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1998年(平成10年)

平成10年横審第17号
    件名
作業船第二十二金竜丸被引土質調査専用浮体転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年9月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、川原田豊
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第二十二金竜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
スパッド4本が海底に接触して折損し、ボーリング装置が流失

    原因
気象・海象に対する配慮不十分(高波)

    主文
本件転覆は、気象海象に対する配慮が不十分で、隆起した高波を受け、スパッドを備えた被引土質調査専用浮体が大傾斜したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月30日07時45分
三重県神島漁港北側海域
2 船舶の要目
船種船名 作業船第二十二金竜丸 土質調査専用浮体(船名なし)
総トン数 19トン
全長 17.00メートル 7.6メートル
幅 7.6メートル
深さ 1.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
第二十二金竜丸(以下「金竜丸」という。)は、曳(えい)航装置を備えた鋼製作業船で、A受審人ほか1人が乗り組み、三重県神島漁港で調査を終えた鋼製土質調査専用浮体(船名なし、以下「浮体」という。)を曳航し、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成9年9月30日07時30分同漁港を発し、同県四日市港に向かった。
ところで、浮体は、長さ6.0メートル幅2.0メートル深さ1.0メートルの鋼製箱2個を2メートルの間隔で並べ、長さ6メートルのH型鋼5本を前後部及び中間部3箇所に差し渡す形で接続して双胴型とし、双胴の間隙(げき)に発泡スチロールを充填(てん)し、四隅に設けた長さ0.9メートルのスパッド用張り出し部に直径0.32メートル高さ23メートルで下端にフーティングを付けた鋼製スパッドと、スパッド昇降用ウインチが設置され、発泡スチロール上面に張られた木製敷板の中央部には、海底土質調査用ボーリング装置が鎖で固定されていた。当時、浮体は、前後部とも0.3メートルの等喫水で、スパッドのフーティングを底部からさらに1メートル突出し、スパット頂部を上甲板から21メートルの位置まで引き上げた状態となっており、重心位置が底部から6.6メートルと高く、メタセンター高さが10メートルあることから静水中では安定しているものの、外力によって縦横いずれかに大傾斜すると、容易に不安定となる状態であった。
また、神島漁港北側の海域は、約10メートルの水深が防波堤の沖合約100メートルまで続き、そこから水深が急に深くなっていて、北寄りの風が吹くと高波の隆起しやすい海域であった。
こうしてA受審人は、浮体を、直径12ミリメートル長さ8メートルの鋼製曳索で前部中央のビットから金竜丸のトウイングフックに、直径12ミリメートル長さ5メートルの鋼製曳索で前部両舷のビットから金竜丸の曳航用ビームの両舷支柱にそれぞれとり、金竜丸の3メートル後方に位置させて曳航し、07時37分半神島港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から072度(真方位、以下同じ。)280メートルの地点において、針路を245度に定め、主機回転数毎分1,000にかけて3.0ノットの曳航速力とし、手動操舵で港内を進行した。
A受審人は、07時40分神島漁港の入口に達したとき、沖合には北西風が強吹し、白波が立っているのを認めたが、午後には風が治まるとの気象情報を得ていたことから大したことはあるまいと思い、重心位置の高い浮体を曳航するに際し、発航を取りやめるなど気象海象に対する配慮を十分に行うことなく、港外に向けて続航した。
A受審人は、神島漁港の入口を出たのち、07時41分北防波堤灯台から204度40メートルの地点で、針路を327度に転じたところ、波浪を船首方から受けるようになり、曳航速力が1.0ノットに低下し、縦揺れが始まったものの、浮体を監視しながら進行中、同時45分わずか前隆起した約3メートルの高波を前方から受け、同波に乗った浮体が後方への傾斜を曳航索で持ち堪(こた)えたものの、続いて前方に傾斜し、曳航索が浮体のビットから外れるとともに、前方傾斜が増大して復原力を喪失し、07時45分北防波堤灯台から306度110メートルの地点において、浮体がそのまま前方に転覆した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、海上は波がやや高かった。
転覆の結果、スパッド4本が海底に接触して折損し、ボーリング装置が流失したが、金竜丸が自力で浮体を三河湾佐久島付近に引き付け、のち来援したクレーン船により愛知県衣浦港に運ばれ修理された。

(原因)
本件転覆は、三重県神島漁港から四日市港に向け、スパッドを備えた浮体を曳航する際、気象海象に対する配慮が不十分で、北西風が強吹するなかを発航し、同漁港北側の高波が隆起しやすい海域で、前方から来襲した高波に乗った浮体が前方に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、三重県神島漁港から四日市港に向け、スパッドを備えた浮体を曳航するにあたり、北西風が強吹し港外に白波が立っているのを同漁港入口付近で認めた場合、スパッドが最上位まで引き上げられ浮体の重心位置が高い状態であったのであるから、発航を取りやめるなど気象海象に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、午後には治まるとの気象情報を得ていたことから大したことはあるまいと思い、気象海象に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、北西風が強吹するなかを発航し、同漁港北側の高波が隆起しやすい海域で、前方から来襲した高波に乗った浮体が前方に大傾斜し、復原力を喪失して浮体の転覆を招き、スパッドが折損し、ボーリング装置が流失するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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