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1998年(平成10年)

平成10年門審第57号
    件名
漁船第五順洋丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男
    理事官
副理事官 新川政明

    受審人
A 職名:第五順洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底後部に破口、舵に損傷、プロペラ及びシューピースが落下

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月16日19時00分
山口県角島一ツ礁
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五順洋丸
総トン数 17トン
全長 21.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
3 事実の経過
第五順洋丸(以下「順洋丸」という。)は、中型旋(まき)網漁業船団に付属するFRP製灯船で、A受審人ほか2人が乗り組み、新造船に積み込む船用品運搬の目的で、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成9年7月16日10時00分長崎県五島列島相ノ浦港を発し、山口県粟野港の造船所に向かった。
ところで、A受審人は、平素、順洋丸において甲板員としての業務を行っていたものの、所属の会社から指示を受けて船長職を執り、船用品運搬の航海に当たったもので、博多港以東の海域の航海経験はなく、発航に先立って漁業協同組合から借用した海図第179号(関門海峡至平戸瀬戸)を備え付けていたが、一見しただけで角島北岸近くの沖合には障害物は存在しないものと思い、同海図や他の小縮尺の海図等に当たって同島北岸付近の水路調査を十分に行うことなく出航したので、角島北端の牧埼の東方1,000メートル沖合に一ツ礁の千出岩が存在することに気付かなかった。
A受審人は、発航後、甲板員と適宜当直を交代しながら進行し、18時47分角島灯台の北西方0.8海里の地点に達したところで、入港に備えて機関の点検を行うために一時甲板員と当直を交代して機関室での機関点検作業を行い、同作業を終えて再び昇橋して当直を交替し、単独で操舵と見張りに当たり、同時57分角島灯台から039度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を引き継いだ066度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、手動繰舵により進行した。
18時57分半A受審人は、角島灯台から040度1.9海里の地点に達したとき、牧埼を右舷方に見て航過したのち、右舷前方に油谷湾を見通せる状況になったので、船首を同湾南岸の粟野港に向けることとし、針路を097度に転じたところ、一ツ礁に向首進行する状況となったが、このことに気付かないまま続航した。
こうして、A受審人は、同じ針路で東行中、順洋丸は、19時00分元山三ケ瀬北東照射灯から001度1,200メートルの一ツ礁の干出岩に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船底後部に破口、舵に損傷を生じ、プロペラ及びシューピースが落下したが来援した引船によって目的地の造船所に引き付けられ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、山口県角島北岸近くの沖合において、油谷湾内に向けて転針する際、水路調査が不十分で、一ツ礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、山口県角島北岸近くの沖合において、油谷湾内に向けて転針する場合、同島沖合の一ツ礁に乗り揚げることのないよう、あらかじめ備え付けた海図や他の小縮尺の海図等に当たって角島北岸付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、海図を一見しただけで角島北岸近くの沖合には障害物は存在しないものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、一ツ礁に向首進行して乗揚を招き、船底後部に破口、舵に損傷を生じさせ、プロペラ及びシューピースを落下させるに至った。






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