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1998年(平成10年)

平成10年門審第62号
    件名
漁船八幡丸プレジャーボートスキッパー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

細中美秀、伊藤實、西山烝一
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:八幡丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:スキッパー船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
八幡丸…船首端に擦過傷
スキッパー…右舷外板に亀裂、キャビン上部が倒壊、船内に浸水し転覆、全損、同乗者1人が約20日間の治療を要する左肩、左肘打撲、頸部捻挫並びに右肋骨及び腰部挫傷

    原因
八幡丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
スキッパー…灯火・形象物(球形形象物)不表示、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、八幡丸が、見張り不十分で、錨泊中のスキッパーを避けなかったことによって発生したが、スキッパーが、錨泊中を示す法定形象物を掲げず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月2日07時00分
関門海峡西口海域
2 船舶の要目
船種船名 漁船八幡丸 プレジャーボートスキッパー
総トン数 8.5トン
全長 15.80メートル 7.330メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 250キロワット 102キロワット
3 事実の経過
八幡丸は、夕刻出漁して翌朝帰港するいか一本釣漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が息子の甲板員と2人で乗り組み、平成9年8月1日14時00分山口県特牛(こっとい)港を発し、福岡県沖ノ島沖合の漁場に向かった。
A受審人は、17時ごろ漁場に到着し、シーアンカーを投入したのち、日没を待って操業にかかり、翌2日00時ごろ操業が一段落したところで甲板員に後の仕事を任せ、船員室で仮眠をとり、03時00分甲板員に起こされて起床したところ、いか120キログラムの漁獲があったので、シーアンカーや船尾三角帆などの後片付けを済ませて帰港することとし、03時30分船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって漁場を出発し、特牛港に向かった。
A受審人は、漁場を出発後、甲板員を船員室で休ませ、1人で航海当直に立ち、操舵室右舷側で折り畳み式のいすに腰掛け、そのままの姿勢では船首の浮上と前後のマスト間に連ねて取りつけられた集魚灯で、前方の見通しが十分でなかったので、時折り操舵室天井の天窓から顔を出し、前方の見通しの悪い状態を補いながら、見張りとレーダー監視にあたっているうち、漁獲量と到着時刻から考慮して水湯げを下関漁港でするほうが好都合と判断し、目的地を変更して下関漁港に向けた。
06時41分半A受審人は、蓋井島灯台から220度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点に達したとき、針路を130度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行し、同時50分同灯台から173度2.4海里に至ったところで、操舵室の天窓から上半身を出して前方を見たが、釣船など他船を見かけなかったので、操舵室のいすに再び腰掛けて操舵と見張りについた。
A受審人は、次第に船舶が輻輳(ふくそう)する関門港西口に接近していたものの、天井の天窓から頻繁に前方を見渡すなど、前方の見通しの悪さを補う見張りを行わず、レーダーを1.5海里のレンジにかけてこれを監視し、いすに腰掛けたまま見張りを続けていたところ、06時57分正船首方1,100メートルに描泊中のスキッパーを認めることのできる状況になったが、7分ほど前に天窓から上半身を出して前方を確認した折に、何も見かけなかったことから、前方に他船はいないものと思い、スキッパーの映像が小さくレーダー画面の船首尾輝線上に隠れていたことと、無線電話による僚船同志の会話の聴取に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかったので、スキッパーに気づかず、同船を避けないまま続航中、07時00分大藻路岩灯標から01.3度1.7海里の地点で、八幡丸は、原針路・原速力のまま、スキッパーの右舷船尾に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視程は2海里であった。
また、スキッパーは、操縦席から遠隔操作できる船外機1基を備えたFRP製プレジャーボートで、球形形象物、呼笛などの法定備品を積み込み、B受審人が1人で乗り組み、友人1人及びその連れ2人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同2日06時10分関門港若松区若戸大橋下戸畑寄りの船溜(だま)りを発し、鯵(あじ)釣りを楽しむため、大藻路岩沖合の釣場に向かった。
B受審人は、目的の釣場に単独で来るのは初めてで、知り合いの遊漁船の船長から得た情報に従って、プロッターに入力した目的地点に、途中魚群探索をしながら向かい、06時55分水深30メートルの前示衝突地点に達したので機関を停止し、船首から7.5キログラムの錨を投入し、径12ミリメートルの合繊ロープの錨索を40メートルほど延ばし、末端は船首左舷側のクリートに固定し、船首は折からの風に立って160度に向き、付近は関門航路西側出口から出入する大小船舶の通航路であったものの、球形形象物を掲げないまま錨泊を開始した。
06時58分半少し過ぎB受審人は、投錨作業を終え、舵輪の後方の場所で釣竿の用意をしていたところ、右舷船尾30度500メートルから自船に向首して来航する八幡丸を視認したが、知り合いの遊漁船が釣果でも聞きにきたもので、そのうち自船を避けるものと思い、釣りの準備を続けているうち、八幡丸はその後もスキッパーを避ける気配を示さないまま同針路・同速力のまま接近したが、船外機を始動させて移動するなど、衝突を避けるための措置をとらず、07時00分少し前八幡丸が100メートルにまで迫ったとき、同船に装備されたレーダーを見て、知り合いの遊漁船と異なる船舶であることに気づき、友人達と大声で注意喚起したが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、八幡丸は、船首端に擦過傷を生じ、スキッパーは、右舷外板に水平方向の亀裂を生じ、キャビン上部が倒壊したうえ、船内に浸水し、八幡丸に横抱えされて下関漁港に運ばれたが、着岸中右舷側から転覆し、費用の面で全損扱いとされ、衝突の寸前、B受審人と同乗者2人は海中に飛び込んで難を逃れたが、友人のCは、衝突時の衝撃で約20日間の治療を要する左肩、左肘打撲、頸部捻挫並びに右肋骨及び腰部挫傷を負った。

(原因)
本件衝突は、関門海峡西口において、下関漁港に向かって南下中の八幡丸が、見張り不十分で、錨泊中のスキッパーを避けなかったことによって発生したが、スキッパーが、球形形象物を掲げず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、船首の浮上と集魚灯などで前方の見通しが悪い状態のまま、沖合の漁場から水揚げのため下関漁港へ向かう場合、漁港に近づくにつれて釣船などに遭遇することが多くなるから、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、天窓から前方を一瞥(べつ)したとき、他船を見かけなかったことに気を許し、前方に他船はいないものと思い、いすに腰掛けたまま無線電話による僚船同志の会話の聴取に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊していたスキッパーに気づかず、同船を避けずに進行して衝突を招き、スキッパ一の右舷外板に亀裂を生じ、浸水して転覆させたうえ、同乗者に打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船舶の往来が頻繁な関門海峡西口において、錨泊して釣りを始めようとしたところ、右舷後方から自船に向首して接近する八幡丸を認め、更に接近するも同船に避航の気配が認められない場合、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、八幡丸は釣果でも聞きにきた知り合いの遊漁船で、そのうち自船を避けるものと思い、船外機を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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