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海難審判庁裁決録(平成10年度)

 事業名 海難審判庁裁決録の刊行配布
 団体名 海難審判・船舶事故調査協会  




1998年(平成10年)

平成9年広審第81号
    件名
プレジャーボート大吉丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年7月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:大吉丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底に亀裂を伴う破口、のち廃船、船長が中心性頚髄損傷、同人の妻が左鎖骨骨折など、孫2人が頭部外傷

    原因
保針不十分

    主文
本件乗揚は、保針が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月26日16時10分
岡山県水島港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート大吉丸
登録長 6.27メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット
3 事実の経過
大吉丸は、専ら遊漁に使用する船体のほぼ中央に操舵室をもつ、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、同人の妻及び孫2人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成9年4月26日10時30分岡山県水島港の水島港西1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から034度(真方位、以下同じ。)3.2海里のところにある倉敷市呼松町の定係地を発し、呼松航路を南下して同港内の濃地諸島周辺海域に向かった。
A受審人は、10時50分ごろ釣場に着き、その後適宜場所を移動しながら1本釣りを行ったものの、不漁であったことから、16時00分防波堤灯台から140度1.6海里の地点の、同諸島太濃地島東端付近で釣りを止めて帰途につくこととし、周辺海域に他船が点在していたことから、機関を約16ノットの半速力前進にかけて航行した。
発航後、A受審人は、孫の1人を操舵輪左方の助手席に、妻を船尾左舷側に設けた腰掛け板に他の孫を抱いた姿勢となって腰を掛けさせ、自らは操縦席に腰を掛け、操舵を手動として同港内を北上し、16時09分防波堤灯台から050度3,100メートルの呼松航路入口付近に差し掛かったとき、針路をほぼ同航路に沿う013度に定め、航路内に他船を認めなかったことから機関を全速力前進より、やや遅い22.0ノットの速力に増速して進行した。
ところで、呼松航路は、水島航路に接続する港内航路の北東側に位置し、ほぼ北北東に向けて直線状に延びる長さ約2海里、可航幅約60メートル、水深約5メートルの水路であるが、その両岸一帯は、水深の浅い水域となっており、呼松航路の入口から北北東方約750メートルのところには、左岸から天神ヶ鼻が水路付近まで北西方に向けて凸起して突出し、天神ヶ鼻からその対岸にかけては配管橋が架けられており、この付近の水路を航行する船舶は、天神ヶ鼻の張り出し地点を航行する際には、安全に十分な余裕をもって操船し、同鼻に接近し過ぎることのないよう、保針に十分配慮して航行することが要求される水域であった。
A受審人は、16時10分少し前防波堤灯台から045度3,510メートルの天神ヶ鼻の手前約200メートルの地点に差し掛かり、間もなく前示配管橋下を航行しようとしたとき、左舷船尾方の孫の着席の様子を確かめようと、ふと体をひねって右舷船尾方から振り返ったが、わずかの間なら進路からずれることはないと思い、この際、保針に十分配慮することなく、高速力のまま続航し、操舵輪が右方にとられ、針路が右偏し、同配管橋の東端の急斜海岸に向首進行する状況となったが、後方を振り向いていたことから、この状況に気付かなかった。
大吉丸は、16時10分防波堤灯台から044度3,730メートルの地点に、原速力のまま、027度を向首して乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、大吉丸は船首部船底に亀裂を伴う破口を生じ、のち修理されたが廃船になった。また、乗揚の衝撃により、A受審人は船尾甲板上に倒れて中心性頚髄損傷を、同人の妻は操舵室後方の左舷側甲板上に投げ出されて左鎖骨骨折などを、同人に抱かれていた孫は船首方の陸岸に投げ出されて頭部外傷を、操舵輪左方に位置した孫は船尾甲板に設けられたいけすの中に倒れて頭部外傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件乗揚は、水島港内の呼松航路を定係地に向け、手動操舵に従事して高速力で北上中、保針不十分で、天神ヶ鼻の急斜海岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、水島港内の側方を陸岸に囲まれた呼松航路を定係地に向け手動操舵に従事して高速力で北上中、右舷船尾方を振り返って、孫の着席の様子を確かめようとする場合、舵が右方に偏して天神ヶ鼻の急斜海岸に接近することのないよう、保針に十分配慮すべき注意義務があった。しかるに同人は、わずかの間なら進路からずれることはないと思い、保針に十分配慮しなかった職務上の過失により、天神ヶ鼻急斜海岸に向首進行して乗揚を招き、船首部船底に亀裂を伴う破口を生じ、自らは中心性頚髄損傷を、妻に鎖骨骨折などを、孫2人に頭部外傷をそれぞれ負わすに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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