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1998年(平成10年)

平成10年那審第10号
    件名
漁船第一ひろ丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年8月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第一ひろ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月18日18時20分(日本標準時)
ミクロネシア連邦トラック諸島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一ひろ丸
総トン数 19.87トン
全長 16.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
3 事実の経過
第一ひろ丸(以下「ひろ丸」という。)は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成6年9月14日那覇港を出港し、ミクロネシア連邦のトラック地区モエン港もしくはポナペ地区ポナペ港を基地として両地区の海域で操業を続けていたものであるが、A受審人ほか日本人2人及びフィリピン人5人が乗り組み、船首1.00メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成7年9月1日16時00分(日本標準時、以下同じ。)ポナペ港を出港し、トラック諸島南西方沖合において操業し、同月18日07時00分それまでの漁獲がまぐろ10トンとなったとき、水揚げ、食糧積込みなどのため、同諸島南西方の北緯6度55分東経151度11分の地点を発し、モエン港に向かった。
ところで、ひろ丸には、磁気羅針盤が基準コンパスとして備えられており、ジャイロコンパスはなく、自動操舵によるときには、本来ならば決定した磁針方位針路に自差を加減して羅針方位針路を求めたうえこれに自動操舵針路設定つまみの針を合わせるという作業を行うが、A受審人は、平素自動操舵によるとき、自動操舵針路設定つまみの針を海図で決定した磁針方位針路にそのまま合わせ、船位が海図の針路線から左右どちらかに偏したときにはその都度針路を修正するようにしており、船位が海図の針路線から左右どちらかに偏するのは海潮流あるいは風波の影響と考え、自差を考慮したことはなかった。
また同人は、備えていたGPSプロッターにはミクロネシア連邦の海岸線のデータが入力されていなかったことから、船位については、GPSプロッターによるときには、読み取った緯度経度の数値を海図に記入するようにしていた。
こうして、A受審人は、漁場発から船橋当直に当たり、15時00分GPSプロッターによりトラック諸島南東方の北緯6度52分東経152度10分の地点に達したことを知り、同地点に基づいて使用海図第1850号により予定針路としてトラック諸島の環礁東端を10海里離すようにしたところ、その針路が磁針方位北であったことから、羅針盤の自動操舵針路設定つまみの針を北に合わせ、針路を羅針方位北に定めて自動操舵とし、トラック諸島の環礁東側入口のノースイーストパス沖合で漂泊して夜明けを待つつもりで機関を半速力前進にかけ、7.5ノットの対地速力で、1人で当直に当たって進行した。
その後A受審人は、同一の針路及び対地速力で続航中、西方に向かう海潮流と東寄りの風波に加えて船首北方向きのとき生ずる偏西自差により、海図の予定針路線よりも大幅に左偏し、トラック諸島の環礁に著しく接近する状況であったが、同環礁東端を十分離す針路としているので大丈夫と思い、GPSプロッターによる位置を海図に記入するなり、レーダーを活用するなどの船位の確認を行わず、そのことに気付かなかった。
A受審人は、夕刻となっても依然船位の確認を行わず、入港に備えて乗組員に居住区の清掃を行わせ、自分も操舵室の清掃を行っていたところ、突然衝撃を感じ、18時20分トラックノースイーストパス灯台から真方位168度15.4海里の地点において、ひろ丸は、同一の針路でトラック諸島の環礁外縁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、日没は16時50分であった。
A受審人は、機関を停止したが、やがて機関室への浸水が始まり、船体が波浪により環礁内側へ運ばれる状況のところ、救助を求めるなど事後の措置に当たった。
乗揚の結果、ひろ丸は、離礁の手段がないまま時が経過して全損となった。

(原因)
本件乗揚は、夜間、ミクロネシア連邦トラック諸島の環礁東方を北上中、船位の確認が不十分で、同環礁に著しく接近する状況のまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、ミクロネシア連邦トラック諸島の環礁東方を北上中、船橋当直に当たる場合、同環礁に著しく接近することのないよう、GPSプロッターによる位置を海図に記入するなり、レーダーを活用するなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同環礁東端を十分に離す針路としたので大丈夫と思い、船位を確認しなかった職務上の過失により、同環礁に著しく接近する状況のまま進行して乗揚を招き、全損に至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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