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1998年(平成10年)

平成9年門審第124号
    件名
漁船第一政栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年10月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤賽、清水正男、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第一政栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底に破口、シューピースを脱落、舵軸、プロペラ軸及び推進器翼を曲損、減速機クラッチ板を焼損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月26日08時15分
長崎県壱岐郡郷ノ浦町大島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一政栄丸
総トン数 14トン
登録長 15.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 140
3 事実の経過
第一政栄丸(以下「政栄丸」という。)は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成8年7月25日15時ごろ長崎県下県郡美津島町賀谷漁港を発し、18時ごろ同県壱岐島北方の漁場に至り、いか約360キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、翌26日05時00分漁場を発進し、水揚げのため壱岐島郷ノ浦港に向かった。
ところで、A受審人は、土曜日に市場が開かれないことから金曜日に休業し、その他の日は海上がしけてない限り夕方に出航し、翌日の早朝に帰航のあと昼間に休息をとっており、前25日06時ごろ賀谷漁港で水揚げ後、自宅に戻り食事をして就寝したところ、10時ごろ暑くて目が覚め、その後睡眠をとらずに15時ごろ出航し、操業中2時間ほど休息したものの、このところ3日間連続で操業していてやや疲労気味で、睡眠不足の状態となっていた。
07時26分A受審人は、壱岐島北方の辰ノ島西端に並ぶ、勝本港辰ノ島防波堤灯台から304度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、針路を196度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で進行中、疲労気味で睡眠不足であったことから眠気を覚えたが、入港まであと1時間ぐらいだから居眠りすることはあるまいと思い、周囲の安全を確認したうた漂泊して休息するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
A受審人は、07時51分手長島灯台から220度2.0海里の地点に至り、針路を大島西端に向く183度に転じ、舵輪の後方に据え付けてある椅子代わりの板の台に腰を掛けて見張りをしているうち、いつしか居眠りに陥った。
08時11分半A受審人は、壱岐フノリ瀬灯標から306度1,200メートルの、郷ノ浦港に向かう予定転針地点に達したものの、居眠りしていてこのことに気付かず、転針しないまま続航し、政栄丸は、08時15分壱岐フノリ瀬灯標から253度1,100メートルにあたる、大島北西端の飛瀬の岩礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船首部船底に破口を生じたほか、シューピースを脱落し、舵軸、プロペラ軸及び推進器翼を曲損し、減速機クラッチ板を焼損したが、僚船の救援を得て離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、長崎県壱岐島西方沖合を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、大島の飛頼に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で操舵と見張りに当たり、壱岐島北方沖合の漁場から郷ノ浦港に向け同島西方沖合を南下中、眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、漂泊して休息するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港まであと1時間ほどだから居眠りすることはあるまいと思い、漂泊して休息するなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、大島の飛頼に向首進行して乗揚を招き、船首部船底に破口を生じさせたほか、シューピースの脱落、舵軸、プロペラ軸及び推進器翼の曲損並びに減速機クラッチ板の焼損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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