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1998年(平成10年)

平成10年仙審第26号
    件名
漁船第十八英丸プレジャーボートことぶき衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第十八英丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ことぶき船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
英丸…損傷なし
ことぶき…船外機に擦過傷及び右舷側中央部外板に破口

    原因
英丸…動静監規不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ことぶき…音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十八英丸が、動静監規不十分で、前路で漂泊中のことぶきを避けなかったことによって発生したが、ことぶきが、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、避航を促す音響信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月16日14時00分
宮城県御崎岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八英丸 プレジャーボートことぶき
総トン数 13トン
全長 19.98メートル 6.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 433キロワット 44キロワット
3 事実の経過
第十八英丸(以下「英丸」という。)は、かにかご漁業に従事する軽合金製漁船でA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、平成9年1月16日05時00分宮城県波路上(はじかみ)漁港を発し、06時30分御崎岬東北東方沖合の漁場に至って操業を行い、毛がになど約50キログラムを獲て操業を終え、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、12時49分陸前御崎岬灯台から078度(真方位、以下同じ。)13.1海里の地点を発進して帰途に就いた。
ところで、英丸は、船体中央部に操舵室を備え、同室中央前面の床上に同室暖房用の温風ヒーター(以下「ヒーター」という。)とその上方50センチメートルの内壁にヒーターのスイッチを設置していた。
A受審人は、1人で船橋当直にあたり、操舵室内に立って前面の窓ガラス越しに見張りを行い、発進と同時に針路を251度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけて11.6ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、13時57分少し過ぎ陸前御崎岬灯台から165度1.4海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルに漂泊していることぶきの白い船体を初めて認めたが、帰途に就いたときから作動しなかったヒーターのスイッチの点検を中腰になって始めた。
こうして13時58分半A受審人は、正船首500メートルにことぶきを認めることができるようになり、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、引き続きヒーターのスイッチを点検することに気を取られ、同船に対する動静監視を行わなかったので、これに気付かず、同船を避けないまま続航中、14時00分陸前御崎岬灯台から186度1.5海里の地点において、英丸は、原針路、原速力のまま、その船首部がことぶきの船尾右舷側に真後ろから衝突し、その反動で右旋回した同船の右舷側中央部に再び衝突した。
当時、天候は晴で風力4の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、ことぶきは、船外機付きのFRP製プレジャーモーターボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.65メートルの喫水をもって、同日10時00分宮城県松岩漁港を発し、大島北部の外浜(そとはま)地区の沖合に至り、魚釣りのため漂泊したのち、12時20分天候がよいことから気仙沼湾外の御崎岬南方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、12時30分御機崎岬南方の前示衝突地点付近の釣り場に到着し、船首からパラシュートの直径4メートル、ロープの長さ30メートルの市販のパラシュート型シーアンカーを海中に投入してシーアンカーロープを船首の綱止めに係止したのち、機関を停止し、漂泊してことぶきの中央部に腰掛けて左舷正横を向いた姿勢で魚釣りを始め、風潮流によって流されるたびに同シーアンカーを揚収して潮昇りした。
ところで、ことぶきは、有効な音響信号装置である空気式ホーンを備えていたものの、操縦席前部の格納庫に収納しており、直ちに有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかった。
B受審人は、帰港時刻に近付いたので、船外機の右舷側に移動して釣り竿等の仕掛けの片付けを始め、2組目を片付けていた13時58分半船首が251度を向いていたとき、正船尾方500メートルに自船に向けて来航する英丸め船首を初認し、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況を認めたが、音響信号を行うことができる手段を講じていなかったので、避航を促す音響信号を行うことができないまま、更に接近すれば漂泊している自船を避けてくれるものと思い、直ちにシーアンカーロープを解いて移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらず、14時00分少し前同船が間近になったのを認め、船尾床面より40センチメートル高いステップに立って赤いタオルを振ったが効なく、ことぶきは、その船首が251度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、英丸は損傷なく、ことぶきは船外機に擦過傷及び右舷側中央部外板に破口を生じ、B受審人は海中に転落したが、間もなく英丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、御崎岬南方沖合において、帰航中の第十八英丸が、動静監視不十分で、前路で漂泊していることぶきを避けなかったことによって発生したが、ことぶきが、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、避航を促す音響信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、御崎岬南方沖合において、帰航中、船首方に漂泊していることぶきを視認した場合、衝突するおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操舵室のヒーターのスイッチを点検することに気を取られ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、同船の船外機に擦過傷及び右舷側中央部外板に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、御崎岬南方沖合において、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊中、自船に衝突のおそれがある態勢で接近する第十八英丸を認めた場合、避航を促すための有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかったのであるから、直ちにシーアンカーロープを解いて移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、第十八英丸が更に接近すれ漂泊している自船を避けてくれるものと思い、直ちにシーアンカーロープを解いて移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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