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1998年(平成10年)

平成9年横審第86号
    件名
プレジャーボート第六みどり丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、川原田豊、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第六みどり丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
操舵室などに損傷

    原因
気象・海象に対する配慮不十分(高波)

    主文
本件転覆は、高波に対する配慮不十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月29日12時20分
茨城県日立港久慈川河口
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート第六みどり丸
全長 7.14メートル
登録長 6.28メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 62キロワット
3 事実の経過
第六みどり丸(以下「みどり丸」という。)は、船尾端に船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成8年9月29日06時55分ごろ、茨城県久慈川河口から約1,500メートル上流の同川左岸の定係地を発し、全員が救命胴衣を着用して、同県日立港の東方沖合の釣り場に向かった。
ところで、久慈川は、下流域ではほぼ西から東に流れて日立港に達し、河口付近の左岸には日立港第5埠頭の護岸が、同右岸には河口から東方約200メートル沖合まで防波堤が築造され、これらに沿って消波用ブロックが設置されており、同防波堤の南側は遠浅の砂浜となっていた。また、同護岸と防波堤との間の水路は、南東方に開け、防波堤の先端付近で可航幅が約200メートルと最も狭く、水深も浅いため、上げ潮時に沖合からの風浪の影響が加わると、不規則な高波が発生しやすい水域となっていた。
A受審人は、河口付近の水域で不規則な高波が発生しやすいことを承知しており、発航前の同日05時50分ごろ河口付近に赴いて海上模様が平穏であることを確認し、発航後、1人で操船に当たり、適宜の針路及び機関回転数毎分1,000の7.0ノットの対地速力で、手動操舵によって久慈川を下り、河口付近を通過したところで、毎分2,000回転の16.0ノットは増速し、07時08分ごろ日立港の東方約1海里沖合の釣り場に至ってトローリングによりいなだ釣りを始めた。
A受審人は、釣り場を適宜移動しながらトローリングを行ったが、釣果が上がらなかったので、定係地に帰航することにし、同乗者を船首及び船尾甲板にそれぞれ座らせ、自らは操舵装置の後方に立って操船に当たり、12時09分日立港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から100度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点を発進し、針路を267度に定め、機関回転数毎分2,000の16.0ノットの対地速力で、手動操舵により久慈川河口に向けて進行した。
12時17分A受審人は、南防波堤灯台から176度860メートルの地点に達したとき、久慈川河口付近の水域一面に白波が立ち、特に護岸と防波堤との間の水路では、時折、波高が2ないし3メートルにも達する高波が立ち上がっているのを認め、そのまま同水域に進入すれば、高波を受けて転覆するおそれがあったが、高波の合間を進行すれば大丈夫と思い、高波が治まるまで日立港内の船だまりに一時避難するなど、同水域への進入を中止する措置をとることなく、同時18分同灯台から205度980メートルの地点において、水路のほぼ中央に向く315度の針路に転じ、同じ速力で続航した。
12時19分A受審人は、南防波堤灯台から237度970メートルの地点に至って、高波が発生している水域に進入し、前路の高波の状況を見て、毎分1,000ないし2,000回転に機関を操作して増減速を繰り返しながら約8.0ノットの対地速力で波間を進行中、12時20分南防波堤灯台から253度1,060メートルの同水路の最狭部において、突然船尾部から高波が打ち込んで同部が冠水し、直後に船首が立ち上がるようにして左舷側に大きく傾斜し、復原力を喪失して、そのまま左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、久慈川河口水域では、波高2ないし3メートルの高波が発生していた。
転覆の結果、海中に投げ出されたA受審人ら4人は、みどり丸に取り付いて漂流していたところを地元漁船に救助され、みどり丸は、久慈川左岸に曳航され、操舵室などに損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件転覆は、茨城県日立港内の久慈川河口水域において、釣りを終えて同川上流の定係地に向け帰航中、高波に対する配慮が不十分で、高波の発生している同水域に進入し、高波を受けて船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、茨城県日立港東方沖合で釣りを終え、久慈川上流の定係地に向け帰航中、同川河口水域に高波が発生しているのを認めた場合、同水域に進入すると高波を受けて転覆するおそれがあったから、高波が治まるまで同港内の船だまりに一時避難するなど、同水域への進入を中止すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、高波の合間を進行すれば大丈夫と思い、同水域への進入を中止しなかった職務上の過失により、高波を受けて船体が大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、操舵室などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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