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1998年(平成10年)

平成10年横審第28号
    件名
貨物船龍勢丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年10月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、半間俊士、長浜義昭
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:龍勢丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底部に亀裂を伴う凹損など

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月15日09時44分
長崎県五島列島若松島沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船龍勢丸
総トン数 498トン
全長 62.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
龍勢丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、石材1,350トンを載せ、船首3.60メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成9年7月15日09時30分長崎県五島列島若松島南岸の、佐尾港第3防波堤灯台から307度(真方位、以下同じ。)3.9海里にあたる採石場桟橋を発し、関門港に向かった。
ところで、若松島南岸沖合には、同採石場桟橋の南南東1,100メートルのところに松出シ曽根の浅所が、また、同じく2,100メートルのところには沖曽根の暗岩がそれぞれ存在し、A受審人は、同年7月同採石場から関門港若松区への石材の運搬に従事するようになって、備付けの海図第213号により沖曽根などの存在を調査確認し、これまで数回にわたり同島南岸沖合を航行した経験があり、この間に沖曽根で発生する波浪を目撃したこともあって、その存在及び位置についてよく知っていた。
そこで、A受審人は、同採石場桟橋に出入航するに当たり、自船と沖曽根との位置関係が目視によって容易に判断できるよう、佐尾港第3防波堤灯台から213度1.0海里にあたる中通島入鹿鼻の沖合0.6海里の地点と若松島高崎鼻との見通し線を、沖曽根に対する避険線として設定し、同避険線の南側を航行することにしており、入航時は、高崎鼻の沖合0.3海里の地点に向け、同鼻を右舷船首に見て進行し、沖曽根が右舷後方に替わったところで、右転して同桟僑に向けて北上することにし、出航時は、桟橋を離れたのち、針路を173度に定め、松出シ曽根の西方300メートル及び沖曽根の西方670メートルをそれぞれ通過し、沖曽根が左舷後方800メートルに替わったところで左転して針路を128度とし、ヘボ島北側を接航する針路を常用しており、同針路線は、ロランプロッターにも表示していた。
A受審人は、発行操船に続いて船橋当直に就き、ロランプロッターは作動していたものの、2台のレーダーはいずれも休止し、船橋右舷前部の窓から顔を出して見張りに当たり、桟橋を離れて間もなく針路を173度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で、ヘボ島を左舷船首に見ながら、予定の針路線に沿って遠隔操舵による手動操舵により進行した。
A受審人は、間もなく松出シ曽根を左舷側に300メートル離して通過し、09時39分半佐尾港第3防波堤灯台から300度3.5海里の地点に達したとき、ヘボ島の見え具合と同島までの目測による距離感から、沖曽根は左舷後方に替わったものと思い、高崎鼻と入鹿鼻沖合とを見通す避険線を活用するなどして自船と沖曽根との位置関係を確認することなく、左転して針路を136度としたので、沖曽根に向首する状況となったが、転針後も船位を十分に確認せず、このことに気付かなかった。
A受審人は、機関を全速力前進にかけ、徐々に増速しながら続航中、09時44分佐尾港第3防波堤灯台から297度2.95海里の地点において、8.0ノットの対地速力となったとき、原針路のまま沖曽根の暗岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首船底部に亀裂を伴う凹損などを生じ、船首バラストタンクに浸水したが、積荷を全量瀬取りして自力離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、長崎県五島列島若松島南岸沖合を航行中、船位の確認げ不十分で、沖曽根の暗岩に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県五島列島若松島南岸沖合を航行中、沖曽根の暗岩を替わしたのちに転針しようとする場合、沖曽根が替わったことが容易に判断できるよう、高崎鼻と入鹿鼻沖合とを見通す避険線を活用するなどして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷船首のヘボ島の見え具合と目測による同島との距離感だけに頼って沖曽根は替わったものと思い、避険線を活用するなどして船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、沖曽根が替わっていないことに気付かないまま転針し、沖曽根に向首進行して乗揚を招き、船首船底部に亀裂を伴う損傷を生じ、船首バラストタンクに浸水するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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