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1998年(平成10年)

平成10年長審第37号
    件名
貨物船第十大泰丸橋桁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、保田稔
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:第十大泰丸船長 海技免状五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
レーダーマスト折損、レーダースキャナー及び風向風速計などに損傷、橋のC1灯、架台及び電気回路などに損傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件橋桁衝突は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月11日08時25分
熊本県満越ノ瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十大泰丸
総トン数 199トン
登録長 50.71メートル
幅 9.20メートル
深さ 593メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
3 事実の経過
第十大泰丸(以下「大泰丸」という。)は、航行区域を沿海区域とし、石膏、石灰石及び硅砂などのばら積貨物を運搬する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、石灰石650トンを積載し、船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成8年12月10日11時00分山口県徳山下松港を発し、熊本県八代港に向かった。
発航後、A受審人は、船橋当直を同人の息子である機関員と2人で単独4時間交替で行い、翌11日04時00分長崎県野母埼沖合で、息子から船橋当直を引き継いだところ、同沖合通過時刻が予定より遅れたことを知り、当初予定していだ三角ノ瀬戸経由で目的地に向かうのでは、八代港入港予定時刻の09時00分に間に合わず、当日中に揚荷を終えることができなくなるので、航程の短縮を図ろうとして通航経路を同瀬戸から同瀬戸の南西方約5海里に位置する満越ノ瀬戸に変更することとした。
ところで、満越ノ瀬戸は、大矢野島と永浦島との間の長さ約1.5海里の水道で、両島間には長さ約249メートル、海図第208号記載による水面上の高さ約14メートルの大矢野橋が架かっていた。
ところが、A受審人は、本船で満越ノ瀬戸を通航したことがなかったが、以前に本船よりやや小型の船で何度か同瀬戸を通航した経験があったことから、本船でもなんとか通航できるものと思い、海図や水路誌などで大矢野橋の高さを確認したり、一般配置図で本船のレーダーマストの高さを確認したり、潮汐表で潮高を調べたりするなどの水路調査を十分に行うことなく、当時、レーダーマストの水面上の高さが約16.6メートルであって、同橋の下を通航できない状況であったことに気付かないまま、07時10瀬詰崎灯台から222度(真方位、以下同じ。)1.400メートルの地点に達したとき、針路を同瀬戸入口付近に向く097度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力で進行した。
08時06分半A受審人は、天草大矢野橋橋梁灯(C1灯)(以下、「C1灯」という。)から286度3.4海里の地点で、手動操舵に切り替え、進路を109度に転じ水道のほぼ中央をこれに沿って続航した。
08時22分半少し過ぎA受審人は、C1灯から295度790メートルばかりの地点に達したとき、大矢野橋の水面上の高さが思つたより低いように感じたものの同橋中央部なら通航できるものと思い、同橋の橋桁の中央を示すC1灯を少し左方に見る態勢で進行し、同時24分半同灯から283度170メートルの地点で、同橋の中央部直下に向けて進路を転じ、左回頭を始めた。
こうして大奏丸は、C1灯を船首目標として進行中、08時25分柳港防波堤灯台から260度1.800メートルの地点において、その船首が084度を向いた状態で、レーダーマストの上部が大矢野橋の橋桁中央部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
衝突の結果、大奏丸は、レーダーマストを折損し、レーダースキャナー及び風向風速計などに損傷を生じ、大矢野橋は、C1灯、同灯の架台及び電気回路などに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件橋桁衝突は、長崎県野母埼沖合から熊本県八戸港へ向けて航行する際、水路調査が不十分で、水面上の高さがレーダーマストよりも低い大矢野橋が架かる満越ノ瀬戸を通航したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県野母埼沖合い熊本県八戸港へ向けて航行中、通航経路を変更して満越ノ瀬戸を通航しようとする場合、本船で同瀬戸を通航するのは初めてであったから、同瀬戸を安全に通航可能か判断できるよう、海図や水路誌などで同瀬戸に架かる大矢野橋の高さを確認したり、一般配置図で本船のレーダーマストの高さを確認したり、潮汐表で潮高を調べたりするなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前に本船よりやや小型の船で同瀬戸を何度か通航した経験があったことから、本船でもなんとか通航できるものと思い、水路調直を十分に行わなかった職務上の過失により、同橋の水面上の高さがレーダーマストよりも低いことに気付かずに同橋の下を通航して橋桁との衝突を招き、大泰丸のレーダーマストに折損を、レーダースキャナー及び風向風速計などに損傷を生じさせ、大矢野橋のC1灯などを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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