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1998年(平成10年)

平成10年函審第52号
    件名
漁船第108大幸丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年12月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第108大幸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船尾部船底外板を凹損、右舷側ビルジキール及びプロペラ翼を曲損

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月1日12時30分
北海道網走港北北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第108大幸丸
総トン数 49トン
登録長 22.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 411キロワット
3 事実の経過
第108大幸丸(以下「大幸丸」という。)は、専ら延(はえ)縄漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、きちじ延縄漁の目的で、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成9年1月28日08時00分北海道網走港を僚船の第三大幸丸とともに発し、同港の北方50海里ばかり沖合の漁場に向かった。
A受審人は、14時ごろ北緯44度50分東経144度25分の漁場に至着したものの、折から南下しつつあった流氷群の先端部にあたる流氷で海面の2、3割が覆われ、操業ができない状態となっていたことから、様子を見ることとして同漁場で漂泊待機したが、所属会社から流氷が陸地にまで接岸したので帰港するようにとの指示を受け、越えて31日08時ごろ操業を断念して僚船とともに網走港に向け帰途に就いた。
A受審人は、針路と速力を適宜変えて流氷を避けながら南下し、17時30分能取岬北方6海里ばかりの地点で、日没となって流氷の状況が分からなくなったことから、漂泊して明るくなるのを待ち、翌2月1日06時00分能取岬灯台から018度(真方位、以下同じ。)6.4海里の地点を発進した。そして、同人は、単独で船橋当直に当たり、そのころほぼ流氷で覆われていた海上を流氷密度が低い海面を探しながら第三大幸丸を後続させて南下していたところ、07時ごろ網走港から能取岬間の流氷の状況を陸上側から観察した結果では陸岸近くの方が密度が低く、バイラギ埼南端のニッ岩沖合に流氷のない開放水面域がある旨の会社からの清報により、陸岸にできるだけ寄せて航行のうえ網走港に向かうこととした。
11時00分A受審人は、能取岬を1海里ばかり離して通過したのち、陸岸沿いに南下し、12時00分バイラギ埼北端を1海里に並航する網走港北防波堤灯台から351度2.1海里の地点に達したとき、前方1海里ばかりのところにバイラギ埼南端部からその沖合0.4海里にかけて150メートルばかりの幅で開けた開放水面域を肉眼で認めた。
ところで、開放水面域となっていた二ッ岩沖合には、バイラギ埼南端の東南東方0.3海里の、網走港北防波堤灯台から325度1.8海里のところに基本水準面下1.2メートルの暗岩が存在し、同暗岩は海図第1039号に記載されていた。
A受審人は、前記の情報を得た際、二ッ岩海岸から0.5海里ばかり離れたところに暗岩が存在する旨のことを同時に聞いていたものの、改めて確かめるまでのことはないものと思い、その根拠について更に照会したり、自ら海図に当たって確かめるなどして同暗岩の正確な位置について十分に調査を行うことなく、冷却水系統への氷の吸い込みにより冷劫水量が不足して上昇気味となっていた冷却水温を開放水面域で船を停止させて正常な状態に復旧させ、また、朝から緊張の連続で疲れてもいたことから一休みするため前記の開放水面域に向かうこととし、肉眼で認めて直ぐに針路を同水面の東端寄りに向く225度に定めたところ、同暗岩に向首する状況となったが、そのことに気付かないまま、機関を種々に使用して平均2ノットの対地速方で、時折魚群探知機を見て水深を確認しながらリモコンによる手動操舵によって進行した。
12時29分半A受審人は、開放水面域に出たところで微速力前進としていた機関のクラッチを切っで惰力前進中、12時30分大幸丸は、約1ノットの残速力をもって原針路のまま前記の暗岩に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、潮高は68センチメートルであった。
乗揚の結果、船尾部船底外板を凹損し、右舷側ビルジキール及びプロペラ翼を曲損したが、後続していた第三大幸丸の援助で離礁して目的地に向かい、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、冬期の網走港北北西方沖合において、流氷が接岸している海域を陸岸寄りの開放水面域に向けて航行するに当たり、水路調査が不十分で、暗岩に向首して進行したことによって発生したものである。

受審人の所為)
A受審人は、流氷が接岸していた網走港北北西方沖合の海域において、陸岸寄りの開放水面域に向けて航行しようとする場合、開放水面域のあるニッ岩沖合には暗岩が存在することを聞いていたのであるから、同暗岩の正確な位置について、会社に照会したり、自ら海図に当たって確かめるなどして十分に調査すべき注意義務があった。
ところが同人は、改めて確かめるまでのことはないものと思い、同暗岩の正確な位置について十分に調査しなかった職務上の過失により、同暗岩に向首していることに気付かずに進行して乗揚を招き、船尾部船底外板に凹損、右舷側ビルジキール及びプロペラ翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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