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1998年(平成10年)

平成10年長審第5号
    件名
漁船第十五大栄丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年10月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第十五大栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
集魚灯用発電機及び魚群探知用送・受信機の修理、主機ほか各機の潤滑油新替え等

    原因
船体と岸壁の相対位置不適切、冷却海水船外吐出口が岸壁の緩衝材で塞がれた

    主文
本件遭難は、船体と岸壁の相対位置が不適切で、船内電源用発電機を直結駆動するディーゼル機関の冷却海水船外吐出口が岸壁の緩衝材で塞がれ、同機関の冷却海水管用ゴム継手が内圧の異常上昇によって外れ、海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月27日06時30分ごろ
長崎県館浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十五大栄丸
総トン数 85トン
登録長 34.95メートル
幅 6.36メートル
深さ 3.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 669キロワット
3 事実の経過
第十五大栄丸は、平成2年12月に竣工し、長崎県館浦漁港を基地とする大中型まき網漁業船団所属の中央船橋型鋼製灯船で、甲板の大部分を隆起甲板とし、船体中央部に長さ約15メートル、基線からの高さ約3.5メートルの機関室を、同室の後方に船員室をそれぞれ配置したうえ、船員室の後方中央部に糧食庫を設け、船首部分を除く舷側の上甲板と同じ高さのところに幅30センチメートル(以下「センチ」という。)の防舷材を巡らせ、機関室の右舷側にあたる防舷材の上には、同室内機器冷却海水の船外吐出管保護枠を4箇所ばかり設けてあった。
機関室は、左右両舷側とも下部を燃料油や潤滑油のタンクが占め、これらのタンクと船底並びに前部及び後部両隔壁とによって囲まれた深さ約1.5メートル幅1.1ないし2.3メートルの空所に、船首側から順に魚群探知用送・受信機、集魚灯用発電機を直結駆動するディーゼル機関(以下「1号補機」という。)、主機駆動の甲板機用油圧ポンプユニット、主機、減速逆転機等を据付け、同ポンプユニットの右方のタンクの上に船内電源用発電機を直結駆動するディーゼル機関(以下「2号補機」という。)を、これと対面するようにして左舷側のタンクの上に主配電盤と警報表示盤をそれぞれ配置してあった。
ところで、2号補機は、同2年10月ヤンマーディーゼル株式会社が製造した、4CHL-N-1型と称する連続定格出力23キロワット同回転数毎分1,800の清水冷却防式4サイクル4シリンダ・ディーゼル機開で、上部前端に清水タンク兼用の清水クーラを、右舷側の排気マニホールド下方に潤滑油クーラ及びヤブスコ式の冷却海水ポンプをそれぞれ備え、冷却海水管の呼び径を32ミリメートルとし、同ポンプによって船底から吸引加圧された海水が、清水クーラと潤滑油クーラを順に通って船外に排出されるようになっていたが、冷却海水系統の同ポンプ出入口管及び各クーラ出入口管をいずれも耐油・耐熱・耐候性仕様のゴム継手で連絡したうえ、同継手の両端とも2個のねじ止め式ホースクリップで締付けてあり、冷却海水の船外吐出口については、機関室右舷側のほぼ中央部にあたる防舷材の上に設けた、高さ約10センチ長さ約1メートルの船外吐出管保護枠内に収め、防舷材が岸壁等に接しても塞がれることのないよう、同保護枠の側端と同様に約45度上向きとしてあった。
また、A受審人は、本船に竣工時から機関長として乗組み、2号補機については、定期的な潤滑油新替え、同油こし器交換、冷却清水入替えなどを行うほか、開放整備を行う際には、ゴム継手のホースクリップを増楴めし、日常の点検で水漏れや油漏れのないことを確認していた。
こうして本船は、A受審人ほか4人が乗組み、同9年7月23日07時僚船とともに館浦漁港を発し、長崎県男女群島周辺の漁場に至って操業に従事したものの、台風が接近してきたため、同月25日僚船とともに館浦漁港に戻って避難し、翌26日台風の直撃を受けなくなったので燃料を補給し、船首2.10メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同漁港の漁具保管修理施設前の岸壁に、通常は僚船と縦列になって船首付けとするところ、17時00分ごろ船首をほぼ南南東方に向けて右舷付けとし、船首船尾とも、合成繊維製の係留索を2本ずつ乗組員の手によって岸壁上のビットにとり、明日07時出漁と定め、乗組員全員がそれぞれ自宅に帰ることになった。
着岸後A受審人は、主機を停止し、糧食庫用の空気冷却式冷凍機を停止するわけにはいかないので2号補機を運転したまま、機関室内を一巡して異状のないことを確認し、17時30分ごろ離船しようとして岸壁に上がったところ、船体が左舷側からの強い風を受けて岸壁に押付けられ、岸壁の側面に約4メートル間隔で取付けられた厚さ約25センチ先端の幅約20センチ高さ約2.5メートルのゴム製の緩衝材に、2号補機の冷却海水船外吐出口が向合っているのを見て不安に思ったものの、既に船内には誰もいなくて岸壁上に乗組員が1人いるだけで、係留索をいったん緩めて船体を前後に移動させるわけにはいかないうえ、冷却海水は激しく緩衝材に当りながらも一応排出されており、また、そのころが下げ潮の中央期であることも、潮の干満による船体の上下移動量がどのくらいになるかも知らなかったので、同吐出口が緩衝材によって塞がれることはあるまいと思い、そのまま帰宅した。
岸壁係留のまま無人となった本船は、潮位の変化によって徐々に船体の位置が低下し、やがて低潮時となって2号補機の冷却海水船外吐出口が岸壁の緩衝材の下端の斜め切口部分で間欠的に塞がれるようになり、同機の冷却海水系統内の圧力が繰返し異常に上昇し、潤滑油クーラ入口側のゴム継手の冷却海水ポンプ側が管から外れて海水が機関室に浸入するようになったものの、同継手が管から完全に外れなかったので、2号補機が冷却海水不足とならないで運転を続けるうち、機関室ビルジの異常上昇による警報を発するようになり、同月27日06時30分ごろ生月港館浦北防波堤灯台から真方位256度260メートルばかりの地点において、帰船した乗組員の1人が警報ブザーの吹鳴に気付き、近くに係留中の網船に事態を通報した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、自宅で休息中、網船から本船の機関室浸水との知らせを受け、直ちに帰船して機関室内を点検したところ、前示ゴム継手が管から外れて海水か噴出しているとともに、燃料油タンク等によって囲まれた前示空所に船底から半分ほどの高さまで海水が浸入しているのを認め、2号補機を停止して海水の浸入を止めたのち、関係先に機関室浸水のため運航不能となった旨を連絡した。
その後本船は、僚船に曳航(えいこう)されて長崎県平戸港に行き、集魚灯用発電機及び魚群探知用送・受信機の修理並びに主機、1号補機、甲板機用油圧ポンプユニット、減速逆転機及び中間軸軸受の潤滑油新替え等を行ったほか、2号補機冷却海水系統のゴム継手が経年によって若干硬化しているのが判明し、同継手を新替えした。

(原因)
本件遭難は、長崎県館浦漁港の岸壁に無人係留中、船体と岸壁の相対位置が不適切で、低潮時に2号補機の冷却海水船外吐出口が岸壁のゴム製緩衝材の下端部で塞がれ、同機の冷却海水系統内の圧力が異常に上昇し、潤滑油クーラ入口側のゴム継手が管から外れ、海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、長崎県館浦漁港の岸壁に右舷付け係留後、2号補機の冷却海水船外吐出口と岸壁のゴム製緩衝材とが互いに向合っているのを放置したまま離船したことは、本件発生の原因となる。しかしながら、同人が離船する際は、同機の冷却海水は一応船外に排出されており、かつ、左舷側からの強い風で船体が岸壁に押付けられていて、係留索をいったん緩めて船体を前後に移動させるだけの人手がなかったうえ、同人は機関長であって同漁港の潮位の変化については何も知らなかった点に徴し、同人の所為は職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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