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1998年(平成10年)

平成9年那審第46号
    件名
漁船第八徳市丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年11月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
供田仁男、道前洋志

    受審人
A 職名:第八徳市丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底右舷側に亀裂を伴う凹損、プロペラ曲損

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月20日14時55分
沖縄県宮古列島池間島南東側水域
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八徳市丸
総トン数 4.94トン
全長 15.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第八徳市丸(以下「徳市丸」という。)は、はえ縄魚業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、平成9年9月18日09時00分沖縄県糸満漁港を出港し、同県宮古列島池間島東方沖合の漁場において操業中、それまでの漁獲があおだいなど約25キログラムとなったとき、遠隔操舵装置が故障し、その修理のため池間島の池間漁港に入り、翌々20日業者による同装置の修理を終え、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日14時30分同漁港を発し、再び池間島東方沖合の漁場に向かった。
ところで、池間島南東側水域はさんご礁が広がり、さんご礁以外のところも危険な浅礁が散在する浅い水域であるが、さんご礁の切れ間に位置する池間島東口水路灯標(以下「東口水路灯標」という。)と、同灯標から189度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点との間が幅20メートル、水深2.5メートルの小型漁船等の航行のために掘り込まれた直線状の水路(以下「東口水路」という。)となっていて、同水路の南端には沖縄県が管理する高さ約5メートルの標識灯が設置されていた。
そして、A受審人は、修理を終えたころまでは入港時と同様の池間島北側経由で漁場に向かうつもりでいたところ、同業の船長から同島南東側水域を航行したことがあると聞いていたこと、早く漁場に着けば明るいうちに投縄から揚縄に至る操業を1回ぐらいは行うことができたことなどから、いくぶん近回りとなる同水域を航行することとしたが同水域を航行したことがなく、同水域についての十分な知識を持たず、東口水路の存在も知らなかった。
ところが、A受審人は、浅礁があれば目視で避けながらでも池間島南東側水域を航行できるものと思い、同水域の状態を把握できる池間大橋上から見下ろすとか、平良海上保安署あるいは地元漁業協同組合に同水域航行の可否や方法を問い合わせるなどの水路調査を十分に行うことなく、発航したものであった。
こうして、A受審人は、離岸に引き続いて操船に当たり、14時35分池間港第2防波堤灯台を左舷側近距離で通過し、同時39分同灯台から119度500メートルの地点に達したとき、針路を池間大橋に向く050度に定め、機関を5.0ノットの半速力前進にかけたが、その後浅礁に近づかないよう、適宜針路を変えるとともに、機関を極微速力前進と半速力前進との間で調整し、2ないし3ノットの対地速力で、操舵室天井の開口部から上半身を出して前方を見張りながら遠隔繰舵により進行した。
14時45分A受審人は、池間大橋下に差し掛かり、東口水路灯標から211度1,000メートルの地点に達したとき、海水色の違いにより散在する浅礁や遠方のさんご礁を認めたが、そのうち自船が航行できるところが見つかると思い、それまでと同様に適宜針路を変えるとともに、機関を極微速力前進と半速力前進との間で調整し、ほぼ060度方向に続航した。
A受審人は、やがて東口水路をそれと知らずに横切ってその東側の水域に入り込み、引き返すことにも思い至らずになおも進行するうち、14時55分東口水路灯標から177度550メートルの地点において、徳市丸は、045度に向いてさんご礁外縁付近の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、徳市丸は、引船により離礁したが、船首部船底右舷側に亀(き)裂を伴う凹損を生じたほか、プロペラに曲損を生じ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県宮古列島池間島の池間漁港を発航して同島東方の漁場に向かうにあたり、さんご礁が広がり、それ以外のところも浅礁が散在する同島南東側水域を経由することとした際、水路調査が不十分で、同水域の小型漁船等のために掘り込まれた東口水路を航行しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、池間島池間漁港を発航して同島東方の漁場に向かうにあたり、さんご礁が広がり、それ以外のところも浅礁が散在する同島南東側水域を経由することとした場合、同水域を航行するのが初めてであり、同水域についての十分な知識を持っていなかったのであるから、その状態を把握できる池間大橋上から見下ろすとか、平良海上保安署あるいは地元漁業協同組合に航行の可否や方法を問い合わせるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、浅礁があれば目視で避けながらでも池間島南東側水域を航行できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同水域の小型漁船等のために掘り込まれた東口水路を航行することができず、浅礁への乗揚を招き、船首部船底右舷側に亀裂を伴う凹損を、プロペラに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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