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1998年(平成10年)

平成9年横審第66号
    件名
プレジャーボート角谷丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、河本和夫
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:角谷丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
廃船

    原因
気象・海象に対する配慮不十分(荒天)

    主文
本件転覆は、荒天に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月20日13時00分
愛知県三河湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート角谷丸
登録長 7.29メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 58キロワット
3 事実の経過
角谷丸は、全通単層甲板を有する平底型FRP製プレジャーボートで、甲板下には、船首部に救命胴衣などを格納する物入れが、船尾部に蓄電池と燃料タンクの各収納場所及び物入れがそれぞれ設けられて水密でないふたが付き、その他の部分は水密の空所となっており、これら甲板下の物入れなどは浸水により復原力に影響を及ぼすことはなく、甲板上ほぼ中央部に舵輪や機関制御ハンドルなどが付いた台が設置されていたが、大きな移動物は搭載していなかった。
A受審人は、15年ほど前から趣味としてプレジャーボートを使用して魚釣りを行っていたが、角谷丸に一人で乗り組み、釣り仲間の友人2人を乗せ、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成8年10月20日07時00分愛知県衣浦港を発し、三河湾佐久島周辺の釣り場に向かった。
ところで、同日05時00分名古屋地方気象台からは、愛知県全域にわたり、強風・波浪注意報が発表されていた。
A受審人は、これまでは気象情報を入手してから出航するようにしていたが、発航時比較的穏やかな北西風であったところから前示注意報が発表されていることを知らないまま出航し、佐久島に近づいたときやや風勢が強まったものの、07時40分佐久島東灯標(以下「東灯標」という。)から018度(真方位、以下同じ。)700メートルの水深5メートルの地点に、船首から長さ約30メートルの錨索を伸出し、風が遮られる同島の東側沖合で錨泊して釣りを行った。
12時ごろ釣りを切り上げたA受審人は、荷物の整理や抜錨作業にかかり、同時15分抜錨し、機関を毎分1,500回転にかけ、6.0ノットの対地速力で佐久島の東側を回り、それまで錨地は同島で風が遮られて穏やかであったものの、島陰を抜けたところで強い北西風の影響を受けるようになったが、同時21分東灯標から022度1,350メートルの地点で、手動操舵によって針路を風上に向首する308度に定め、機関回転数は変えないまま、対地速力4.3ノットで進行した。
定針時A受審人は、強い北西風の影響を受けて船体が大きく縦揺れを始め、これまで自身が経験したことのない激しい荒天となったが、強風・波浪注意報の発表を知らないまま、何とか帰航できるものと思い、荒天に対する配慮を十分に行うことなく、もとの錨地や同様に強風を遮ってくれる同錨地の北側の湾内などに避航せずに続航した。
A受審人は、船首方からの風と波浪が強まって何度か波をかぶるうち、12時55分ごろ波ケ埼灯台から344度2,900メートルばかりの地点に達したとき、船尾から打ち込んだ波で蓄電他が短絡して機関が停止し、再始動を試みるも起動しないまま操船の自由を失い、風で次第に南西方に向首するようになって横揺れが激しくなり、転覆の危険を感じて友人とともに救命胴衣を着用し、海中に脱出して見守るうち、角谷丸は13時00分波ケ埼灯台から344度2,900メートルの地点において、右舷側から一段と高起した波を受け、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力7の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
転覆の結果、角谷丸は漂流中のところ翌21日同県渥美郡立馬埼沖で発見され、衣浦港に引きつけられたがのち廃船となり、A受審人及び友人2人は通りかかった僚船に救助された。

(原因)
本件転覆は、三河湾において、強風・波浪注意報が発表されているとき、釣りを終えて帰航中、荒天に対する配慮が不十分で、強風を遮る錨地で荒天をしのぐことなく続航し、打ち込んだ波により機関が停止して操縦の自由を失い、右舷側から高起した波を受け、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、強風・波浪注意報が発表されているとき、釣りを終えて帰航中、進行方向から風や波を受けて縦揺れが大きくなった場合、これまでに経験したことがない荒天であったから、機関が停止して操縦の自由を失わないよう、強風を遮る錨地で荒天をしのぐなど、荒天に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、何とか帰航できるものと思い、荒天に対する配慮を怠った職務上の過失により、もとの錨地や同様に強風を遮ってくれる同錨地の北側の湾内などに避航をせずに続航して波の打ち込みを受け、機関が停止して操縦の自由を失い、高起した波を受け、復原力を喪失して転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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