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1998年(平成10年)

平成9年門審第44号
    件名
漁船暁丸貨物船シビルスキー-2119衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、吉川進、岩淵三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:暁丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
暁丸…右舷船首部に損傷
シ号…左舷船首部外板に塗装剥離と左舷側中央部外板に擦過傷

    原因
暁丸…灯火・形象物(漁ろうに従事する船舶の形象物)不表示、動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守、
シ号…警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、暁丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、シビルスキー-2119が、警告信号を吹鳴せず、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月16日10時02分
瀬戸内海周防灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船暁丸 貨物船シビルスキー-2119
総トン数 4.71トン 3,743トン
全長 129.5メートル
登録長 9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,324キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
暁丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成8年2月16日06時50分大分県小祝漁港を発し、周防灘航路第2号灯浮標(以下「周防灘航路」を冠した灯浮標名については冠称を省略する。)付近の漁場に向かった。
A受審人は、08時30分目的の漁場に至り、船体中央部操舵スタンドの両舷に取り付けたドラムからそれぞれ直径10ミリメートルのワイヤー製の引き綱を140メートル延ばし、各ワイヤーに鉄製の桁(けた)網と長さ約5.4メートルの網を取り付け、また、船体中央部から両舷正横方にそれぞれ長さ5.5メートルの竿(さお)竹を出し、竿竹の先端に取り付けたロープに引き綱を止めて絡みを防止し、更に、操舵スタンドの後方に高さ5メートルのボックと呼ばれる、網を船内に引き込むための梯子(はしご)型ブームを斜めに立て、トロールにより漁ろうに従事していることを示す船舶の形象物を掲げないまま操業を始めた。
09時44分A受審人は、佐波島灯台から213度(真方位、以下同じ。)10.7海里の地点で、2回目の網を揚げ反転しながら左回頭しているとき、第3号灯浮標方の距離約3海里に左舷を見せて接近して来るシビルスキー-2119(以下「シ号」という。)を初めて視認したが、同船との距離が離れていたことから、同船が自船を避けてくれるものと思い、同時49分針路を025度に定め、機関を全速力前進にかけて30ノットの曳(えい)網速力で曳網を始め、引き続き同船の動静監視をすることなく、右舷船尾の甲板上にかがんで左舷後方を向きながら漁獲物の選別作業に取り掛かった。
09時53分A受審人は、佐波島灯台から213度10.5海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首59度1.5海里に、シ号が方位に変化のないまま衝突のおそれがある態勢で接近していたが、船尾で漁獲物の選引をしていてこのことに気付かず、右転するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらずに続航中、10時02分佐波島灯台から214度10.0海里の地点において、暁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部に、シ号の左舷船首が、後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、シ号は、2基2軸で1枚舵の鋼製貨物船で、船長B及び三等航海士Cほか16人のロシア人船員が乗り組み、コークス2,522トンを積載し、最大喫水3.40メートルをもって、同月15日14時30分姫路港を発し、ロシア連邦ウラジオストック港に向かった。
翌16日08時00分C三等航海士は、佐波島灯台から134度17.6海里の地点で一等航海士から航海当直を引き継ぎ、甲板員Dと共に船橋当直に就き、同時57分第4号灯浮標を左舷正横0.3海里に見て航過したとき、針路を282度に定め、機関を全速力前進にかけて9.2ノットの対地速力とし、自動操舵で進行した。
09時30分C三等航海士は、佐波島灯台から185度9.4海里に至り、左舷船首20度5海里ほどのところに7隻の操業漁船を、右舷船首10度5海里ほどのところに6隻の操業漁船をそれぞれ認め、甲板員に命じて手動操舵に切り替えて進行中、09時45分佐波島灯台から199度9.5海里に達したとき、左舷船首10度2.8海里に暁丸を初めて視認した。
09時53分C三等航海士は、佐波島灯台から206度9.7海里の地点で、左舷船首18度1.5海里に形象物を表示していない暁丸を認め、同船が前路をゆっくり右方に進行して方位に明確な変化がなく、衝突するおそれがある態勢で接近する状況になったが、同船の船尾から出ている漁具の引き綱を視認することができ、また、速力遅いことから形象物がなくとも何らかの作業に従事していることを把握できたところ、同船の状態を十分に確認せず、そのうちに右転して避航すると思い、この際に最も有効であった警告信号を行わず、低速力の同船を避ける機会が多くあったものの、右転するなどの避航措置をとらないまま続航した。
10時01分C三等航海士は、暁丸との距離が300メートルになったとき、衝突の危険を感じ、急いで機関を後進一杯にかけ、右舵一杯をとったか及ばず、シ号の船首が右転して345度を向いたとき、少しの前進惰方で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、暁丸は、右舷船首部に損傷を生じたが、のち修理され、シ号は左舷船首部外板に塗装剥離と左舷側中央部外板に擦過傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、周防灘において、低速力で曳網しながら北止中の暁丸と、西行中のシ号とが、衝突のおそれがある態勢で互いに接近した際、暁丸が、トロールにより漁ろうに従事する船舶の形象物を表示せず、かつ、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、シ号が、警告信号を吹鳴せず、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、周防灘航路第2号灯浮標付近の漁場で操業中、推薦航路線に沿って西行しながら接近するシ号を認めた場合、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、シ号が自船を替わしてくれるものと思い、船尾で漁獲物の選別に気を取られ、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、暁丸の右舷船首部を損傷させ、シ号の左舷船首部外板に塗装剥離と左舷中央部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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