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海難審判庁裁決録(平成10年度)

 事業名 海難審判庁裁決録の刊行配布
 団体名 海難審判・船舶事故調査協会  




1998年(平成10年)

平成10年長審第1号
    件名
漁船第一大漁丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年6月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第一大漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底に亀裂など

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月9日22時20分
長崎県南松浦郡奈留島三ツ瀬
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大漁丸
総トン数 19トン
登録長 17.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 345キロワット

3 事実の経過
第一大漁丸(以下「大漁丸」という。)は、中型まき網漁業に従事する鋼製綱船で、A受審人ほか12人が乗り組み、操業を行う目的で、船首1.18メートル船尾2.58メートルの喫水をもって、平成9年6月9日17時00分長崎県矢神漁港田岸地区を発し、同県福江市の蠑(さざえ)螺島南東方沖合の漁場に向かった。
19時ごろA受審人は、前示漁場に着き、直ちに魚群の探索を開始したが、魚群を捕らえることができず、漁撈(ろう)長の指示で探索を中止し、21時ごろ同漁場を発航して帰途に就いた。
A受審人は、矢神漁港に向けて帰港するにあたり、滝河原瀬戸南口の奈留島とケブタ島との間の狭い水路を航過したのち、22時10分半若松島の長山189メートル頂(以下「長山頂」という。)から231.5度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点に達したとき、針路を有福島の小田崎鼻東方250メートルばかりの地点に向く345度に定めて手動操舵とし、機関を9ノットの全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて11ノットの対地速力で進行した。
ところで、滝河原瀬戸は、奈留島と若松島との間の水道で、全長約4海里、ケブタ島を挟む汐池鼻と高崎鼻間の南口の水路幅が約0.8海里で、葛島と有福島間の西口の水路幅が約1.3海里であり、有福島の西端には灯台が設置されていたものの、同瀬戸の南口に接近する際の目標となる航路標識はなく、また、奈留島の汐池鼻から同島三ツ瀬にかけての東岸には街明かりがなく、夜間の曇天下では肉眼による同島の島影を視認することが困難であった。
22時17分A受審人は、長山頂から300度1.2海里の地点に達したとき、船首方からの波で船首部に衝撃を受けたので、船体への波の衝撃を緩和しようとし、1.5海里レンジとしたレーダーで若松島の神崎鼻から奈留島に渡した送電線下を航過したのを認めたのみで、船位を確認しないまま左転し、針路を310度に転じて続航した。
転針後A受審人は、曇天の暗夜で奈留島の視認が困難であったが、平素、夜間に滝河原瀬戸を航行するときには、闇を透かして奈留島の島影を視認し、同島との離岸距離に見当をつけて航行していたところから、今回も同様に同島に接近すれば島影が見えるものと思い、同島との離岸距離を十分保てるよう、1.5海里レンジとして使用中のレーダーを更に短距離レンジに切り替えたり、自船に備えた探照灯を奈留島に向けて照射したりするなどの船位の確認をすることなく、操舵輪の前に置いた椅子に腰をかけ、前路の見張りを行いながら、時折左舷側出入口から顔を出し、闇を透かして奈留島の島影の確認に努めながら進行した。
大漁丸は、船位が確認されないまま続航中、著しく奈留島に接近する状況となり、急に波浪の影響がなくなった22時20分突然船首部に衝撃を受け、長山頂から303度1.7海里の浅瀬に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には約2ノットの北西流があった。
乗揚の結果、船首部船底に亀(き)裂などを生じたが、僚船の援助を得て離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、曇天の暗夜に五島列島の奈留島と若松島間の滝河原瀬戸を北上中、船位の確認が不十分で、奈留島三ツ瀬付近の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、曇天の暗夜に五島列島の奈留島と若松島間の滝河原瀬戸を北上中、波の衝撃を避けて転針した場合、肉眼で奈留島の島影を視認することが困難な状況にあったから、同島に著しく接近することのないよう、使用中のレーダーを短距離レンジにするなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から闇を透かして奈留島の島影を視認し、同島との離岸距離を保って無難に航行している慣れた海域であったから、今回も同様の方法で同瀬戸を航行できるものと思い、使用中のレーダーを短距離レンジにするなどして船位を確認しなかった職務上の過失により、奈留島に著しく接近していることに気付かないまま進行して同島三ツ瀬付近の浅瀬に乗り揚げ、船首船底に亀裂などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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