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1998年(平成10年)

平成9年長審第87号
    件名
漁船増吉丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年5月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:増吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷船首部及び中央部船底外板に破口を生じて浸水、のち廃船処理

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月19日23時30分
長崎県平戸島南岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船増吉丸
総トン数 9.16トン
登録長 11.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 100
3 事実の経過
増吉丸は、レーダーを装備していない一本釣り漁業に従事する木製漁船で、A受審人と同人の妻であるB指定海難関係人の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成9年7月13日08時00分佐賀県唐津港を発し、長崎県男女群島付近の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、B指定海難関係人が指示された針路の保持と見張りはできるものの、船橋当直に不慣れなうえ船位の確認はできないことから、航海中の船橋当直をほとんど1人で行い、食事時や広い海域のみ無資格の同人と交代して休息をとりながら航海を継続していた。
翌14日02時10分A受審人は、男女群島の女島東岸沖合に至り、錨泊して休息をとったのち06時30分ごろから操業を開始し、付近海域を移動しながら1日につき5時間ほど休息をとるだけで連日操業を繰り返し、きんめだい630キログラムを獲たところで操業を終え、越えて19日11時00分女島北西岸沖合の漁場を発進し、帰途に就いた。
漁場発進後、A受審人は、漁具の後片付けや食事の仕度以外はB指定海難関係人を休ませて1人で船橋当直に当たり、長崎五島列島東岸沿いを北上して相崎瀬戸に入り、22時00分平島灯台から326度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点に達したとき、通航経験豊富な平戸島東岸の津吉港沖合を通過する針路として航行するつもりで、操舵室後部左舷側壁に取り付けたGPSプロッターに同沖合のデータを入力する操作を行ったが、誤って唐津港北西方7海里ばかりのところにある波戸岬沖合のデータを入力してしまい、平戸島付近の地形図ロムカードを紛失していて同島の海岸線が同プロッターに表示されなかったこともあって、表示された針路線が津吉港南西方約2.5海里の陸岸に向かっていることに気付かないまま、針路を044度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対水速力で進行した。
定針後、A受審人は、連日操業の繰返しと長時間の船橋当直による睡眠不足の状態で疲れていたことから、B指定海難関係人当直を行わせて休息することとしたが、平戸島に接近する前に自ら起きて操船に当たるつもりでいたので、相崎瀬戸から平戸島東岸の津吉港沖合に至るまでの広い海域は同人に船橋当直を行なわせても大丈夫と思い、平戸島に接近したときには自らが船位を確認しながら操船に当たれるよう、同人に対して平戸島に接近したら報告するよう指示することなく、GPSプロッターを次の通過予定地点に合わせてあると告げただけで、操舵輪後方に敷かれた畳の上で横になって休息した。
A受審人と船橋当直を交代したB指定海難関係人は、GPSプロッターに表示された針路線に沿うよう、時々針路の修正を行いながら、次の通過予定地点のデータが誤って入力されていたことも、折からの北北西流により4度左方に圧流されながら8.4ノットの対地速力で、平戸島南岸に向首進行していることも分からないまま、続航するうち、平戸島に接近してきたのに気付いたものの、それまでにも陸岸に接近して航行することがあったので、GPSプロッターに表示された針路線こ沿って進行すれば大丈夫と思い、眠っているA受審人をそのままにし、同人に平戸島に接近してきたことを報告しなかった。
こうして増吉丸は、船位の確認が行われないまま続航中、23時30分尾上島灯台から106度2.3海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のまま平戸島南岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には弱い北北西流があった。
操舵室後部で休息していたA受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、直ちに事後の措置に当たった。
乗揚の結果、左舷船首部及び中央部船底外板に破口を生じて浸水し、クレーン船により引き降ろされたが、のち廃船処理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県五島列島東岸の相崎瀬戸から平戸島東岸の津吉港沖合に向けて航行中、船位の確認が不十分で、平戸島南岸に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して平戸島に接近した際には報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、平戸島に接近したことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受番人は、夜間、長崎県五島列島東岸の相崎瀬戸において、連日操業の繰返しと長時間の船橋当直による疲労のため休息することとし、同瀬戸から平戸島東岸の津吉港沖合に至る広い海域での船橋当直を無資格の甲板員に単独で行わせる場合、同人は指示された針路の保持と見張りはできるものの、船橋当直に不慣れなうえ船位の確認はできないから、平戸島に接近したときには自らが船位を確認しながら操船に当たれるよう、同人に対して平戸島に接近したら報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、平戸島に接近する前に自ら起きて操船に当たるつもりでいたので、相崎瀬戸から平戸島東岸の津吉港沖合に至るまでの広い海域は無資格の甲板員に船橋当直を行わせても大丈夫と思い、同人に対して平戸島に接近したら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同島に接近した旨の報告が得られず、船位の確認を行えないまま同島南岸に向首進行して乗揚を招き、左舷船首部及び中央部船底外板に破口を生じて浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き、長崎県五島列島東岸の相崎瀬戸から平戸島東岸の津吉港沖合に向けて航行中、平戸島に接近した際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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