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1998年(平成10年)

平成8年広審第32号
    件名
押船第二十養徳丸沈没事件

    事件区分
沈没事件
    言渡年月日
平成10年4月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、上野延之、亀山東彦
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:第二十養徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
航海計器及び機関に濡損等

    原因
荷役の際の確認不十分

    主文
本件沈没は、油圧式固定装置で結合した押船と台船とが積荷役を開始する際、同装置の解除確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月24日09時00分
広島県呉市 ポートピアランド土砂搬出岸壁
2 船舶の要目
船種船名 押船第二十養徳丸
総トン数 19トン
全長 13.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
第二十養徳丸(以下「養徳丸」という。)は、22軸の鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、全長55.35メートル幅15.0メートル深さ3.3メートルで、空倉時の喫水が船首0.7メートル船尾1.1メートルの被押土砂運般用鋼製台船養徳五号(以下「五号」という。)の船尾凹部に、船体のほぼ前半分を嵌合して押船例を形成し、船首尾とも1.8メートルの等喫水をもって、平成711240630分広島県呉港呉区の仮泊地を発し、土砂積み込みのため、0710分屋形石灯標から103度(真方位、以下同じ。)1.5海里のポートピアランド土砂搬出岸壁に、五号船首両舷のスパットを投入し、ランプウェイを岸壁に掛けて船首付けで係留した。
養徳丸と五号とは、養徳丸右舷側前部甲板上に設置された3台の油圧ジャッキの各ピストンをそれぞれ舷外に延ばすことによって、各ピストンの先端に取り付けられたゴム製防舷物と、同ピストンと対象位置の左舷側3個所に固定して設けられた同様の防舷物とを、五号船尾凹部両舷の内側に圧着して固定され、荷役中は、同船の喫水変化に対処するよう、同ジャッキを緩めて固定を解除し、その間両船は、養徳丸船尾両舷からそれぞれ延出した直径50ミリメートルの合成繊維索を、五号の船尾両舷に繋ぐことによって係留されていた。油圧ジャッキの操作ボタンは、操舵室と機関室にあり、A受審人は、平素、同操作を機関長に行わせていたが、当時、臨時に乗船していた機関長が作業に慣れていなかったため、自ら固定装置の解除操作を行うこととしていた。
養徳丸の甲板下は、船首から順に船首槽、燃料油槽と続き、その後部には長さ約6メートルの機関室が、さらにその後部には倉庫及び空所と区画されており、甲板上には長さ約5メートル、幅約4メートル、高さ約1メートルの機関室囲壁が設けられ、その前部には高さ幅とも約75センチメートル(以下「センチ」という。)の出入口が、後部上面には高さ約15センチで一辺の長さ約60センチの四角形のコーミングにより囲まれた出入口がそれぞれ設けられ、前部出入口下端の甲板上の高さは約9センチで、それらの水密扉は常時開放されていた。船橋は前部甲板上に組まれた高さ約5.6メートルのやぐらの上に設けられ、ブルワークは、中央部における甲板面からの高さが約70センチ、前部及び後部は約1メートルとなっており、後部甲板のブルワーク下端両舷には、高さ約2センチ、長さ約64センチの排水口が、それぞれ2箇所設置され、同船の平素の喫水では、海面から同排水口までの高さは約14センチとなり、積荷役が始まっても固定装置が解除されなかった場合、たちまち海面が甲板面まで達し、海水が機関室前部出入口から同室内に浸水するおそれがあった。
着桟後、A受審人は、食事をとり、07時55分ごろ五号上で陸上担当者と荷役の打ち合わせをしたのち、前示固定装置を解除するため養徳丸に戻ろうとして、途中、五号左舷船尾付近にある賄室をのぞいたところ、その内壁やガスレンジの汚れを認め、まだ荷役開始までに間があったことから、同室の掃除を思い立って作業を始めたところ、次第に熱中し、養徳丸に戻って五号との固定装置の解除確認を行うことなく、08時10分他の乗組員全員が荷役作業にかかり、10トン型ダンプカーが次々とランプウェイを通り、深さ約2メートルの船倉船尾側への土砂の積み込みが開始されたものの、依然固定装置の解除を失念したまま掃除を続けた。
こうして、養徳丸は、荷役が進行して五号の喫水が増加するにつれ徐々に沈下し、08時14分ごろ海面が船尾甲板の排水口に、同時16分ごろ前部機関室出入口下端にそれぞれ達し、同室に海水が流れ込み始め、同時40分ごろ中央部ブルワークも海中に没したが、そのころには浮力を喪失し、その後油圧固定装置と係船索のみで支えられ、かろうじて水面に浮いている状態となった。
A受審人は、そのまま賄室の掃除を続けていたところ、08時50分ダンプカー32台分約300トンの土砂が積み込まれ、五号の喫水が船首0.9メートル船尾2.2メートルとなったころ、異常に気付いた甲板員の「船が沈む」の声で我に返って急ぎ外に出たところ、養徳丸はすでに水船状態となって前後部機関室出入口上端が海面付近にあるのを認め、積み込んだ土砂を陸上に戻そうとダンプカーによる排出を試みたが及ばず、09時00分養徳丸は、その重量に耐えられなくなった固定装置から滑り落ち、係船索も次々に切れて沈み始め、054度を向首したまま、屋形石灯標から103度1.5海里の地点に沈没した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候はほぼ満潮時であった。
沈没の結果、航海計器及び機関に濡損等を生じたが、船体は引き上げられ、機関は、のち修理された。
養徳丸は、その後、機関室ビルジアラームを備え、それが鳴ると点火する黄色回転灯及び油圧ジャッキを緩めると点火する赤色回転灯をマスト上部にそれぞれ設置した。

(原因)
本件沈没は、広島県呉市ポートピアランド土砂搬出岸壁において、油圧式固定装置により結合された押船養徳丸と台船五号とが積荷役を開始する際、同装置の解除確認が不十分で、両船が固定されたまま土砂の積み込みが行われ、五号への積荷役が進むにつれ養徳丸も沈下し、同船ブルワーク排水口から大量の海水が機関室に浸水し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、広島県呉市ポートピアランド土砂搬出岸壁において、油圧式固定装置により結合された押船養徳丸と台船五号とが積荷役を開始する場合、五号への積荷役が進むにつれ養徳丸も沈下しないよう、固定装置の解除を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、五号上の賄室の掃除に気を奪われてこれを失念し、固定装置の解除確認を行わなかった職務上の過失により、養徳丸が沈下して機関室への浸水を招き、浮力を喪失して同船を沈没せしめ、機関及び航海計器に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法同5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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