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1998年(平成10年)

平成10年神審第22号
    件名
漁船第八十八福栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年10月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

清重隆彦、佐和明、工藤民雄
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第八十八福栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底に破口及び凹損、船首水倉に浸水

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月4日07時40分
和歌山県田辺港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八福栄丸
総トン数 271トン
全長 51.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
3 事実の経過
第八十八福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、船尾船橋型活魚運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、魚倉に海水420トンを載せたまま、船首3.2メートル船尾4.9メートルの喫水で、平成9年9月4日07時35分和歌山県田辺港第1区丸山島東方の生け簀(す)を発し、愛媛県宇和島港に向かった。
ところで、A受審人は、田辺港の出入港経験が数回あり、丸山島北端から沖合約120メートルにわたり浅礁が拡延しているのを知っていたので、GPSプロッタ表示画面に入航時の航跡を残していたほか、出航時の操舵操船に備えてレーダーを作動させ、安全に航行できるよう可変距離目盛を150メートルに設定し、これを避険線として活用していた。
発航後A受審人は、単独で操舵操船に当たり、舵と機関とを適宜使用して同生け簀から離れたのち、07時37分半田辺港黒崎導灯(後灯)から219度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点で、針路を丸山島北端を150メートル離す303度に定め、機関を微速力前進として3.9ノットの対地速力で、レーダーをときどき見ながら周囲の物標で船位を確認して手動操舵により進行した。
A受審人は、07時39分少し過ぎ田辺港黒埼導灯(後灯)から233度760メートルの地点に達したとき、船首わずか右100メートルのところに低速力で自船に向かって接近する漁船を認めて避航することとし、針路を左に転じるとレーダーに設定していた150メートル圏内に入る状態であったが、高潮時でもあり少しぐらいなら同圏内を航行しても大丈夫と思い、右転するなどして安全な針路を選定することなく、針路を283度に転じて進行した。
福栄丸は、同じ針路及び速力で続航中、07時40分田辺港黒埼導灯(後灯)から239度850メートルの浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果、船首船底に破口及び凹損を生じ、船首水倉に浸水したが、自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、田辺港第1区から出航中、前路に漁船を認め、これを避航する際、針路の選定が不適切で、丸山島北方に拡延する浅礁に向首する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、田辺港第1区から出航中、前路に漁船を認め、これを避航する場合、針路線左方の丸山島北端から沖合約120メートルにわたり浅礁が拡延していることを知っていて、レーダーの可変距離目盛を150メートルに設定してこれを避険線として活用していたのであるから、その150メートル圏内に入らないよう、右転するなどして安全な針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同人は、高潮時でもあり少しぐらいなら同圏内に入っても大丈夫と思い、右転するなどして安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、左転して進行し、同浅礁に乗り揚げ、船首船底に破口及び凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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