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1998年(平成10年)

平成9年神審第84号
    件名
貨物船山星丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

早川武彦、工藤民雄、長谷川峯清
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:山星丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首部船底外板に亀裂を伴う凹傷を生じ船首水倉に浸水

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月15日20時25分
大阪湾 加太瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船山星丸
総トン数 497トン
全長 74.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
山星丸は、専ら大阪港と静岡県清水港間において、鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,402トンを載せ、船首3.50メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成8年5月15日17時40分大阪港大阪区第4区中山製鋼所岸壁を発し、清水港に向かった。
ところで、大阪港では夜間及び月間2回の日曜日は荷役は行われず、入港時刻にかかわらず直接接岸でき、荷役は業者にまかせ、乗組員が立ち会うこともなかったが、積荷に使用される陸上クレーンが四隅を固定して行う車両型で、移動に際し固定用脚部をジャッキアップせねばならず、時間がかかることから、積荷中、乗組員全員で約2時間ごとに10ないし15分かけて船体の前後シフトを行うのが通例となっていた。
一方、清水港では日曜日は荷役はなかったが、平日は昼夜にかかわらず荷役が行われ、揚荷を終えれば即出港となり、航海の都合で両港で休日にかからなければ長時間の休息は得られず、ピストン航海の状態であった。また、乗組員は2箇月乗船して2週間の休暇があり、A受審人は、同年3月に休暇をとって復船したもので、ここ2箇月くらい航海士2人が乗船していたので、A受審人を含め3人による3時間交替の3直制により船橋当直を実施していた。
これより先山星丸は、前日14日07時40分揚荷を終え、同時45分清水港を出港して大阪港に向かい、A受審人は、航海中12時から15時まで、21時から24時までの船橋当直に従事したのち休息し、翌15日大阪港入港のため05時30分に起床して入港スタンバイから着岸操船に当たり、同港で一等航海士が休暇下船したので、09時05分から始まった積荷中、残る4人でいつものように2時間おきに船体のシフト作業に従事していた。
こうして大阪港を出港したA受審人は、次席一等航海士と2人による4時間交替の2直制で船橋当直を行うこととし、出港操船に引き続いて22時までの単独の船橋当直に就き、港大橋から大関門を抜け、大阪第2号灯浮標を左舷側近くに通過したのち、堺南航路を横切って加太瀬戸に向け南西進し、同日20時04分深日港西防波堤灯台から312度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点に達したとき、針路を地ノ島東岸の地ノ島灯台に向く200度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの速力で進行した。
その後A受審人は、操舵輪の後部で背もたれ付きの肘(ひじ)かけいすに座って前路の見張りに当たっていたところ、視界も良く通航し慣れた海域であることに加え、当時風邪気味であったこともあり、気が緩み眠気を催すようになったが、加太瀬戸の北方1海里付近に達したら瀬戸の中央に向けて転針しなけばならず、まさか居眠りするはずがないと思い、平素行っていたように機関当直者を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、そのままいすに座ってラジオの野球放送を聞いているうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして山星丸は、単独の船橋当直者が居眠りし、20時20分転針予定地点に達したことに気づかず、瀬戸の中央に向け転針の措置がとられないで、地ノ島東岸に向首したまま続航中、20時25分地ノ島灯台から030度50メートルの地点に、原針路、原速力で乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に亀裂(きれつ)を伴う凹傷を生じて船首水倉に浸水したが、サルベージによって引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜風、大阪湾を加太瀬戸に向け自動操舵として航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、地ノ島東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、自動操舵として大阪湾を加太瀬戸に向け航行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、機関当直者を呼び2人当直とするなど居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、加太瀬戸北方で瀬戸の中央に向け転針しなければならず、まさか居眠りすることはあるまいと思い、2人当直とするなど居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針を行うことができないまま進行して乗揚を招き、船首船底部に亀裂、凹傷を生じさせ、船首水倉に浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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