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1998年(平成10年)

平成9年門審第51号
    件名
漁船共進丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年2月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、酒井直樹、藤江哲三
    理事官
猪俣貞稔

    受審人
A 職名:共進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底左舷中央部外板に小破口を生じて魚倉に浸水

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年7月9日08時20分
山口県角島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船共進丸
総トン数 19.08トン
登録長 16.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
共進丸は、GPSプロッターを装備した幅3.55メートル深さ1.62メートルの木製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣りの目的で、船首0.90メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成7年7月7日13時00分山口県特牛(こっとい)港を発し、同日19時ごろ沖合漁場に至って操業を開始し、越えて同月9日02時50分いか約480キログラムを獲て操業を打ち切り、角島灯台から014度(真方位、以下同じ。)56海里ばかりの地点を発進し、水揚げのため特牛港に向け帰途に就いた。
ところで、角島西方沖合には、角島灯台から332度0.7海里のところに同灯台付設の照射灯で照らされる干出岩の国石(くんせ)があり、国石から南南東方に角島西岸の夢ヶ埼まで干出岩の北国などの険礁が散在しており、A受審人は、このことをよく知っていたので、平素、国石を安全に替わすため角島の西岸1海里ばかり沖合を通航するようにして、GPSプロッターに角島灯台から270度1海里の地点を入力していた。
A受審人は、漁場を発進したとき、GPSプロッターに入力した角島灯台から270度1海里の地点に向け針路を195度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力として間もなく、甲板員に船橋当直を委ねて休息したのち、07時ごろ角島灯台から010度13海里ばかりの地点で昇橋して甲板員から当直を引き継ぎ、前示の針路、同速力で自動操舵のまま単独で当直に当たって山口県西方沖合を南下した。
08時03分ごろ、A受審人は、角島灯台から357度3.4海里ばかりの地点に達したとき、レーダーで前路2ないし3海里のところに多数の船影を認めたので前方を見張りながら進行するうちに、船外機を備えた喫水の浅い小型漁船が予定針路線上付近に多数散在して操業していることを知った。
08時13分、A受審人は、自船が角島灯台から270度1海里の地点に向け予定の針路線上を航行していることをGPSプロッターで確かめたのち、大きく針路を転じて漁船群を避航することにしたものの、角島の西岸近くには国石などの険礁が散在していることを知っていたうえ、漁船群を替わすよう操船することで船位を確認する余裕がなくなるおそれがあった。しかしながら、同人は、右舷方よりも左舷方に存在する漁船が少なく見えたので左転して近回りしようと思い、険礁に著しく接近することのないよう、右転して漁船群の沖合を迂(う)回する安全な針路を選定することなく、08時15分角島灯台から334度1.6海里の地点に達して前路の漁船群が船首方600メートルばかりとなったとき、手動操舵により左舵をとって針路を154度に転じ、折から水没中の国石などの険礁に著しく接近する針路で進行した。
こうして、A受審人は、漁船を替わしながら国石などの険礁に著しく接近する154度の針路で続航し、同時20分わずか前ようやく漁船群を右舷側に替わし終え角島から離れようとして右転中、08時20分船首が203度を向いたとき、角島灯台から332度0.7海里の地点にあたる水没中の国石に全速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底左舷中央部外板に小破口を生じて魚倉に浸水し、自力離礁したものの航行不能となり、巡視艇に曳(えい)航されて山口県下関漁港に引き付けられ、のち損傷部は修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖合漁場から山口県特牛港に向け角島西方沖合を南下中、前路で操業中の漁船群を避航する際、針路の選定が不適切で、角島西方沖合に散在する険礁に著しく接近する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖合漁場から山口県特牛港に向け角島西方沖合を南下中、前路で操業中の漁船群を避航する場合、角島西方沖合には険礁が散在していることを知っていたのであるから、これらの険礁に著しく接近することのないよう、漁船群の沖合を迂回する安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、近回りしようと思い、険礁から遠ざかるよう沖合を迂回する針路を適切に選定しなかった職務上の過失により、角島西方沖合に存在する水没中の干出岩に著しく接近してこれに乗り揚げ、船底外板に破口等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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