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1998年(平成10年)

平成9年広審第52号
    件名
油送船第五晴豊丸貨物船第八神栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第五晴豊丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八神栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第八神栄丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
豊丸…右舷船尾部外板に凹損
神栄丸…左舷船首部外板に凹損

    原因
晴豊丸、神栄丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、第五晴豊丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第八神栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための描置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月6日22時03分
瀬戸内海来島海峡西水道
2 船舶の要目
船種船名 油送船第五晴豊丸 貨物船第八神栄丸
総トン数 698トン 491トン
全長 74.43メートル 64.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第五晴豊丸(以下「晴豊丸」という。)は、主として岡山県水島港から関西及び九州諸港へ石油製品の輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、ガソリンほか石油製品2,000キロリットルを載せ、船首3.6メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成8年3月6日17時10水島港を発し、広島港に向かった。
20時00分A受審人は、愛媛県高井神島東方3海里の地点で、前直の一等航海士と交替して船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、手動操舵として機関長を見張りに当てて来島海峡航路(以下「来島航路」という。)西水道の通航を予定して燧灘を西行した。
ところで、西水道は、愛媛県馬島、同県小島及び同県今治市との間にある幅約800メートル長さ約2,500メートルの屈曲した狭い水道であり、西水道の南流最強時前後の潮流の流れは、小浦埼灯台辺りで、流速が最も強く南南西方へ流れ、小浦埼灯台及びウズ鼻灯台の中間辺りで南方へ流れて流速が徐々に弱まり、ウズ鼻灯台辺りで南南東方へ西水道南口付近では南東方へ流れており、特に小浦埼灯台付近を北上する船舶は強い南南西流の影響を強く受け、左方に圧流される海域であった。
21時35分A受審人は、来島海峡航路第8号灯浮標(以下「8号灯浮標」という。)の北方400メートルの、竜神島灯台から153度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、針路を270度に定め、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して8.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、来島航路に入航した。
入航したときA受審人は、左舷船首22度600メートルに第八神栄丸神(以下「神栄丸」という。)の船尾灯を初めて視認し、21時42分針路を今治市指手鼻に向く311度に転じ、同時48分竜神島灯台から251度1.2海里の地点に達したとき、神栄丸を左舷側150メートルに隔ててこれを追い抜いた。
21時54分少し過ぎA受審人は、ウズ鼻灯台から194度550メートルの地点で西水道に入り、その後先航する大型船(以下「第三船」という。)に接近するので同船との距離を保つため機関を9.0ノットの半速力前進に落とし、同時55分半ウズ鼻灯台から221度500メートルの地点に達したとき、ほぼ正船尾260メートルに神栄丸を認めたが、船間距離がある同航船なので、同船に対する動静監視を十分に行わないまま続航し、同時57分半ウズ鼻灯台から262度650メートルの地点に達し、針路を愛媛県小島の送電線の鉄塔の赤灯(以下「小島赤灯」という。)に向く350度に転じて進行した。
21時59分A受審人は、小浦埼灯台から228度700メートルの地点に達したとき、第三船に更に接近したので機関を6.0ノットの微速力前進に落とし、そのころ流速が5ノットに増勢し、同時59分少し過ぎ第三船も前方に離れて行ったので機関を9.0ノットの半速力前進に上げて4.0ノットの速力で続航した。
22時01分A受審人は、予定転針地点少し手前の、小浦埼灯台から246度620メートルの地点に達したとき、突然逆潮流により左方に圧流されたため、機関を再び全速力前進に上げ、潮流に抗して右転し、針路を014度としたところ、自船の減速により追いつき、右舷側に300メートルを隔てて並航していた神栄丸が、折からの逆潮流によって左方に圧流され始め、その後衝突のおそれのある態勢となって接近していることを認め得る状況となったが、依然、船間距離のある同航船なので大丈夫と思い、動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、減速するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、同時03分少し前神栄丸を右舷正横至近に認めて20度左転したが及ばず、22時03分小浦埼灯台から284度500メートルの地点において、晴豊丸は、船首が354度を向いたとき、6.0ノットの速力で、その右舷船尾部に神栄丸の左舷船首が後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には5ノットの南南西流があった。
また、神栄丸は、専ら関門港若松区、熊本県水俣港及び宮崎県延岡港間の濃硫酸輸送に従事する船尾船橋型ケミカルタンカーで、B、C両受審人ほか3人が乗り組み、濃硫酸1,003トンを積載し、船首3.25メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、同月6日14時20分岡山港を発し、水俣巷に向かった。
B受審人は、船橋当直を自らとC受審人とによる単独の6時間交替制に定め、18時00分六島灯台南東方沖合で、C受審人と船橋当直を引き継ぐこととしたが、平素から来島海峡を通航するときは自らの船橋当直になるように当直時間帯を調整するか、あるいは自ら昇橋して操船指揮に当たっていたことから入航の報告を指示するまでもないと思い、報告するよう指示することなく、C受審人に船橋当直を引き継いで降橋した。
C受審人は、船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、操舵を自動として来島海峡に向かっで燧灘を西行し、21時32分半8号灯浮標北方100メートルの、竜神島灯台から155度1.3海里の地点に達したとき、針路を大浜潮流信号所に向く277度に定めて手動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して7.7ノットの速力で、来島航路に入航した。
入航したときC受審人は、B受審人から入航する際に報告するよう指示がなかったものの、そのうち昇橋してくるからそれまでの間自ら操船しても大丈夫と思って入航の報告を行わず、そのためB受審人がC受審人から入航の報告を受けられず、自ら操船指揮できないまま来島航路に沿って続航した。
21時42分少し過ぎC受審人は、針路を小島の南西端に向く316度に転じ、同時48分竜神島灯台から250度1.3海里の地点に達したとき、右舷正横150メートルのところに晴豊丸の灯火を初めて視認し、その後同船が自船を追い抜き、左舷船首方に替わるのを認め、同時55分半ウズ鼻灯台から194度550メートルの地点で西水道に入り、針路を小島赤灯に向く344度に転じたころ、晴豊丸が、左舷前方に離れて行ったので、その後同船の動静監視を十分に行わないまま進行し、同時59分小浦埼灯台から206度480メートルの地点に達したとき、潮流がさらに増勢して流速が5ノットになり、5.0ノットの速力となって続航した。
22時01分C受審人は、小浦埼灯台から246度320メートルの地点に達したとき、突然逆潮流により左方に23度ばかり圧流され始め、そのとき左舷則に並航していた晴豊丸が右転し、その後衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況となったが、依然、左舷前方に離れて行ったので大丈夫と思い、動静監視を十分に行っていなかったのでこれに気付かず、減速するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、同時03分少し前左舷船首至近に晴豊丸を認め、右舵一杯、全速力後進としたが及ばず、神栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、晴豊丸は、右舷船尾部外板に凹損を生じ、神栄丸は、左舷船首部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、西水道において、晴豊丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、神栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
神栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が来島航路に入航する際、報告するよう船橋当直者に指示しなかったことと、同当直者が入航する際、船長に入航の報告をしなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、西水道を北上中、同航の神栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を確認できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
ところが、同人は、船間距離がある同航船なので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、神栄丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、晴豊丸の右舷後部外板に凹損及び神栄丸の左舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、来島航路に向けて西行中、船橋当直を引き継ぐ場合、同航路において自ら操船指揮できるよう、船橋当直者に対して同航路に入航する際、報告をするよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、平素から同航路を通航するときは自らの船橋当直になるように当直時間帯を調整するか、あるいは自ら昇橋して操船指揮に当たっていたことから入航の報告を指示するまでもないと思い、報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同航路に入航する際、入航の報告を受けられず、自ら操船指揮ができないまま晴豊丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、西水道を北上中、同航の晴豊丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を確認できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
ところが、同人は、左舷前方に離れて行ったので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、晴豊丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで晴豊丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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