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1998年(平成10年)

平成10年函審第16号
    件名
漁船第38清栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年7月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、米田裕、大山繁樹
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第38清栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
魚倉及び機関室の船底外板にそれぞれ破口、のち廃船

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月2日07時15分
北海道厚岸湾大黒島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第38清栄丸
総トン数 8.5トン
全長 17.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
3 事実の経過
第38清栄丸(以下「清栄丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的をもって、平成9年8月1日14時00分釧路港を発航し、同日17時ごろ同港南東方沖合の漁場に到着して操業を開始した。
翌2日03時30分A受審人は、さんま約2.5トンを漁獲して操業を打ち切り、水揚げの目的をもって、船首1.0メートル船尾1.6メートルの喫水で、厚岸灯台から159度(真方位、以下同じ。)41海里の地点を発し、針路を操業船を避ける317度に定め、機関を全速力にかけて11.2ノットの対地速力で、一人で船橋当直に当たって北海道厚岸港に向かった。
ところで、A受審人は、往航の船橋当直は乗組員を交代で当たらせて休息をしたが、操業中は連続して10時間余り船橋でその指揮を執り続けであったため、漁場を発つころは疲れを覚えていたものの、目的港に入港するまで一人で船橋当直をするつもりでいた。
04時28分A受審人は、操業船を替わし終えて針路を343度とし、05時50分厚岸灯台から169度15.8海里の地点で同航船を追い越したあと、針路を大黒島南端付近に向首する349度に転じ、操舵室左舷側の椅子に腰掛けて自動操舵により進行していたところ、06時56分ごろ厚岸灯台から170度約3.5海里の地点に達したころ、操業に入ってからの連続した船橋当直の疲れから急に眠気を催した。そして、同人は、眠気を払うため椅子から立ち上がって船橋内を歩いてみたりしたものの眠気がなくならなかったが、あと少しだから何とか我慢できると思い、休息していた甲板員を昇橋させ、2人当直として居眠り運航を防止する措置をとることなく、再び椅子に腰掛けているうちいつしか居眠りに陥った。
こうして、清栄丸は、07時07分予定していた転針地点の厚岸灯台から1.5海里手前の地点に到達したが、A受審人が居眠りに陥ったまま予定の転針がなされずに続航中、07時15分厚岸灯台から140度140メートルの大黒島南端の岩礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、魚倉及び機関室の船底外板にそれぞれ破口を生じ、波浪にもまれているうち船底外板全般を損傷し、のち廃船とされた。

(原因)
本件乗揚は、北海道南東方沖合の漁場から厚岸港に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、大黒島南端の岩礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道南東方沖合の漁場から厚岸港に向けて椅子に座って一人で船橋当直に就いて航行中、長時間の連続した船橋当直の疲れから眠気を覚えた場合、椅子から立ち上がって船橋内を歩いたりしても眠気がなくならず、そのまま当直を続けると居眠り運航となるおそれがあったから、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直として居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、あと少しだから何とか我慢できるものと思い、居眠り運航を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って予定の転針がなされないまま進行して乗り揚げを招き、清栄丸の船底外板全般に損傷を生じさせ、全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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