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海難審判庁裁決録(平成10年度)

 事業名 海難審判庁裁決録の刊行配布
 団体名 海難審判・船舶事故調査協会  




1998年(平成10年)

平成10年仙審第2号
    件名
漁船第五光栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第五光栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口、その後破口が拡大し、のち全損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月26日06時30分
岩手県種市漁港付近
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五光栄丸
総トン数 4.7トン
登録長 11.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第五光栄丸は、FRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、平成9年6月から12月までの間いか一本釣り漁の漁期にあたり、いかの北上に伴って福島県沖合から次第に北上しながら操業を行っていた。同年8月には、青森県八戸港を基地として同港沖合の漁場で、日曜日を除く連日午後出航して日没から翌朝日出まで操業し、同港魚市場に漁獲物を水揚げしていた。
越えて、9月24日午後A受審人は、八戸港を出航して操業し、翌25日早朝同港魚市場の水揚げをもって同港沖合での操業を終え、定係地の岩手県脇之沢漁港に向けて回航することになった。回航に先立ち、いつものように港内で午前中5時間余り休息をとり、同日14時00分脇之沢漁港に向かったが、途中時化模様のため、夕方八戸港に引き返した。
そこで、A受審人は、回航を翌日に延ばし、僚船の船長と連れ立って外出し、入浴及び夕食後、パチンコなどを遊興し、さらにその後、歓談しながら飲酒するうちに深夜に及ぶ3時間ばかりの間に日本酒5、6本を飲み、翌26日02時ごろ帰船して休息した。
A受審人は、2時間ほど休息したところで目覚めて出航を思い立った。しかし、前夜の飲酒がこれまでの長期間の操業で疲れた身体には殊の外効き、その程度の短時間の休息では十分とはいえない状態であり、居眠りに陥ることが予測され、また、いったん発航してしまうと単独で乗り組んでいるので、容易に休息をとることができない状況であったが、普段の操業時間帯でもあり、そのまま出航しても操船にあたるだけのことなので支障がないものと思い、出航を延期して休息を十分にとることなく、直ちに出航準備に取り掛かった。
こうして、A受審人は、単独で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日04時50分八戸港を発して脇之沢漁港に向かった。05時17分、鮫角灯台から039度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、適宜転針しながら沿岸から1海里ないし2海里沖合を航行するつもりで針路を129度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で自動操舵により進行した。その後、同時53分階上灯台から015度2.4海里の地点で、針路を岩手県八木港沖合に向く158度に転じ、レーダーの後方に置いたいすに腰掛けて見張りにあたっているうちに、長い操業からの開放と安堵感のうえ、前夜の飲酒後の休息が十分でなかったことから、急に眠気に襲われてレーダーを抱きかかえるようにして居眠りに陥った。
その後、A受審人は、折からの東寄りの風浪の影響を受けて7度ばかり西方に圧流されながら陸岸に接近していることに気付かないまま続航中、06時30分種市港沖防波堤灯台から164度1.2海里の地点において、種市漁港南方沿岸に近い浅礁に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底外板に破口を生じたが、その後船体の引き下ろしが遅れている間に波浪に洗われて破口が拡大し、のち全損として処理された。

(原因)
本件乗揚は、未明、八戸港から沿岸に寄せて脇之沢漁港まで回航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、発航前夜に飲酒した後の休息が十分にとられないまま出航して居眠りに陥り、圧流されながら陸岸に接近する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、未明、八戸港を基地としての操業を終了して同港から脇之沢漁港へ回航する場合、前夜の飲酒がこれまでの長期間の操業の疲れた身体には殊の外効き、短時間の休息では十分ではなく、居眠りに陥ることが予測され、また、いったん発航してしまうと単独で乗り組んでいるので、容易に休息をとることができない状況であったから、居眠り運航とならないよう、休息を十分にとってから出航すべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま目覚めて出航を思い立ったときが普段の操業時間帯でもあり、そのまま出航しても操船にあたるだけのことなので支障がないものと思い、飲酒後の休息を十分にとらないまま出航した職務上の過失により、居眠りに陥り圧流されながら陸岸に接近する針路で進行して乗揚を招き、船底外板に破口を生じさせ、その後船体の引き下ろしが遅れる間に波浪に洗われて破口が拡大し、のち全損として処理されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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