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1998年(平成10年)

平成10年仙審32号
    件名
漁船第五十五八重丸漁船第二十五富丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋明雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第二十五富丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
八重丸…右舷船首部に亀裂を伴う凹損
富丸…船首部に軽微な損傷

    原因
富丸…見張り不十分

    主文
本件衝突は、着岸する第二十五富丸が、見張り不十分で、岸壁に係留中の第五十五八重丸との距離を十分にとらなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月19日05時30分
青森県八戸漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十五八重丸 漁船第二十五富丸
総トン数 138トン 99.88トン
登録長 30.33メートル 30.19メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 536キロワット 544キロワット
3 事実の経過
第五十五八重丸(以下「八重丸」という。)は、いか釣り漁業に従事する船体中央部に操舵室を備えた鋼製漁船で、船長Bほか7人が乗り組み、船首1.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、水揚げの目的で、平成8年12月18日11時30分青森県八戸漁港館鼻地区に入港し、第3魚市場前面の荷揚岸壁に着岸した。
ところで、第3魚市場の荷揚岸壁は、前面が南北に長さ370メートルの岸壁(以下「前面岸壁」という。)、北側が東西に長さ210メートルの岸壁(以下「北側岸壁」という。)及び南側が東西に長さ320メートルの岸壁(以下「南側岸壁」という。)の3箇所からなる逆コの字型の係留施設で、大・中型いか釣り漁船専用の荷揚岸壁となっており、夜間、前面及び南側岸壁は、第3魚市場の防火及び盗難防止の目的で同市場施設内部の蛍光灯とその岸壁側上部外壁に点灯される街灯型の照明灯により照らし出されていた。また、前面岸壁は、水揚げする漁船が多いときは着岸の順番待ちが必要であり、入港した漁船が直接同岸壁に着岸できないことがあった。
八重丸は、翌19日05時30分八戸大橋橋梁灯から107度(真方位、以下同じ。)1,240メートルにある前面岸壁の南端(以下「岸壁南端」という。)から354度100メートルの同岸壁に左舷着けで船首を354度に向け、外部の照明を点灯しないで当直者1人が在船して係留中、同岸壁に着岸しようとした第二十五富丸(以下「富丸」という。)の船首部が、八重丸の右舷側前部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮侯は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、日出時刻は06時52分であった。
また、富丸は、いか釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、いか75トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、水揚げの目的で、平成8年12月18日05時00分八戸漁港館鼻地区に入港し、前面岸壁が他の漁船で塞がっていたので、岸壁南端から013度380メートルにあたる北側岸壁に左舷着けで係留して待機した。
ところで、A受審人は、前示のとおり前面岸壁に係留中の八重丸と同船の北側に50メートル離れて係留している他の漁船との間に自船をいつでも係留してよいという連絡が18日15時ころ第3魚市場の担当者からあったので、翌19日早朝同岸壁に転係することを決め、18日の明るいうちに係留する場所の状況を把握していた。
A受審人は、翌19日05時15分富丸の右舷後方に前面岸壁を確認したのち、八重丸の北側の同岸壁に転係する目的で、スタンバイを令し、船首端から18メートル後方に設けられた操舵室で手動操舵により1人で操船にあたり、甲板作業用に同室前方及び後方の甲板上の集魚灯を点灯させて同時25分北側岸壁を離岸した。
05時26分A受審人は、予定着岸岸壁に八重丸の近くから北西方に向かって進入することとし、離岸場所から109度30メートルの位置で右舵35度をとり、機関を回転数毎分440の微速力前進にかけて5ノットの速力とし、間もなく右回頭の惰力が付いたところで右舵10度に戻して進行した。同時27分岸壁南端から042度330メートルの地点で、行きあしを減殺して着岸するつもりで右舵10度を維持しながら機関を中立として前進惰力でゆっくり右回頭を続けた。
05時28分A受審人は、船首がほぼ南南西方を向いた状態で岸壁南端から052度260メートルの地点に達したとき、右舷船首40度220メートルに係留中の八重丸に右回頭しながらも衝突するおそれがある態勢で接近中であった。ところが点灯した自船の集魚灯の明るさで操舵室から船首方が30メートル、正横方向が100メートルまでしか見えず、八重丸との相対関係を十分に確認することができない状況であったが、行きあしを減殺して接近すれば着岸することができるものと思い、見張りの妨げとなる集魚灯を点灯したまま見張りを十分に行わなかったので、同船に衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、大角度の右舵をもって回頭するなど同船から十分に離す措置をとらずに右舵10度のまま再び機関を微速力前進にかけて進行した。
05時29分少し過ぎA受審人は、着岸速度を2.0ノットに抑えようと機関を中立とし前進の行きあしで右舵10度のまま惰力で続航中、同時30分少し前操舵室から船首至近に八重丸を認め、衝突の危険を感じて右舵一杯、全速力後進としたが効なく、富丸は、その船首が294度を向いたとき、2.3ノットの行きあしで前示のとおり衝突した。
衝突の結果、八重丸は右舷船首部に亀裂を伴う凹損を生じたがのち修理され、富丸は沿首部に軽微な損傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、八戸漁港において、富丸が、転係の目的で第3魚市場前面岸壁に左舷着けで着岸する際、見張り不十分で、予定着岸岸壁の南側に係留中の八重丸との距離を十分にとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、八戸漁港において、第3魚市場北側岸壁から転係の目的で同前面岸壁に左舷着けで着岸する場合、甲板作業用に点灯した自船の集魚灯の明るさで操舵室から船首方が30メートルまでしか見えず、前面岸壁に係留中の八重丸との相対関係を十分に確認することができない状況であったから、同船との距離を十分にとることができるよう、見張りの妨げとなる集魚灯を消して見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、行きあしを減殺して接近すれば着岸することができるものと思い、集魚灯を点灯したまま見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八重丸に衝突するおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船との距離を十分にとらないまま進行して衝突を招き、同船の右舷船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせ、富丸の船首部に軽微な損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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