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1998年(平成10年)

平成9年広審第67号
    件名
油送船乾隆丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年8月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、釜谷獎一、黒岩貢
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:乾隆丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底に破口を伴う凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月18日23時20分
山口県徳山湾馬島
2 船舶の要目
船種船名 油送船乾隆丸
総トン数 699トン
全長 76.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
乾隆丸は、主に沖縄県を除く国内各地の製油所等の間の重油輸送に従事する船尾船橋型油タンカーで、A受審人ほか6人が乗り組み、C重油2,000キロリットルを積載し、船首4.25メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成8年12月18日22時40分徳山下松港を発し、山口県下関市長府の中国火力発電所に向かった。
ところで、乾隆丸は、徳山下松港発航に先立つ同月15日15時00分千葉港に於いて揚荷役終了後出港、16日17時30分大阪港入港、17日06時00分ごろから積荷役作業に従事した後、13時20分同港を出港し、瀬戸内海を経由して18日08時40分徳山下松港第1区西側にある東ソー南陽事業所雑貨1号桟橋に着桟して揚荷役を行い、15時30分同桟橋を離桟し、16時10分同区東側にある出光興産徳山製油所中央桟橋沖合に仮泊して安全教育を受講した後抜錨、16時55分同桟橋に着桟して、積荷役を行った後前示のとおり長府に向かった。
この間、A受審人は、航海当直を00時00分から04時00分までと12時00分から16時00分までを甲板長、04時00分から08時00分までと16時00分から20時00分までを一等航海士、及び08時00分から12時00分までと20時00分から24時00分までを自らがそれぞれ担当する単独の3直制に定めていたが、大阪港から徳山下松港への航行の途、入出港操船のほか、明石海峡で昇橋し、更に17日18時00分ごろ香川県小豆島地蔵埼沖合で船舶が輻輳していたため再度昇橋して、備讃瀬戸・来島海峡を経て梶取ノ鼻を航過するまで在橋して操船指揮に当たった後、18日02時30分ごろ降橋し、その後前記のとおり徳山下松港での揚・積荷役作業に司厨長を除く全乗組員と共に従事していたので、睡眠がとれたのは同港入港前の数時間だけであり、睡眠不足の状態となっていた。
ところが、発航に先立ちA受審人は、通常の航海当直時間帯に固執すると、発航操船に引き続いて、前示のとおり操船と荷役作業とによる睡眠不足の状態のまま同当直を行うことになり、同人の当直中居眠り運航となるおそれがあったが、当直中居眠りに陥ることはあるまいと思い、睡眠不足を解消した後同当直に就くことができるよう、当直時間帯を組み替えて適正な就労体制を確保する居眠り運航の防止措置をとらなかった。
こうして、A受審人は、発航操船に引き続いて睡眠不足の状態のまま単独で船橋当直に当たり、徳山湾内東側海域の錨泊船を避航した後、23時05分岩島灯台から042度(真方位、以下同じ。)3,700メートルの地点で、針路を馬島に向首する240度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、船橋前面左舷側に置いてあった見張り用の椅子に腰を掛けて当直に当たり、馬島手前で左転して、洲島と岩島の間の可航幅約1,200メートルの徳山湾口を通過して出湾する予定であったところ、睡眠不足により眠気を催すようになったが、そのまま当直を続けているうち、間もなく居眠りに陥った。
その後、A受審人は、湾外への予定転針点に達したが、居眠りしていて、このことに気付かず、転針することなく原針路・原速力のまま続航中、乾隆丸は、同23時20分岩島灯台から276度1,900メートルの馬島の東海岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船首船底に破口を伴う凹損を生じ、来援したサルベージ船により引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、徳山湾内を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、馬島に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、前航海中の操船と停泊中の荷役作業とによる睡眠不足の状態のまま徳山下松港を発航する場合、通常の航海当直時間帯に固執すると発航操船に引き続いて単独の船橋当直を行うことになり、同人の当直中、居眠り運航となるおそれがあったから、睡眠不足を解消した後当直に就くことができるよう、同時間帯を組み替えて適正な就労体制を確保する居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直中居眠りに陥ることはあるまいと思い、前示の居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、馬島に向首進行して乗揚を招き、船首船底に破口等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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