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1998年(平成10年)

平成9年広審第69号
    件名
漁船栄勢丸爆発事件

    事件区分
爆発事件
    言渡年月日
平成10年12月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、釜谷獎一、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:栄勢丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
操舵室及び機関室の各出入口引き戸破損、同乗者2人が身体の広範囲の部分に1箇月半の、船長が顔面や両手などに半月の入院加療を要する熱傷

    原因
ガスこんろのゴムホースの離脱防止措置不十分

    主文
本件爆発は、ガスこんろのゴムホースの離脱防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月29日12時38分
愛媛県北条港
2 船舶の要目
船種船名 漁船栄勢丸
総トン数 4.90トン
全長 13.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
栄勢丸は、昭和52年5月に進水した、小型機船底びき網漁業に従事する幅2.54メートル深さ0.87メートルの1層甲板型のFRP製漁船で、甲板下には、船首方から順に漁具庫3個及び生け間6個、次いで船体中央部から船尾方にかけて長さ2.32メートルの機関室、油圧装置室及び舵機室が設けられ、甲板上には、船首端より5.85メートルのところから船尾方に、幅1.38メートル長さ0.93メートル高さ0.86メートルの機関室囲壁が、これに隣接して幅1.38メートル長さ1.39メートル高さ1.52メートルの操舵室囲壁がそれぞれ配置されていた。
操舵室は、機関室後部の上方に設けられており、操舵室内の前部壁の上方に幅1メートル高さ36センチメートル(以下「センチ」という。)の窓枠を設け、その下方にある棚に主機操縦盤及び時計などを設置し、右舷側壁の上方には幅及び高さともに36センチの引き戸式ガラス戸2枚、その後部に舷灯、マスト灯及び作業灯などのスィッチを組み込んだ配電箱が、左舷側壁には右舷側と同様なガラス戸2枚とその後部に主電源及び室内灯などのスイッチを組み込んだ船内直流電源用配電盤がそれぞれ設けられていたほか、同室の出入口として、後部囲壁の甲板上から高さ30センチのコーミングに幅約50センチ高さ約1メートルのアルミニウム合金製出入口引き戸2枚が取り付けられていた。
また、操舵室内の床は、船体中央から右舷及び左舷の各方向に長さ約65センチ幅約13センチの木板を敷きつめて造られており、床上から天井までの高さが約1.32メートルであった。
一方、機関室は、その中央にヤンマーディーゼル株式会社が製造した3L型と称する主機が据え付けられ、同室の出入口として、前部囲壁の右舷側に開口部が設けられ、同部に幅47センチ高さ57センチの合板製引き戸1枚が取り付けられていたが、同室には後部囲壁が設けられておらず、操舵室前部壁に設けられた棚の下方から容易に機関室の内部をのぞくことができるようになっていたので、操舵室内にプロパンガスなど空気より密度の大きい気体が漏洩(えい)すると容易に機関室内に侵入する構造であった。そのうえ同室には、電動の通風機や自然通風による換気孔などが設けられていなかったので、侵入した気体が滞留しやすい状況でもあった。
A受審人は、本船竣工時から船長として乗り組み、愛媛県柳原漁港を基地として、朝出港して午後帰港するいわゆる日帰り操業を繰り返していたもので、操舵室内で簡単な煮炊きができるよう、高さ約20センチ1辺の長さ約37センチの木箱に入れたガスこんろ及び冬期に暖をとるためのガスストーブをそれぞれ同室床上に置き、同床上前部の左舷側端に10キログラム入りプロパンガスポンベ1本をロープで固縛し、同ボンベの調整器出口のガス管口に長さ約2メートルのゴムホースの一端を差し込み、これをホースバンドで固定し、同ボンベに同ホースを数回巻き付けてその長さを調整したうえで、必要に応じて同ホースの他端をガスこんろやガスストーブのガス管口に付け替えて使用しており、同ボンベが空になった際には自らその入替えを行っていた。
ところが、A受審人は、それまで使用していたガスこんろが古くなったので、平成8年2月に直径約20センチのごとくを有する丸型手動点火式の中古のガスこんろを知人から譲り受け、それを木箱に入れて操舵室に置いていたところ、気温が上昇してガスストーブが不要となった翌々4月上旬ガスストーブからゴムホースを取り外し、木箱の側板に設けた縦約2センチ横約3センチの穴部から挿入した同ホースをガスこんろのガス管口に差し込み、ガスこんろだけを使用することとした。しかしながら、同人は、同ホースをガスこんろのガス管口に十分差し込んでおけば大丈夫と思い、ホースバンドで固定するなどして、同ホースの離脱防止措置を講じることなく、今まで通りガスこんろを木箱に入れて操舵室床上の左舷壁の近くに置き、ガスこんろを使用するその都度、同室床上の中央部などに箱ごと移して使用していたものの、同ホースの長さに余り余裕をもたせていなかったうえ、使用していた同ホースが経年劣化で硬化気味となっていたことなどから、いつしかガスこんろのガス管口に差し込まれていた同ホースが接続の緩みによりガス管口から抜け出るおそれのある状態となった。
本船は、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同年5月29日06時30分柳原漁港を発し、07時ごろ同漁港西方沖合の漁場に至って操業を開始し、10時ごろ操業を終えて愛媛県北条港に向かい、11時ごろ北条港灯台から真方位140度240メートルの岸壁に船首を西方に向け、左舷側を横着けに係留した。
A受審人は、機関を停止して機関室出入口引き戸を閉め、操舵室で主電源スイッチを切って係留作業を終え、生け間に入れていたいかを整理していたとき昭和5年生まれの友人Bが本船に遊びに来たので、11時30分ごろガスこんろを入れた木箱を同室床上のほぼ中央部に移してプロパンガスボンベの元栓を開弁し、ライターでガスこんろを点火していかを焼き、手持ちの日本酒を2人で飲酒していたところ、新たに大正6年生まれの友人Cが訪船して来たところから、A受審人が同室前部床上の左舷側に船尾方を向き、その右舷側にC友人が、開放していた同室の右舷側出入口引き戸の敷居上にB友人が船首方を向き、各自あぐらをかいた姿勢で飲酒を続け、そのうち焼くいかが無くなったので、12時過ぎにガスこんろのコック式ガス栓を閉弁して消火したが、同ボンベの元栓を閉弁するには狭い同室内で体を船首方に向きを変え、棚の下方に体を入れて行わなければならなかったことから、出港してから同元栓を閉弁することとした。
こうして、A受審人は、C友人が持ってきた日本酒約7合も3人ですべて飲酒し終えたので、12時30分ごろ出港準備をしようと立ち上がり、操舵室出入口引き戸に向かって体を移動したとき、友人から出港時間を少し遅らせるよう強く言われたので、再度同じ箇所に座り直したものの、このとき足がガスこんろのゴムホースに引っ掛かり、ガスこんろを入れた木箱が同室床上の左舷側後方に移動し、同ホースがガスこんろのガス管口から抜け出して左舷側壁近くの床上にのびたままとなり、プロパンガスが漏洩して床上に流れ、更に機関室内に流入して滞留するようになったが、焼いたいかのにおいが操舵室内などに残留し、機関室からの油類のにおいも強く、酔いもまわっていたうえ、少し難聴気味で、鼻も余り良くなかったことなどから、このことに気付かないまま雑談しているうち、12時38分前示の係留地点において、喫煙しようとライターを点火した瞬間、漏洩して爆発濃度となっていた同ガスが着火、爆発した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、港内は平穏であった。
爆発の結果、本船は、操舵室及び機関室の各出入口引き戸が吹き飛んで破損し、B及びC両友人が身体の広範囲の部分に1箇月半の、A受審人が顔面や両手などに半月の入院加療を要する熱傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件爆発は、ガスこんろのゴムホースの離脱防止措置が不十分で、ホースバンドを装着しないまま使用されていた同ホースがガスこんろのガス管口から抜け出し、漏洩したプロパンガスが操舵室直下の機関室内に滞留し、喫煙時のライターで着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、操舵室で使用するガスこんろにゴムホースを取り付ける場合、同ホースが抜け出してプロパンガスが漏洩することのないよう、ガスこんろのガス管口にホースバンドを使用するなどして、同ホースの離脱防止措置を講じるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ホースをガスこんろのガス管口に十分差し込んでおけば大丈夫と思い、同ホースの離脱防止措置を講じなかった職務上の過失により、ガスこんろのガス管口から同ホースが抜け出したことに気付かず、同ガスが漏洩して爆発を招き、操舵室及び機関室の各出入口引き戸を破損させたほか、友人2人に長期間の入院加療を要する広範囲熱傷を負わせ、自らも入院加療を要する熱傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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