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1998年(平成10年)

平成10年那審第20号
    件名
プレジャーボート天馬転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年11月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、小金沢重充
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:天馬船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船外機濡損、小物入れのさぶた3個流失

    原因
磯波に対する配慮不十分

    主文
本件転覆は、うねりによる高い磯波に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月28日17時00分
沖縄県八重山列島嘉弥真島北方
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート天馬
登録長 5.16メートル
全長 6.42メートル
幅 1.85メートル
深さ 0.60メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 36キロワット
3 事実の経過
天馬は、船体後部に操舵装置、船尾端に船外機を備え、船尾部に3個の小物入れを設けたFRP製プレジャーボートで、ルアーによるひらあじ釣りの目的で、A受審人が単独で乗り組み、船首0.08メートル船尾0.19メートルの喫水をもって、平成9年11月28日09時00分沖縄県ユブ島の船着場を発し、同島東方の小浜航門周辺で釣りを行ったあと、同県嘉弥真島周囲に拡延するさんご礫帯の北縁周辺海域に向かった。
ところで、嘉弥真島北方のさんご礁帯は、同島北端から北右約400メートルを東西にほぼ直線状に4,000メートルばかり延び、その外縁の北方が数十メートルの水深まで急傾斜して落ち込んでおり、その外縁周辺には魚類が多く集まっていたが周辺海域に風浪やうねりがあるときには、外縁に沿って高い磯波が発生しやすい地形となっていた。
16時32分A受審人は、同県小浜島大岳99メートル頂(以下「大岳頂」という。)から072度(真方位、以下同じ。)6,700メートルの地点に達したとき、嘉弥真島北方のさんご礁帯の外縁には、時折、高起した磯波が生じることを知っていたので、外縁に近付き過ぎないように、同外縁から北側に5ないし10メートル離すことにし、針路を280度に定め、機関を回転数毎分3,000の微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で進行しながら釣りを行ったが、朝から全く釣れていなかった。
16時57分少し前A受審人は、大岳頂から045度3,800メートルの地点に達したとき、風がほとんどなかったことから、もう少し外縁に近付いても大丈夫と思い、うねりによる高い磯波に対する配慮が不十分で、外縁から離すことなく、操舵装置の後ろに立ち、右手で操舵輪を握り、針路を251度に定め、左手で釣り竿を持って外縁に接近した。
こうして、天馬は、17時00分大岳頂から040度3,300メートルのさんご礁外縁に著しく接近した地点に達したとき、高起した磯波を右舷正横方から受けて船体が持ち上げられて左舷側に大傾斜し、船首が251度に向いたまま復原力を喪失して左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、石垣島地方沿岸海域では、前々日26日16時25分に発表された波浪注意報が28日15時30分に解除されていたが、嘉弥真島北方のさんご礁外縁にはうねりにより時折2ないし3メートルに高起する磯波があった。
転覆の結果、天馬は船外機の濡れ損を生じ、小物入れのさぶた3個を流失し、のち船外機については修理され、さぶたについては新しく作られた。
A受審人は転覆した天馬の船底につかまっているところを、沖合を通り掛かったプレジャーボートによって救助された。

(原因)
本件転覆は、沖縄県八重山列島嘉弥真島北方のさんご礁の外側で釣りを行うにあたり、うねりにより時折発生する高い磯波に対する配慮が不十分で、磯波の高起しやすいさんご礁の外縁から離すことなく接近して進行中、右舷側から大波を受け、復原カを喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県八重山列島嘉弥真島北方のさんご礁の外側で釣りを行う場合さんご礁の外縁では、時折高起した磯波が発生することがあったから、うねりによる高い磯波に十分配慮して、磯波の高起しやすい外縁から離すべき注意義務があった。
しかるに、同人は、風がほとんどなかったことからもう少し近付いても大丈夫と思い、うねりによる高い磯波に十分配慮せず、外縁から離さなかった職務上の過失により、大波を右舷側から受け、持ち上げられた船体が左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆する事態を招き、船外機の濡れ損及び小物入れのさぶたの流失を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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