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1998年(平成10年)

平成10年横審第65号
    件名
貨物船福栄丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年11月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:福栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船尾船底部に凹損

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月1日12時10分
愛知県常滑港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船福栄丸
総トン数 195トン
全長 54.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
3 事実の経過
福栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、陶器原料650トンを載せ、船首2.60メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成10年1月31日10時30分岡山県片上港を発し、愛知県常滑港に向かった。
ところで、常滑港は、沖合に向かって拡延する浅水域に設けられた長さ約730メートル幅約60メートルの南南西方向に延びる掘り下げ水路(以下「水路」という。)により港内に通じており、水路の中心線上の水深が3.7ないし4.5メートルあるものの、水路側端付近では2メートルと浅くなっていた。
また、本船には、海図第1051号及びすでに廃版となった水路参考図誌第H-251A号小型船用簡易港湾案内本州南岸その1(以下、「旧港湾案内」という。)を備え付けてあったが、同海図には常滑港付近の水深の記載はなく、旧港湾案内には水深に関して2メートル等深線が図示され、水路水深が3.7ないし4.8メートルである旨の記載があるだけで、199トン型の船舶が入港するためには、海図第5660(67)号、潮汐表及び水路参考図誌第H-801号プレジャーボート小型船用港湾案内本州南岸1(以下、「新港湾案内」という。)により水路調査を行い、貨物積載にあたってはトリムを減じて最大喫水を抑え、高潮を利用できる入港時刻を設定するなどして余裕水深を確保したうえ、新港湾案内に記載された水路入口付近に設置されている常滑港第1号浮標(以下、航路標識名については、「常滑港」を省略する。)及び第2号浮標の間を第2号浮標に近寄って入航し、顕著な神社を船首目標として025度(真方位、以下同じ。)の針路で水路の中心線上を通航する針路法を採るなどの入念な航海計画を事前に立てる必要があった。
こうしてA受審人は、旧港湾案内に記載の水路の2メートル等深線を水深3.7メートルないし4.8メートルが確保された水路を示しているものと思っていたことと、初めて入港した前回は最大喫水3.90メートルでたまたま無難に入港できたことから、今回もその線の内側を航行すれば大丈夫と思い、備え付けの旧港湾案内等にあたっただけで、片上港発航前に海図第5660(67)号や新港湾案内を購入して、常滑港の港湾事情についての水路調査を十分に行わず、貨物積載にあたってトリムを減じて最大喫水を抑える措置をとらないまま、船尾トリム1.5メートルの前示喫水で出港した。
A受審人は、翌2月1日05時ごろ、志摩半島南方沖合で昇橋し船橋当直にあたり、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で自動操舵により進行し、11時48分半港口灯浮標の南西2海里ばかりに達したとき、高潮を待って入港すべきことにも気付かないまま、直行着岸することとして入港用意を令し、手動繰舵に切り替え、機関を8.0ノットの半速力前進に減じ、12時03分少し過ぎ西防波堤灯台から203度1,570メートルの地点で、港口灯浮標を左舷側に50メートル離して通過したとき、針路を023度に定め、機関を5.5ノットの極微速力前進とし、行きあしを徐々に減じながら続航した。
A受審人は、12時07分少し過ぎ西防波堤灯台から202度730メートルの地点に達したとき、機関を中立として針路を024度に転じ、水路の中心線を通航すべきことに気付かないまま、同時08分半第1号及び第2号両浮標のほぼ中間を通過し、水路の左側に寄り惰力で進行中、12時10分西防波堤灯台から200度400メートルの地点において、原針路のまま2.0ノットの行きあしで水路左側の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船尾船底部に凹損を生じたが、潮高が上昇するのを待って自力離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、片上港から余裕水深の少ない常滑港に向かうにあたり、水路調査が不十分で、常滑港堀下げ水路左側の浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、余裕水深の少ない常滑港に向け、片上港を出港する場合、備え付けの旧港湾案内等には常滑港の水深等が詳細に記載されていなかったのであるから、事前に海図第5660(67)号や新港湾案内を購入して、同港の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、旧港湾内に記載された2メートル等深線を水路の境界を示すものと思っていたことと、初めて入港した前回たまたま無難に入港できたことから、今回もその線の内側を航行すれば大丈夫と思い、同港の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、貨物積載にあたってトリムを減じて最大喫水を抑え、潮高を利用できる入港時刻を設定し、新港湾案内に記載された針路法を採るなどの水深の状況に即した入港計画を立てることなく、水路左側の浅所に向首進行して乗り揚げ、船尾船底に凹損を生じさせるに至った。






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