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1998年(平成10年)

平成10年門審第31号
    件名
プレジャーボートアラカブ転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年9月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、伊藤實、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:アラカブ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体沈没全損、同乗者1人が溺水によって死亡

    原因
気象・海象に対する判断不適切(波浪)

    主文
本件転覆は、波浪に対する判断が不適切で、避難する時機を失したことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月28日17時15分
福岡県倉良瀬戸東口
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアラカブ
登録長 7.60メートル
幅 1.84メートル
深さ 0.76メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 44キロワット
3事実の経過
アラカブは、船外機付きのFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人4人を乗せ、遊漁の目的で、船首尾とも0.25メートルの喫水をもって、平成8年10月28日10時30分福岡県遠賀郡芦屋町の西川に架かる新西川橋近くの係留地を発し、同県倉良瀬戸東口の釣り場に向かった。
ところで、アラカブは、昭和55年ごろに建造され、平成2年にA受審人が友人1人と共有し、その後同受審人1人の所有になったもので、船体周囲が高さ30センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークで囲われ、甲板上には、船体中央部やや船尾方に高さ1メートルの操舵室があり、船首甲板下に船首側から物入れ2箇所及び生けすが、船尾甲板下に生けす及び燃料タンク入れの合計5箇所の船倉が備えられ、これらの船倉には、縦方向の長さ50センチ横方向の長さ50センチから70センチの倉口が設けられ、各倉口の高さ5センチの縁材の上には、非水密のFRP製の蓋(ふた)がかぶせられていた。A受審人は、本船を週に1回の頻度で遊漁の目的に使用していたが、平成6年ごろから甲板が劣化して小さな亀(き)裂が生じ、降雨時には雨水がこれらの亀裂から各船倉に流入して船底にたまる状態となっていた。
出航時、A受審人は、各船倉の蓋を開けて船底に浸水がないことを確認し、船首甲板の船首側船倉にシーアンカー及びロープを、その後方の船倉に重さ5キログラムの錨及びロープを入れ、船尾甲板の最後部船倉内の燃料タンクにガソリン85リットルを搭載したが、7個の救命胴衣を大きなビニール袋に入れたまま操舵室の床に置き、同乗者に救命胴衣の着用を指示することなく、自らも着用せず、その置場所についても同乗者に説明していなかった。
11時10分A受審人は、倉良瀬灯台から276度(真方位、以下同じ。)600メートルの釣り場に至り、パラシュート型シーアンカーに長さ6メートルのロープを取り付けて船首から投入し、折からの風潮によって船首を東に向けて東北東方に流されながら漂泊し、2つの生けすの船底栓を抜き、海水を張って蓋をかぶせ、自らは船尾部左舷側に、同乗者の1人を同右舷側に、他の3人の同乗者を船首甲板にそれぞれ配置して釣り竿(ざお)を用いて釣りを開始した。
A受審人は12時ごろ、それまで穏やかだった海上が高さ50センチの波浪となり、15時ごろから風が強くなって波浪も高まり、約1メートルの波浪が船尾甲板にたびたび打ち込み、甲板上にたまった海水が甲板の亀裂や倉口蓋のすき間からしだいに各船倉に流入し、その後船体が徐々に沈下して復原力が減少する状況となったが、前夜入手した気象情報からこれ以上波浪は大きくなることはないから大丈夫と思い、速やかに遊漁を中断して波浪の影響のない海域に避難することなく、魚釣りを続けた。
17時13分A受審人は、釣りを終えで帰港しようと思い、同乗者の1人に船首のシーアンカーを引き揚げるように指示し、生けすの船底栓を締めようとして船尾甲板の生けすの蓋を開けたところ海水が甲板際まで一杯となっているのを認め、更に最後部の燃料タンクを入れた船倉の蓋を開けたところ、同様に海水が一杯となっているのを認め、手空きの同乗者3人と共にバケツで海水の汲(く)み出しを始めたところ、折から1メートル以上の波高となった波浪が船尾から打ち込み、船尾甲板に大量の海水が流入して船体が右舷方に傾斜し、船尾甲板上の4人が左舷方に移動したところ、船体が左舷方に大傾斜し、更に大波を受けで海水が流入して復原力を喪失し、アラカブは、17時15分倉良瀬灯台から071度4,000メートルの地点において、船首を東に向け、左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近海域には東北東に流れる0.4ノットの海潮流があった。
その結果、アラカブは、船底を上にして浮いていたものの、その後船尾から徐々に沈没して全損となり、海中に投げ出されたA受審人及び同乗者4人は、いったんアラカブの船底にはい上がっていたが、船体が沈没したのち、岸に向かって泳ぎ始めたところ、付近航行中の船舶に発見されて全員収容されたが、同乗者B(昭和16年5月1日生)が溺水によって死亡した。

(原因)
本件転覆は、福岡県倉良瀬戸東口において、船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、漂泊して遊漁中、波浪が強まった際、波浪に対する判断が不適切で、波浪の影響のない海域に避難する時機を失し、甲板に打ち込んだ波浪が甲板の亀裂及び倉口蓋のすき間から船倉に流入して徐々に復原力が減少し、更に大波を受けて復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、福岡県倉良瀬戸東口において、船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、漂泊して遊漁中、波浪が強まって甲板に打ち上げるようになった場合、甲板の亀裂及び倉口蓋のすき間から海水が船倉に流入し、復原力が徐々に減少して転覆するおそれがあるから速やかに遊漁を中断して波浪の影響のない海域に避難するなど、波浪に対する判断を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これ以上波浪は大きくなることはないから大丈夫と思い、波浪に対する判断を適切に行わなかった職務上の過失により、速やかに遊漁を中断しで波浪の影響のない海域に避難しないまま魚釣りを続け、甲板に打ち込んだ波浪が甲板の亀裂及び倉口蓋のすき間から船倉に流入して徐々に復原力が減少し、更に大波を受けて復原力を喪失して転覆を招き、船体を沈没させ、同乗者1人を溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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