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1998年(平成10年)

平成9年仙審第43号
    件名
漁船第三昭洋丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第三昭洋丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷外板に亀裂を伴う凹損、キール及び推進翼に曲損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月22日02時08分
青森県野辺地港北東方
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三昭洋丸
総トン数 2トン
登録長 8.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 54キロワット
3 事実の経過
第三昭洋丸は、レーダーが装備されていないFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、かれい刺し網漁に従事する目的で、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成8年8月22日01時30分青森県野辺地港を発し、同港北東方5海里の陸岸に近い漁場に向かった。
A受審人は、漁場として野辺地港から北東方10海里間の、沿岸から2.5海里沖合までの水域を指定されていた。4月から9月までの時期はかれい刺し網漁の漁期にあたり、主として同水域内の比較的沖合で操業を行っていたが、漁獲量が思わしくなかったので、この度は、同港北東方5海里で、陸岸から200から1,000メートル沖合の、水深が6メートルないし13メートルの水域で操業することにした。
ところで、A受審人は、これまで月に二度の指定休業日を除く連日01時ごろ出港し、航程が10ノットの半速力で5分から30分ほどの漁場に向かい、漁場に到達すると、幅1メートル長さ200メートルの網2枚を約30分間で仕掛け、その後仕掛けた刺網付近に投錨して約3時間待機して夜明けごろ揚網し、帰港後に漁獲物を選別して早朝の市場に水揚げしていた。したがって、港から遠い漁場で操業する際には、水揚げに間に合うように早めに出航するようにしていた。
A受審人は、この度漁場まで約30分を要するところであったが、たまたま予定より約30分遅れて離岸し、01時38分野辺地港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から093度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの港外に至り、前示漁場に向かう047度の針路に定め、機関を半速力前進にかけて10.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
定針して約10分後、A受審人は、霧模様に見舞われたが、陸上の灯火を視認することができる状況であったので、引き続き同速力で続航した。01時58分西防波堤灯台から054度3.8海里の地点に達したころ、濃霧となり、また発航から既に30分ばかり経過したので、機関を止めて測深を始めた。その結果、水深が約6メートルで予定していた漁場に達していることを知り、刺網及び錨などの操業の準備を行った。
ところが、02時02分A受審人は、さらに最適地を求めて北方へ10分ばかり移動することにしたが、視界が著しく制限された状況では、レーダーを装備していない自船にとって測深が唯一の船位を確認する手段であったから、予定の最浅水深である6メートル以下の水域に乗り入れることのないよう、機関を低速力にして魚群探知機による測深模様を連続して監視する必要があった。しかし、測得した水深が6メートルであったことから、沿岸から約200メートル沖合に位置することになり、陸岸に沿って短時間移動するだけなので、測深を続けなくても大丈夫と思い、予定操業時刻が遅れていたことも気になって機関を10.0ノットの半速力前進にかけ、測深模様を連続監視して船位の確認を十分に行うことなく、同一針路で移動を始めた。
こうして、A受審人は、次第に水深が浅くなっていくことに気付かないまま移動中、02時08分西防波堤灯台から052度4.7海里の地点において、原針路のままの船首が、沿岸に設置された消波ブロックに原速力で乗り揚げた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約10メートルで、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、右舷外板に亀裂を伴う凹損、キール及び推進翼に曲損を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、野辺地港北東方の陸岸に近い漁場において、霧のため視界が著しく狭められた状況で、漁場に到達後さらに最適地を求めて移動する際、船位の確認が不十分で、浅水域に乗り入れたまま移動したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、野辺地港北東方の陸岸に近い漁場に到達後、霧のため視界が著しく狭められた状況で、さらに最適地を求めて移動する場合、レーダーを装備していない自船にとって測深が唯一の船位確認の手段であったから、予定の最浅水深である6メートル以下の水域に乗り入れることのないよう、機関を低速力にかけて魚群探知機による測深模様を連続して監視しながら船位の確認を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、測得した水深が6メートルであったことから、沿岸から約200メートル沖合に位置することになり、陸岸に沿って短時間移動するだけなので、測深を続けなくても大丈夫と思い、機関を低速力にかけて魚群探知機による測深模様を連続監視して船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、水深が次第に浅くなっていくことに気付かないまま移動して消波ブロックへの乗揚を招き、右舷外板に亀裂を伴う凹損並びにキール及び推進翼に曲損を生じさせるに至った。






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