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1998年(平成10年)

平成10年門蕃第8号
    件名
押船第二げんかい被押バージ第二げんかい漁船第2幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤賢、西山烝一、岩淵三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:第二げんかい船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第2幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
げんかい押船列…バージ第二げんかいの右舷船首部に擦過傷
幸丸…左舷船底に破口並びに舵及び推進器翼に曲損などを生じて転覆、のち廃船処分

    原因
げんかい押船列…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二げんかい被押バージ第二げんかいが見張り不十分で、漂泊中の第2幸丸を避けなかったことによって発生したが、第2幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの五級海技士(航海)(旧就業範囲)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月21日16時30分
福岡県姫島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 押船第二げんかい バージ第二げんかい
総トン数 105トン
全長 27.01メートル 74.47メートル
幅 18.00メートル
深さ 6.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1.471キロワット
船種船名 漁船第2幸丸
総トン数 4.12トン
全長 10.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50
3 事実の経過
第二げんかい(以下「げんかい」という。)は、2基2軸及び2舵を装備した押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉で船首21メートル船尾2.7メートルの喫水となった、砂利採取装置を備えた鋼製バージ第二げんかいの船尾凹部に船首部を嵌(かん)合し、全長92メートルのげんかい被押バージ第二げんかい(以下「げんか押船列」という。)とし、船首2.8メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成9年6月21日10時40分関門港若松区の黒崎物揚場を発し、佐賀県唐津港に向かった。
ところで、バージ第二げんかいの船首部に旋回式クレーン、後部に砂利選別機及び鳥居形マストが設置されていることから、げんかいの船橋から船首方を見たとき、これらの構造物により部分的に前方の見通しが妨げられて死角が生じていたので、当直者は、船橋内を移動するなどして死角を補う見張りを行う必要があった。
A受審人は、発航時から操船に当たり、11時55分関門航路西口を通過したとき甲板員に船橋当直を引き継いで降橋し、しばらく休息したのち14時筑前大島の曽根鼻南方1.3海里の地点で昇橋して、前直者と交替して単独で船橋当直に就き、玄界灘を西行して16時17分大門埼沖合の、芥屋港第2防波堤灯台から335度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、針路を姫島の北岸を左舷方に0.3海里離す235度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの微弱な南西流に乗じて10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針後A受審人は、3海里レンジとしたレーダーを時々監視しながら見張りに当たり、16時24分ほぼ正船首1海里のところ漂泊中の第2幸丸(以下「幸丸」という。)を視認することができる状況であったが、前路に他船はいないものと思い、レーダーを監視したり、船橋内を移動したりなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うことなく、そのころ右舷側から雨が降り込んでいたことから、船橋左舷側のウイングの庇(ひさし)下に立って当直を続けていたので、同船に気付かなかった。
16時27分少し前A受審人は、幸丸に正船首1,000メートルに近づき、衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、見張りが不十分で、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、16時30分筑前ノー瀬灯標から315度1.8海里の地点において、げんかい押船列は、原針路、原速力のまま、バージ第二げんかいの右舷船首が幸丸の左舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力3の西風が吹き、潮候はぼ低潮時で、付近には微弱な南西流があった。
A受審人は、衝撃を感じなかったことから衝突したことに気付かないまま航行を続け、17時30分唐津港に着岸したのち海上保安部の調査を受け、衝突したことを知った。
また、幸丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日06時30分福岡県船越漁港を発し、姫島北東方約1,000メートル沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時10分同漁場に至り、長さ約250メートル幅約1.5メートルで両端に浮標を付けた刺し網1組を、潮の流れに直角方向に投入して流し刺し網漁を始め、約40分間流してから揚収したあと、潮上りを行って他の1組の刺し網を同様に投入し、その間に漂泊して揚収した網から漁獲物を外す作業などを繰り返しながら操業を続けた。
16時ごろB受審人は、6回目の投網を終えたあと、機関を中立回転としてパラシュート型シーアンカーを船首から投入し、左舷前部甲板の舷縁に腰を掛け、左舷前方を向いて網から漁獲物を外す作業を始め、16時24分前示衝突地点付近で船首を255度に向けて漂泊しながら同作業を行っていたとき、右舷船尾20度1海里のところに自船に向けて来航するげんかい押船列を視認することができる状況であったが、漁獲物を整理することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
16時27分少し前B受審人は、げんかい押船列が同方位1,000メートルに近づき、同船が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近してきたが、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、パラシュート型シーアンカーのロープを放して機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊しているうち、幸丸は、船首を255度に向けて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、げんかい押船列は、バージ第二げんかいの右舷船首部に擦過傷を生じ、幸丸は、左舷船底に破口並びに舵及び推進器翼に曲損などを生じて転覆したが、僚船により定係港に引き付けられ、のち廃船処分とされた。また、B受審人は、衝突時に海中に投げ出され、幸丸の船底に掴(つか)まっているところを帰港中の僚船に救助された。

(原因)
本件衝突は、福岡県姫島北東沖合において、南下中のげんかい押船列が、前方の見張り不十分で、前路漂泊中の幸丸を避けなかったことによって発生したが、幸丸が周囲の見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、福岡県姫島北東沖合において、単独で見張りと操舵に当たり、船首方に死角を生じた状態で航行する場合、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、船橋内を移動するなどして船首方の死角を補い、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の幸丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、バージ第二げんかいの右舷船首部に擦過傷を、幸丸の左舷船底に破口並びに舵及び推進器翼に曲損などを生じさせて転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)(旧就業範囲)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、福岡県姫島北東方沖合において、漂泊して揚収した刺し網から漁獲物を外す作業を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物を整理することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近するげんかい押船列に気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊しているうち同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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