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1998年(平成10年)

平成10年函審第1号
    件名
漁船第二十五恵昌丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年6月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十五恵昌丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
廃船

    原因
弁管装置(雑用ポンプ)の取扱不適切

    主文
本件遭難は、雑用ポンプ用海水吸入弁の取扱いが不適切で、海水が魚倉に流入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月27日05時30分
北海道目梨郡羅臼町相泊漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五恵昌丸
総トン数 15.57トン
長さ 16.93メートル
幅 3.60メートル
深さ 1.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 110
3 事実の経過
第二十五恵昌丸(以下「恵昌丸」という。)は、昭和50年8月に進水した定置網漁業に従事する船尾船橋機関室型鋼船で、機関室及び同室前部に隣接した魚倉は、長さがそれぞれ4.56メートル、7.20メートルで、縦6.30メートル横1.38メートルの魚倉ハッチには、高さ36センチメートルのハッチコーミングが設けられ、同ハッチ口のふたとして、木製の板を並べて被(かぶ)せていた。
機関室は、両舷側に沿って400リットル入りの燃料油タンクをそれぞれ配置し、また、中央に主機を装備し、主機の左舷側船首寄りに主機の動力取出軸からベルト駆動される雑用ポンプを設置していた。
ところで、恵昌丸の雑用水系統は、主機左舷側の船底に取り付けられている雑用ポンプ用海水吸入弁から取水した海水が、外径約80ミリメートルの鋼製の海水吸入管を通って雑用ポンプにより加圧され、同ポンプ吐出管、船外吐出弁を経て甲板上のビニールホースに導かれ、甲板の洗浄や魚倉への海水の張り込みなどに使用されていた。また、同海水吸入管には、魚倉内の海水排出用として機関室前部壁を貫通する外径約80ミリメートルの鋼製の排水管(以下「魚倉排水管」という。)が接続され、同排水管には止め弁(以下「魚倉排水弁」という。)が取り付けられていた。
恵昌丸は、漁期終了に伴う諸作業の目的で、A受審人ほか一人が乗り組み、平成8年11月26日12時30分相泊漁港を発し、同漁港南方約1海里の定置網漁場に至って網の撤去作業などを開始し、15時00分同作業を終えて帰途につき、同時30分船首0.40メートル船尾0.60メートルの喫水をもって相泊漁港に入港し、南防波堤の内側南西端から85メートルの同防波堤岸壁に左舷付けしたうえ船首尾側からそれぞれ係留索をとって係留した。
A受審人は、続いて甲板を洗浄することとし、雑用ポンプ用海水吸入弁を開け、魚倉排水弁を閉めようとして同弁のハンドルを操作したものの完全に閉まっておらず、半開状態のまま雑用ポンプを運転して甲板を30分間海水洗浄したのち、同ポンプを停止したが、魚倉排水弁などを閉めているので、船内に海水が流入することはあるまいと思い、雑用ポンプ用海水吸入弁を閉鎖せず、16時30分主機を停止し、もう一人の乗組員とともに離船して船内を無人としたところ、海水が同弁から、半開状態となっていた魚倉排水弁及び魚倉排水管を通って魚倉に流入するようになった。
こうして恵昌丸は、海水の魚倉への浸入により船体が徐々に沈下し、やがて、船首尾側から岸壁にとっていた係留索が切断し、海水が魚倉ハッチからも倉内に浸入するようになるとともに、船橋後部の機関室出入口から機関室内にも浸入して更に沈下が進み、翌27日05時25分僚船の乗組員から恵昌丸異状の電話を受けたA受審人は、急ぎ同船に向かい、05時30分前示係留地点において、同船が水面上にマストの先端だけを残して着底しているのを発見した。
当時、天候は晴で風がなく、海上は平穏であった。
A受審人は、船主に恵昌丸が着底している旨を報告し、同船は、船主が手配したクレーン船によって引き揚げられたが、老朽化していて修理費の都合から廃船とされた。

(原因)
本件遭難は、相泊漁港において、船内を無人として離船するにあたり、雑用ポンプ用海水吸入弁の取扱いが不適切で、海水が閉鎖しなかった同弁から、半開状態となっていた魚倉排水弁及び魚倉排水管を経て魚倉に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、相泊漁港において、船内を無人として離船する場合、船内に海水が流入することのないよう、雑用ポンプ用海水吸入弁を閉鎖すべき注意義務があった。ところが、同人は、魚倉排水弁などを閉めているので海水が船内に流入することはあるまいと思い、雑用ポンプ用海水吸入弁を閉鎖しなかった職務上の過失により、海水が同弁から半開状態の魚倉排水弁及び魚倉排水管を経て魚倉に流入する事態を招き、着底させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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