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1998年(平成10年)

平成9年神審第68号
    件名
貨物船第一旭栄丸貨物船ハンジン・タムパ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重隆彦
    理事官
竹内伸二、橋本學

    受審人
A 職名:第一旭栄丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
旭栄丸…バウチョック左舷側に曲損
ハ号…右舷船尾に破口を伴う凹損

    原因
ハ号…見脹り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
旭栄丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ハンジン・タムパが、見張り不十分で、前路を左方に横切る第一旭栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第一旭栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月4日04時51分
潮岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一旭栄丸
総トン数 299トン
全長 50.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
船種船名 貨物船ハンジン・タムパ
総トン数 16,252トン
登録長 158.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 5,479キロワット
3 事実の経過
第一旭栄丸(以下「旭栄丸」という。)は、船尾船橋型液体化学薬品ばら積船で、船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、平成8年7月3日15時55分三重県四日市港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
B船長は、船橋当直を自らを含めてA受審人及び甲板手の3人による単独4時間交替制とし、伊勢湾を経て紀伊半島東岸を南下した。
翌4日03時40分A受審人は、潮岬の南東方4.5海里の地点で前任の甲板手と当直を交替したが、そのころに昇橋していたB船長から、鳴門海峡の通過が南流の強潮時にかかることになるので、同海峡通過の予定を変更し、四国南岸を経て目的港に向かうよう指示された。
04時03分半A受審人は、潮岬灯台から164度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点において同灯台に並航したとき、針路をおおよその見当で室戸岬沖合に向く267度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて8.2ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、潮岬南方沖合で日ノ御埼方向に向けて右転する船が多く、これらと進路が交差するおそれがあったが、左舷後方に数隻の自船を追い越す態勢の同航船を認めていものの、前方には反航船もおらず、漁船も陸岸近くで操業しているだけであったので気を許し、操舵室のいすに腰掛けて前路の見張りのみを行って続航した。
04時41分A受審人は、潮岬灯台から228度5.6海里の地点に達したとき、左舷正横より6度後方1海里に日ノ御埼沖合に向かう態勢のハンジン・タムパ(以下「ハ号」という。)を視認でき、その後その方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、周囲の見張りを十分に行っておらず、このことに気付かなかった。
04時45分A受審人は、いすから立ち上がって船橋内右舷側後部の海図台に赴き、室戸岬への針路が適切であるかどうかを確認するため、海図に当たる作業に専念し、同時46分ハ号が避航の気配を見せないまま左舷正横より5度後方0.5海里にまで接近したが、依然周囲の見張り不十分で、このことに気付かないまま、同船に対して警告信号を行わず、さらに間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないで進行した。
04時51分少し前海図台のところから前方を見たA受審人は、至近に迫ったハ号を初めて認め、あわてて操舵スタンドに戻って右舵一杯をとったが及ばず、04時51分潮岬灯台から236度6.8海里の地点において、旭栄丸が270度に向首したとき、その左舷船首部が、原速力のままハ号の右舷船尾付近外板に後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、日出は04時52分で、視界は良好であった。
自室で休息をとっていたB船長は、衝撃を感じて衝突に気付き、昇橋して事後の措置に当たった。
また、ハ号は、船尾船橋型の貨物船で、一等航海士Cほか20人が乗り組み、菜種5,057トンを載せ、船首5.10メートル船尾7.00メートルの喫水をもって、同月3日17時48分三重県四日市港を発し、神戸港に向かった。
翌4日04時00分ごろC一等航海士は、潮岬南東方5海里ばかりのところで操舵手2人とともに船橋当直に就いて西行し、同時21分潮岬灯台から186度5.3海里の地点に達したとき、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.8ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
04時36分C一等航海士は、潮岬灯台から212度6.1海里の地点において、針路を日ノ御埼沖に向首する300度に転じたところ、右舷前方を西行する旭栄丸と進路が交差する状況となったが、付近を同航する船舶が自船と同様、潮岬南西方で針路を右に転じて日ノ御埼沖に向かう態勢となっていたので、右方から接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わないまま、旭栄丸の存在に気付かないで続航した。
04時41分C一等航海士は、旭栄丸を右舷船首50度1海里に視認でき、その後その方位が明確に変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近したものの、これに気付かないで進行中、同時50分半右舷側間近に同船を初めて認め、左舵一杯を指示したが及ばず、ハ号の船首が280度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、旭栄丸はバウチョック左舷側に曲損を、ハ号は右舷船尾に破口を伴う凹損を、それぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、潮岬西方沖合において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、ハ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る旭栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、旭栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、潮岬の南方沖合から室戸岬に向けて西行する場合、潮岬南方から日ノ御埼方向に北西進する船舶と進路が交差することになるから、左方から接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室のいすに腰掛けて前路の見張りのみを行い、のち海図台で海図に当たる作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から衝突のおそれがある態勢で接近するハ号に気付かず、同船に対して警告信号を行わず、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないで進行して衝突を招き、ハ号の右舷船尾に破口を伴う凹損を、旭栄丸のバウチョック左舷側に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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