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1998年(平成10年)

平成10年函審第14号
    件名
漁船第二十六栄昇丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年9月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大山繁樹、古川?一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第二十六栄昇丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
球状船首が脱落、船底外板及び船側外板下部全般に破口を伴う擦過傷並びにプロペラ及びシューピースに損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月22日07時50分
山口県下関市蓋井(ふたおい)島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十六栄昇丸
総トン数 19.80トン
全長 18.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 180
3 事実の経過
第二十六栄昇丸(以下「栄昇丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、平成9年4月21日13時30分山口県豊浦郡豊北町特牛(こつとい)港を発し、16時30分同港から西北西方25海里ばかり沖合の漁場に至り、操業を開始した。
ところで、栄昇丸の操業は、毎年3月から5月上旬まで特牛港を基地として、14時ごろ出港し、漁場でパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊のうえ、夜間操業を行ったのち、翌日10時までの水揚げに間に合うように帰航するという一泊二日の形態で行われ、定期的な休日はなく、荒天の日以外は出漁していた。
A受審人は、B指定海難関係人に漁場への往復の航海の船橋当直を単独で行わせていたが、平成8年の初めごろまでは同人に対し、船橋当直中に眠気を催したら、そのことを報告するよう指示していたものの、その後これまで何事もなく運航を行ってきたことと、同人がさけます独航船で船長としての経験があることから改めて指示しなくても大丈夫と思い、同人に対し、眠気を催したら、そのことを報告することなど居眠り運航を防止する措置について何ら指示していなかった。
栄昇丸は、パラシュート型シーアンカーを投入したあと、漂泊して操業を行い、翌22日04時20分いかを約180キログラム漁獲したところで操業を終了することとし、同シーアンカーを揚収したのち、船首0.25メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、04時30分角島灯台から286度(真方位、以下同じ。)26海里の漁場を発進し、水揚げ及びいか釣り機と集漁灯用変圧器の交換の目的で下関漁港に向かった。
B指定海難関係人は、前記の漁場で操業の指揮を執ったあと、4時間半の仮眠を終えて03時30分ごろ目覚めたのち、漁場発進から引き続いて単独で船橋当直に就き、GPSプロッターにより下関漁港小瀬戸西口に向かう針路を求めたところ138度となったので、蓋井島及び関門港が近くなってから適宜針路を修正するつもりで、潮流による圧流などを考慮して針路を133度に定め、機関を全速力前進にかけて9.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
06時39分B指定海難関係人は、蓋井島灯台から315度11.9海里の地点に達したとき、12海里レンジとしたレーダーを見たところ、蓋井島が正船首方向に映ったので同島に向首していることを認め、同島を左舷側に1海里離すこととして針路を140度に転じ、折からの北東流により左方へ7度圧流され、船橋の床に腰を下ろし、左舷側の椅子に背を寄り掛けてあぐらをかき、3海里レンジとしたレーダーを時折見ながら続航した。
07時ごろB指定海難関係人は、それまでの20日間の連続した操業で疲労が蓄積していたこともあって、眠気を催したが、あと少しで入港するからそれまで我慢できると思い、A受審人にそのことを報告して当直を交代してもらうことや立ち上がって外気にあたるなどの居眠り運航を防止する措置をとることなく、船橋中央右舷寄りにあるレーダーの下に設置されたテレビを見ながら続航していたところ、07時半過ぎ居眠りに陥った。
こうして、栄昇丸は、潮流により圧流されて蓋井島北端に向かって進行したが、B指定海難関係人が居眠りに陥ったままこのことに気付かずに続航中、07時50分蓋井島灯台から345度1.1海里の地点の蓋井島北端の岩礁に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には1.2ノットの北東流があった。
A受審人は、船員室で就寝中、衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、球状船首が脱落し、船底外板及び船側外板下部全般に破口を伴う擦過傷並びにプロペラ及びシューピースに損傷を生じたが、乗り揚げを目撃していた漁船の支援を受けて離礁し、下関漁港にて仮修理されたのち、函館港に帰港後、本修理された。

(原因)
本件乗揚は、操業を終えて漁場から下関漁港に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、蓋井島北端の岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。
栄昇丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し眠気を催したら報告するなどの居眠り運航を防止する措置について指示しなかったことと、船橋当直者が眠気を催した際、船長に報告するなどの居眠り運航を防止する措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、操業を終えて帰航する際の船橋当直を漁労長に単独で行わせる場合、同人に対し、当直中に眠気を催したら、そのことを報告することなどり居眠り運航を防止する措置を指示すべき注意義務があった。ところが、A受審人は、平成8年の初めごろまでは眠気を催したら報告するよう指示していたが、その後運航上何事も起きていないことや漁労長がさけます独航船で船長としての経験があることから、改めて指示しなくても大丈夫と思い、眠気を催したときの措置について何ら指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が居眠りに陥って乗り揚げを招き、栄昇丸の球状船首を脱落させ、船底外板及び船側外板下部全般に破口を伴う擦過傷並びにプロペラ及びシューピースに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、漁場から下関漁港に向けて航行中、眠気を催した際、そのことをA受審人に報告するなどの居眠り運航を防止する措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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