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1998年(平成10年)

平成10年神審第36号
    件名
旅客船シーバス防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝嘉榮、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:シーバス船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部をV字型に圧壊、同乗者5人が骨折や挫創などを負って2週間から2箇月間の通院加療を受け、その他の15人が軽い打撲傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月3日21時24分
大阪府阪南港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船シーバス
総トン数 17.12トン
登録長 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
3 事実の経過
シーバスは、2基2軸の推進機関を備えた最大搭載人員38人のFRP製旅客船で、通船や警戒船として使用されていたところ、花火大会を見物する目的で、A受審人が1人で乗り組み、友人やその家族など20人を同乗させ、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年8月3日18時30分大阪府阪南港第2区地蔵浜の、大阪府阪南港阪南四区北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から113度(真方位、以下同じ。)2,500メートルの係留地を発し、同地の5.5海里ばかり南方にある同府田尻漁港に向かった。
A受審人は、19時10分ごろ田尻漁港に到着し、上陸して花火を見物したのち、20時55分同漁港を発し、地蔵浜の係留地に向けて帰航の途についた。
ところで、南北に細長く延びた阪南港は、港域内が3港区に分かれ、第2区の新貝塚ふ頭の北端部からは、北の方向に長さ980メートルの阪南四区北防波堤(以下「北防波堤」という。)がくの字形に延び、その北端部に4秒に1回赤色閃光(せんこう)を発する光達距離5海里の北防波堤灯台がまた同灯台の南東方740メートルのところからは阪南2区南防波堤(以下「南防波堤」という。)が北北東方向に延び、その南端部に3秒に1回緑色閃光を発する光達距離11海里の阪南港阪南2区南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)がそれぞれ設置されていた。
当時、北防波堤北端部では、防波堤延長工事が施工中で、北防波堤灯台からそれぞれ、308.5度260メートル、048.5度260メートル、156度460メートル、206度460メートルの地点を頂次結んだ線で囲まれた方形の海域が工事区域に設定され、同区域の各4隅、東西両側及び北側の各中間2箇所に4秒1閃光の黄色点滅標識灯がそれぞれ設置されていた。
こうして、A受審人は、田尻漁港を発航後、操舵室右舷側でいすに腰を掛けて見張りと手動操舵に当たり、機関を両舷機1,500回転にかけ、13.0ノットの対地速力で、大阪航空局岸和田沖NDB海上架台灯の灯火を目標に北上し、やがて阪南港に近づくにつれ、右舷前方に北防波堤灯台及び南防波堤灯台の灯火をそれぞれ認めるようになった。
A受審人は、長年、前示係留地を基地として頻繁に阪南港への出入航を繰り返して同港の水路事情に精通し、北防波堤北端部で防波堤延長工事が行われていることも承知していた。そして、平素、夜間西方から入航の際、長期間レーダーが故障して使用できなかったことから、北防波堤灯台と南防波堤灯台の灯火を入航目標とし、北防波堤灯台の灯火を常に船首右方に見るように操舵操船して北防波堤北端を右舷側近距離に離して南防波堤南端との間を通航していた。
21時19分少し前、A受審人は、北防波堤灯台から268度1.1海里の地点に達したとき、針路を同灯台の灯火を右舷船首12度方向に、また工事区域北西端の黄色点滅標識灯を船首少し右にそれぞれ見る076度に定め、同一速力で手動操舵により進行したところ、背後の陸上の街明かりに紛れた同灯台の灯火を見失った。
ところが、A受審人は、南防波堤灯台の灯火を船首右方に確認できるので大丈夫と思い、減速するとか機関を停止するとかして、北防波堤灯台の灯火の確認に努めて船位の確認を十分に行うことなく、長年の慣れから南防波堤灯台の灯火の見え具合のみで、21時21分少し過ぎ針路を同灯台寄りに近づく102度に転じたところ、北防波堤北端部付近に向首するようになった。
その後、A受審人は、入口までまだ距離があると思いながら、前方遠くの目的地の方の街明かりを眺めていて、北防波堤北端部付近に向首していることに気付かず続航中、21時24分わずか前、船首方至近に黒っぽい、北防波堤を認め、驚いて両舷機を全速力後進としたが及ばず、21時24分北防波堤灯台から180度60メートルの地点において、シーバスは、原針路、原速力のまま、船首が防波堤西面に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
衝突の結果、シーバスは船首部をV字型に圧壊したが、のち修理され、同乗者5人が骨折や挫創などを負って2週間から2箇月間の通院加療を受け、その他の15人が軽い打撲傷などを負った。

(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、大阪府阪南港において、西方沖合から北防波堤北端部と南防波堤南端部間の防波堤入口に向けて入航する際、船位の確認が不十分で、北防波堤北端部付近に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、阪南港の北防波堤北端部と南防波堤南端部間の防波堤入口に向けて入航中、平素から入航目標としていた北防波堤灯台と南防波堤灯台の灯火のうち、北防波堤灯台の灯火を見失った場合、直ちに減速するとか機関を停止するとかして、同灯火の確認に努めて船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、南防波堤灯台の灯火を右舷船首方に確認できるので大丈夫と思い、減速するとか機関を停止するとかして、北防波堤灯台の灯火の確認に努めて船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、南防波堤灯台の灯火の見え具合のみで転針し、北防波堤北端部付近に向首進行して防波堤との衝突を招き、船首部を圧壊させるとともに、同乗者20人に骨折や挫創及び打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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