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1998年(平成10年)

平成9年仙審第1号
    件名
漁船第三長寿丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、?橋昭雄、供田仁男
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第三長寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
沈没して全損

    原因
プロペラ引上げ装置の連結ボルトの点検不十分、プロペラの固定措置不十分

    主文
本件遭難は、プロペラ引上げ装置の連結ボルトの点検が十分でなかったばかりか、プロペラ軸が同装置から外れたのちのプロペラの固定措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年4月11日12時30分
宮城県金華山南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三長寿丸
総トン数 0.9トン
登録長 6.63メートル
幅 1.85メートル
深さ 0.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 40キロワット
3 事実の経過
第三長寿丸(以下「長寿丸」という。)は、昭和58年9月に進水したFRP製漁船で、甲板上の中央部から船尾方に操舵室、甲板下の船首方から順に1番ないし3番魚倉及び機関室をそれぞれ配置し、船尾には同室と水密の構造ではない空所があり、同空所の船底が船尾端に向けて上方に傾斜していた。
長寿丸は、1基1軸の3枚翼プロペラを有し、径35ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス鋼製プロペラ軸が機関室の船尾管を貫通しており、また、着脱式のステンレス鋼製板を装着したプロペラ点検用開口部を船尾端の水面上に備えていた。プロペラ軸は、船外に船首方から順に自在継手、上下管及び同軸を支持する吊(つ)り軸受等から成るプロペラ引上げ装置を装備し、係留の際、甲板上から上下管上部のハンドル操作により、上下管下部に連結された吊り軸受を移動して自在継手の船尾側を上方に折り曲げ、プロペラを船尾空所の船底に近接して格納する構造になっていた。そして、プロペラ引上げ装置は、吊り軸受が上下管下端の逆Y形の二股(ふたまた)部に差し込まれて1本の連結ボルトで取り付けられ、長さ124ミリ径20ミリの特殊黄銅製同ボルトのねじ部にナットが回り止めの措置として二重に締め付けられていた。
ところで、プロペラ引上げ装置の連結ボルトは、プロペラが船尾周辺の海水を攪拌(かくはん)するため、電食作用を生じやすい環境にあり、長期間使用を続けるうち、経年衰耗が次第に進行していた。
A受審人は、長寿丸の新造時から船主船長として乗り組み、金華山沖合の漁場に周年出漁して刺網漁業等の日帰り操業に従事し、自ら船体及び機関等の整備保守にもあたっており、平成6年8月に宮城県塩釜港で上架して船体の整備を行った際、プロペラ引上げ装置を開放しないまま連結ボルトの外部を目視点検して、異状に気付かなかったので、同ボルトを継続使用し、その後出漁を繰り返した。
翌7年3月25日A受審人は、再び塩釜港で長寿丸を上架して船体の整備を行ったとき、経年衰耗の著しく進行した連結ボルトが強度不足の状態となっていたが、操業には特に支障がなかったことから、業者に依頼するなどして、同ボルトを十分に点検しなかったので、この状態に気付かず、同ボルトを交換しなかった。
長寿丸は、A受審人が1人で乗り組み、ます刺網漁の目的で、翌4月11日04時00分宮城県長渡(ふたわたし)漁港を出港し、同時35分金華山東方沖合の漁場に至って操業を開始した。ところが、長寿丸は、同漁場でクラッチを中立のまま主機を停止回転数にかけて漂泊中、ついに連結ボルトが折損したかして、同ボルトが脱落し、吊り軸受が上下管下端の二股部から外れたので、プロペラ軸が自在継手船尾側でプロペラとともに垂れ下がった状態となった。
A受審人は、漁場で操業を終えて同県鮎川漁港に向かうため、09時50分主機のクラッチを前進に操作したが、異常な振動が発生したので、主機を停止し、プロペラ点検用開口部から海中を見たところ、プロペラ軸が前示の垂れ下がった状態になっているのを認め、航行不能と判断して投錨したのち、無線で付近の僚船(総トン数2.8トン)に救助を求め、10時20分取りあえず船尾マストから垂らした1本のロープでプロペラ軸を下方から支えて引き上げ、その後来援した僚船により曳航(えいこう)され、金華山東ノ埼付近の海域に至り、他の僚船に曳航を引き継がれることとなり、再び投錨した。11時40分A受審人は、同船の到着を待ちながら、更に1本のロープを両舷縁からプロペラ軸の下方に掛けて追加したが、曳航されるにあたり、同軸にロープを掛けたから大丈夫と思い、プロペラの固定措置を十分にとることなく、プロペラを不安定な状態のままにしていた。
こうして、長寿丸は、12時25分僚船(総トン数3.4トン)が来援し、曳航索としてそれぞれ20メートルの各1本のロープが同船の船尾左右両舷から自船の船首にとられたのち、鮎川漁港に向かう途中、12時30分金華山灯台から真方位198度0.4海里の地点において、遊転したプロペラが跳ね上がって船尾空所の船底に激突し、同船底に破口を生じて多量の海水が浸入した。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
その結果、A受審人が甲板上で異常に気付いて曳航を停止する措置をとったが、船尾空所の浸水が機関室に流入し、船尾が沈下しつつ左舷側に傾斜して更にふたが外れた各魚倉にも浸水し、船体の浮力を喪失したのち、沈没して全損となった。また、A受審人は、海中に投げ出されたが、僚船に救助された。

(原因)
本件遭難は、上架して船体の整備を行った際、プロペラ引上げ装置の連結ボルトの点検が不十分で、操業中、同ボルトが経年衰耗により脱落し、プロペラ軸が同装置から外れたばかりか、のち曳航される際、プロペラの固定措置が不十分で、遊転したプロペラが跳ね上がって船尾船底に激突し、同船底に破口を生じて多量の海水が浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、プロペラ軸がプロペラ引上げ装置から外れて僚船に曳航される場合、プロペラが船尾船底に当たらないよう、プロペラの固定措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同軸にロープを掛けたから大丈夫と思い、プロペラの固定措置を十分にとらなかった職務上の過失により、プロペラが激突して生じた船尾船底の破口から浸水を招き、沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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