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1998年(平成10年)

平成10年神審第8号
    件名
瀬渡船明石丸プレジャーボート住吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、清重隆彦、西林眞
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:明石丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
明石丸…船首に擦過傷、推進器翼等を曲損
住吉丸…船尾を大破して水船となり、のち廃船、運転者が溺死

    原因
住吉丸…灯火・形象物不表示、船員の常務(衝突回避処置)不遵守(主因)
明石丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、住吉丸が、自船の存在を示す十分な灯火を表示しないで航行したばかりか、明石丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、明石丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月15日20時50分
兵庫県明石港
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船明石丸 プレジャーボート住吉丸
総トン数 3.3トン
全長 11.83メートル
登録長 4.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 209キロワット
3 事実の経過
明石丸は、FRP製瀬渡船で、A受審人が単独で乗り組み、明石港西外港南防波堤の西端及び東端付近に渡していた2人の釣客を収容する目的で、平成9年7月15日20時45分、明石港東外港南防波堤灯台から030度(真方位、以下同じ。)380メートルにある、内港泊地内の定係地を発し、航行中の動力船の灯火を表示して明石港西外港南防波堤(以下灯台及び防波堤の名称については「明石港西外港」を省略する。)西端に向かった。
ところで、明石丸は、明石釣具店を経営するBが専ら明石港内の各防波堤に釣客を送迎する渡船として使用しており、A受審人は、同年4月から船長として乗り組み、主に午後から21時の最終便までの運航を任せられていた。
こうしてA受審人は、船体中央やや船尾寄りにある操舵室の右舷側躁縦席に腰掛けて操舵、操船を行い、徐々に機関の回転を上げながら出航し、20時48分半西防波堤灯台から096度600メートルの地点に達したとき、針路を同灯台にほぼ向首する275度に定め、機関を回転数毎分2,000の港内全速力として13.5ノットの速力で進行した。
A受審人は、南防波堤に釣客を乗り降りさせる際、西外港泊地内に向いた同防波堤北面が海面からの高さが南面より低く、消波ブロックが投入されていない部分があるので、平素から西外港泊地内に入ったうえ北面に船首着けするようにしていた。
20時49半わずか前A受審人は、西防波堤灯台から098度190メートルの地点に達したとき、南防波堤西端、沖防波堤東端及び西防波堤東端によって囲まれる幅50メートル弱の狭い水路を経て西外港泊地内に入るため、機関を回転数毎分1,500に下げ、8.0ノットの速力で続航した。
そのころA受審人は、左舷前方140メートルのところに住吉丸のCが頭部に装着していたヘッドランプの明かりが数秒間目に入ったが、夜釣りをする釣人が常用するヘッドランプの灯火に光り方が似ていたことから、防波堤上の釣人の灯火と思い、更に減速してその灯火を確認するなど、前路の見張りを厳重に行わなかったので、住吉丸の船首部ポール上部に点灯して下げられていた携帯電灯の微弱な光芒(こうぼう)を認めることができないまま、同船の存在に気付かず、機関を使用して行き脚を停止するなど、衝突を避けるための措置をとらないで進行した。
20時50分わずか前A受審人は、沖防波堤灯台を左舷約30メートル離して通過したとき、西外港泊地内に入航するため右舵をとって回頭中、20時50分西防波堤灯台から091度40メートルの地点において、ほぼ325度を向いた明石丸の右舷船首が、住吉丸の船尾付近に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は曇りで風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝撃を感じて浮流物に衝突したものと思い、機関を停止したところ、防波堤上にいた人から船と衝突した旨知らされ、後方を確認し、水船となった住吉丸と海面にうつ伏せに浮いているCを認めた。
また、住吉丸は、和船型FRP製プレジャーボートで、Dが釣りなどの遊漁に使う目的で知人から譲り受け、自宅から歩いて1分ほどにある、西防波堤灯台から020度150メートルばかりの、西外港泊地内北側に係留し、専ら休日などの昼間に8馬力の船外機を搭載して南防波堤南方沖合の明石港内で一本釣りを楽しんでいたところ、同人の父親であるCが、当時無職で、若いころ20年間ほど地元で漁業を営んでいたことから、天気の良い小潮の折など、夜間にあなご延縄(はえなわ)漁を趣味を兼ねて行っていた。
Cは、海技免伏を受有していなかったうえ住吉丸には航海灯の設備がなかったので、船外機を外して櫓(ろ)のみで運航し、船首部に立てたポール上に単1型乾電池6本入りの携帯電灯を下げ、これを点灯して西防波堤、南防波堤及び沖防波堤の北側のいずれかに、釣針130本ほどに餌(えさ)をつけた延縄を仕かけ、数十分後にこれを揚げることにしていた。
こうしてCは、同日18時30分ごろ前示係留地の住吉丸に赴き、いかなごを餌として釣針に付けるなどの準備を行ったうえ、1人で櫓を使って漕ぎだし、沖防波堤の北側に至り、同防波堤沿いに延縄を投入したのち、19時30分ごろ自宅に帰って食事をとった。
20時00分ごろCは、再び住吉丸係留地点に戻り、5分間ばかり櫓を漕いで沖防波堤に至って揚縄を開始し、同時45分ごろこれを終えて帰る準備をした。そして、船首部のポール上の携帯電灯を点じ、また、単1型乾電池4本入り容器を腰に付けて、これを電源とするヘッドランプを,点灯し、同時49分半わずか前、西防波堤灯台から126度60メートルの地点を発進して右舷側を向いた姿勢で櫓を漕ぎ、針路を南防波堤西端を船首少し右舷側に見る355度とし、2.0ノットの速力で進行した。
発進時Cは、右舷側140メートルばかりに来航する明石丸の白、紅2灯を視認できたが、そのまま進行すれば相手船の前路を航過できると判断したものか、船首部ポールに取り付けていた携帯電灯の灯火を相手船の方に向けて自船の存在を明確に知らせず、また、櫓を漕ぐのを中止するなどして衝突を避けるための措置を取ることなく進行し、間もなく相手船の船首方を通過したものの、同船が西外港泊地内に向け右転を開始し、住吉丸の船首が355度を向いた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、明石丸は、船首に擦過傷を生じたのみであったが、A受審人が海に飛び込んでCの救助に当たって無人となり、漂流中に消波ブロックに打ち上げられて推進器翼等を曲損したが、のち修理され、住吉丸は、船尾を大破して水船となり、のち廃船とされた。また、C(大正12年12月11日生)は、A受審人にかかえられて漂流していたところを通航中の漁船に救助され、病院に搬送されたが、すでに溺死していた。

(原因)
本件衝突は、夜間、明石港西外港泊地入口の3本の防波堤で囲まれる水路において、櫓を漕いで入航中の住吉丸が、自船の存在を示す十分な灯火を表示しないで航行したばかりか、明石丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、釣客を収容するため同泊地入口に接近中の明石丸が、前路の見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、渡船業務のため、単独で操船して明石港西外港泊地入口の3本の防波堤で囲まれる水路から同泊地内に入ろうとして航行中、左舷前方に数秒間点滅した明かりを認めた場合、減速してその灯火の確認を行うなど、前路の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、防波堤上の釣人の灯火と思い、減速して灯火の確認を行うなど、前路の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、櫓を漕いで入航中の住吉丸の船首に掲げられていた携帯電灯の微弱な光芒を見落とし、同船との衝突を避ける措置をとることなく進行して衝突を招き、明石丸の船首部に擦過傷を生じさせ、住吉丸の船尾部を破損させて水船とし、船上で櫓を漕いでいたCを溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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