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1998年(平成10年)

平成9年長審第81号
    件名
漁船神力丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成10年12月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:神力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機、各ポンプ等修理、プロペラ、プロペラ軸及び引上軸、GPS、魚群探知機、主機計器盤、配電盤等の計器類すべてを新替え

    原因
流木接触後の点検不十分

    主文
本件沈没は、流木接触後の点検が不十分で、機関室浸水に対する処置が遅れたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月17日10時ごろ
熊本県菊池川河口沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船神力丸
総トン数 3.4トン
登録長 11.87メートル
幅 2.17メートル
深さ 0.77メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 244キロワット
回転数 毎分2,520
3 事実の経過
神力丸は、昭和59年3月に竣工し、熊本県熊本市の河内港を基地として採介藻漁業や刺網漁業などに従事する全長約13.0メートルのFRP製漁船で、直径750ミリメートル(以下「ミリ」という。)ピッチ1,050ミリの右旋3翼一体型のプロペラ、直径50ミリ長さ約2.5メートルのプロペラ軸同軸引上装置等を備え、船首部に揚網機を設け、船首端から機関室前部隔壁までの長さ約7.6メートルの前部甲板下に、船首倉庫、浮力室、魚倉等を、前部甲板より約0.6メートル高く、船尾部が約1.0メートル張り出した後部甲板下に機関室を、同室の中央部真上に操舵室をそれぞれ配置し、機関室の前部に減速逆転機付きの主機を据え付け、主機の前部動力取出軸に、最大吐出量毎分約80リットルのビルジ兼雑用海水ポンプ、操舵機用油圧ポンプ、直流発電機及び揚網機用油圧ポンプを接続してあった。
ところで、プロペラ軸は、船尾管の後方至近のところで、自在継手を介して減速逆転機の出力軸と接続し、プロペラの先端から約0.5メートル離れたところに同軸吊下(つりさげ)用軸受を嵌合(かんごう)してあり、同軸引上装置を作動することにより、自在継手を支点として、同軸受を上下約0.5メートルの間で移動させることができ、最も上に引き上げた場合は、機関室船底の船首尾線沿いに設けた幅約0.1メートル深さ0.2ないし0.3メートルの同軸収納用溝の中に入るようになっていた。
また、プロペラ軸引上装置は、機関室後端に設置した電動油圧ポンプ及び油圧ピストン、後部甲板上から機関室内を貫通してプロペラ軸吊下用軸受と接続する直径50ミリのプロペラ軸引上軸(以下「引上軸」という。)等からなり、引上軸がプロペラ軸収納用溝を貫通する箇所については、同溝の幅を広くし、同軸の外側にブッシングを挿入したあと、同溝の上面に木製台座と一辺の長さ130ミリの黄銅製角形フランジを重ねて置き、直径13ミリの植込みボルト4本を同フランジのボルト穴から入れて一端を船外に出し、同フランジの上面と同溝の下面の両方にナットを掛けて締め付けてあった。なお、同フランジの上面には、外径78ミリの黄銅管が溶接付けされ、長さが機関室の天井近くまである直径95ミリのゴムホースを、引上軸の外套(がいとう)として同管に嵌(は)め込んであった。
こうして本船は、車えび漁を行う目的で、A受審人と同人の妻及び長男が乗り組み、船首船尾とも約0.4メートルの喫水をもって、台風一過後の平成9年7月17日08時河内港を発し、プロペラを一番下まで下げ、同港から北方へ3ないし4海里ばかり離れた菊池川河口沖合の漁場に至って2組の流し網を投下し、A受審人が操舵室の後方で立って操船にあたり、妻と長男が前部甲板上での作業を行いながら、2ノットばかりの低速力で一方の網を曳網(えいもう)中、09時35分ごろプロペラに海中を漂っていた流木が接触してプロペラ翼プロペラ軸及び引上軸がいずれも曲損したのみならず、引上軸が右舷斜め上方に突き上げられる力を受けてプロペラ軸収納用溝のナットを掛けた部分が破断し、木製台座が上方に浮き上がって右舷方に口を開き、海水が機関室に浸入するようになった。
A受審人は、船尾に大きな衝撃を受けたので見たところ、直径約1メートルの流木が浮き上がっていたことから、その流木にプロペラが接触したものと分かり、船体の振動や主機の運転音に変化を感ずるようになったが、まさか機関室に浸水していることはあるまいと思い、機関室内の点検を行うことなく、機関室浸水に気付かないで、ビルジ兼雑用海水ポンプを運転したり、浸水箇所にロープやウエスを巻き付けて浸水量を減じたりするなどの機関室浸水に対する処置をとらないまま、曳網を終え、既に投下していた他方の網に向かって低速力のまま移動中、09時50分ごろ河内灯台から真方位290度3.3海里ばかりの地点において、船体が急に左舷方へ傾いたので異変を察し、操舵室の床に設けた機関室出入口のふたを開けたところ、主機が約0.2メートル水に漬かって船底から約0.5メートルも浸水していることに気付いた。
当時、天候は雨で風力2の南風が吹き、海上は穏やかで、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、直ちにビルジ兼雑用海水ポンプを運転して排水を開始するとともに、長男を呼んで浸水箇所にウエスを詰めさせようとしたものの、既に船尾が沈下していて噴出する水圧が高く、ウエスを詰め込むことができず、また、排水が間に合わないので僚船に救助を求め、ほどなく来援した僚船に妻と長男を移乗させた。
本船は、両舷側に僚船を接舷させて係留索をとり、僚船の応援を得て排水を続けるも好転せずA受審人が危険を感じて主機を停止し、僚船に移乗したのち、更に船尾が沈下して右舷側の係留索が切断し、間もなく浮力を喪失して10時ごろ水深約10メートルの砂地に船尾から沈没したが、翌18日引き揚げられ、主機各ポンプ等の修理に加え、プロペラ、プロペラ軸及び引上軸のほか、操舵室に設置していたGPS、魚群探知機、主機計器盤、配電盤等の計器類すべてを新替えした。

(原因)
本件沈没は、台風一過後の熊本県菊池川河口沖合において操業中、プロペラに流木が接触したあとの機関室内点検が不十分で、機関室浸水に対する処置が遅れ、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、台風一過後の熊本県菊池川河口沖合の漁場で曳網中、船尾に大きな衝撃を受けた場合、その衝撃はプロペラの流木接触によるもので、船体の振動や主機の運転音に変化を生じるようになったのであるから、軸系その他に異状がないかどうか、機関室内を直ちに点検すべ注意義務があった。しかるに、同人は、まさか機関室に浸水していることはあるまいと思い、そのまま曳網を続け、機関室内を直ちに点検しなかった職務上の過失により、主機駆動のビルジ兼雑用海水ポンプを運転して排水したり、浸水箇所にロープやウエスを巻き付けで浸水量を減じたりするなどの機関室浸水に対する処置が遅れ、機関室に多量の海水が浸入する事態を昭き、浮力を喪失して船体を沈没せしめるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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