について、オホーツク海を対象として前年度課題となった解析手法の一般化・高度化について検討した。
(2) 両データの比較及び海況要素把握の可能性
熊野灘から潮岬付近までの黒潮北縁を含む海域について、フィルター等の前処理後のSAR画像データと船舶観測(海流、水温)データを比較し、海流解析を実施した。
 SAR画像上の黒い線状のパターンと海流の流速及び水温の急変部分とが一致することが判明した。
 また、北海道留萌沖についての両データによる波浪解析では、レーダ画像から後方散乱係数を算出・検討し、実測波高と相関関係が認められる結果を得た。波向について2次元フーリエ解析を行ったが今回のデータからは検出は十分でなかった。
(3) 解析手法の総合的検討・評価
流氷、海流及び波浪を対象とした解析手法を総合的に検討・評価し、海域調査の有効な一手法であるとの結論に達した。
(4) 報告書
 [1] 題 名  「合成開口レーダを用いた海域情報解析技術の作成」その3
 [2] 規 格  A4判 90頁
 [3] 数 量  報告書200部
 [4] 内 容  調査結果を取りまとめて作成する
 [5] 配布先  関係官庁、海事関係団体、賛助会員他
■事業の成果

衛星の合成開口レーダ(以下、SAR)画像を用いて、海域情報の解析手法を研究した。
(1) 流氷については、海面とに輝度差がある場合は比較的容易であるが、海面に風波がある場合や新生氷があるなど条件の悪い場合は、統計値による解析手法を用いることにより流氷と海面の分離識別がある程度可能となった。
(2) 海流については、流速急変部において輝度値の低下が見られることが確認され、流軸もしくは強流域の境界の位置を決めるのには有効な手段である。
(3) 波浪については、風向・風速条件をほぼ同一に揃えるとある程度の判定が可能となった。今後は、より定量的な解析技術の開発を進めることにより波浪、海流等の検出が容易となる可能性がある。
(4) SAR画像は、可視・赤外画像に比べ直感的に解釈することが難しいことや撮影から画像入手まで時間がかかる等短所もあるが、雲の影響を受けにくく、昼夜の区別なく利用できるなど大きな特徴を有していることから流氷、海流等の海洋観測分野での実利用の可能性が高い。特に、航空機搭載型SARは、所要経費の点を除けば、任意の日時に高度、コース、方向を自由に設定して観測できることから、海況情報に限らず油流出、遭難船の捜索など海域情報の解析手法には非常に有効な手段と考えられる。





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