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1998年(平成10年)

平成10年神審第25号
    件名
漁船なぎさ丸遊漁船大栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

清重隆彦、須貝壽榮、山本哲也
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:なぎさ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:大栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
なぎさ丸…左舷船首部カンヌキなどが損傷
大栄丸…船橋左舷側を大破、釣客1人が頚椎捻挫

    原因
なぎさ丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大栄丸…注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、なぎさ丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の大栄丸を避けなかったことによって発生したが、大栄丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月26日10時00分
京都府竹野郡浅茂川港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船なぎさ丸 遊漁船大栄丸
総トン数 3.95トン 2.99トン
登録長 10.15メートル 10.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 180キロワット 25キロワット
3 事実の経過
なぎさ丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、平成8年11月26日09時30分京都府浅茂川港を発し、同港北西方沖合の漁場に向かった。
09時45分A受審人は、浅茂川港東防砂堤灯台(以下「防砂堤灯台」という。)から351度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を323度に定め、機関を全速時よりも少し下げた回転数毎分1,400に掛け8.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
A受審人は、操舵室後方入口の外側に置いた台上に立ち、同室前面窓ガラスを通して見張りに当たり、平素は多くの遊漁船が錨泊して一本釣り漁を行っている海域を航行中、09時56分防砂堤灯台から336度2.7海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,000メートルのところに停止している大栄丸を視認することができる状況であったが一瞥(いちべつ)して前路に他船はいないものと思い、大栄丸を視認しないまま操舵室内に入り、手動操舵に切り替えて魚群探知器の調整操作に取り掛かった。
こうしてA受審人は、同操作を続けるうち、09時58分半少し過ぎ大栄丸が、正船首300メートルとなり、錨泊中形象物を掲げていなかったものの船首を風に立て南南西方に向き、同船の船首から延出した錨索を視認することができ、錨泊中であると認めることができる状況であったのにもかかわらず、依然、前路に他船はいないものと思い、操舵室内で魚群探知器及びGPSプロッターの調整操作に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、これを避けなかった。
A受審人は、同じ針路及び速力で続航し、10時00分防砂堤灯台から334度32海里の地点において、なぎさ丸は、その左舷船首部が、大栄丸の左舷中央部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で弱い南南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、大栄丸は、主として遊漁に従事するFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客Cほか1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日08時30分京都府久美浜港を発し、浅茂川港北西方の釣場に向かった。
09時30分B受審人は、予定の釣場に到着し、水深約100メートルの海底に長さ130メートルばかりの化学繊維索に結び付けた重さ約22キログラムの錨を入れ、錨泊中形象物を掲げないまま錨泊を開始し、やがて釣客とともに釣りを始めた。
B受審人は、09時58分半少し過ぎ前示衝突地点で、203度に向首した大栄丸の錨索に釣糸が絡みそうになったので、船首部で同索を手繰り上げていたとき、左舷船首60度300メートルのところに自船に来航するなぎさ丸を初めて認め、その後同船が自船を避けないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、相手船が避けるものと思い、備付けの電気ホーンを鳴らして注意喚起信号を行わなかった。
大栄丸は、同じ方向を向いたまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、なぎさ丸は左舷船首部カンヌキなどが損傷し、大栄丸は船橋左舷側を大破したがのちいずれも修理された。また、C釣客が頚椎捻挫などを負った。

(原因)
本件衝突は、京都府浅茂川港沖合において、なぎさ丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の大栄丸を避けなかったことによって発生したが、大栄丸が注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、京都府浅茂川港沖合を漁場に向けて航行する場合、錨泊中の大栄丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に他船はいないものと思い、操舵室内で魚群探知器及びGPSプロッターの調整操作に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大栄丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して大栄丸との衝突を招き、なぎさ丸の左舷船首部カンヌキなどを損傷させるとともに、大栄丸の船橋左舷側を大破させ、C釣客に頚椎捻挫などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、京都府桟茂川港沖合で錨泊中の形象物を掲げないまま錨泊して釣りを行っている際、左舷前方になぎさ丸を視認し、その後同船が自船を避けないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、備付けの電気ホーンを鳴らして注意喚起信号を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、相手船が避けるものと思い、電気ホーンを鳴らして注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、なぎさ丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、釣客を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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