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1998年(平成10年)

平成10年門審第34号
    件名
漁船第二福寿丸漁船登美丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、西山烝一
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第二福寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:登美丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
福寿丸…船首に擦過傷
登美丸…前部マストが折損し左舵中央部外板に破口等

    原因
福寿丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
登美丸…灯火・形象物不表示、見張り不十分、信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二福寿丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している登美丸の進路を避けなかったことによって発生したが登美丸が、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げなかったばかりか、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月29日16時20分
山口県萩港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二福寿丸 漁船登美丸
総トン数 11.50トン 2.9トン
全長 17.15メートル 13.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160 15
3 事実の経過
第二福寿丸(以下「福寿丸」という。)は、中型まき網漁業船団付属のFRP製灯船兼漁獲物運搬船で、A受審人が1人で乗り組み、氷約1トンを積み、まき網漁業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成9年9月29日16時00分同船団の網船ほか灯船3隻とともに山口県萩市大島漁港を発し、同市見島の南南西方7海里のカキノ瀬付近の漁場に向かった。
ところで、福寿丸は、船首部が高いので、操舵室から船首方に船首幅の範囲に死角があって見通しが悪く、平素は船首倉に漁獲物冷凍用の氷約3トンを積載して解消されていたが、当時、必要な氷を僚船が積み、自船の積載量が少なかったため、船首に死角が生じた状態であった。
出港後、A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰掛けて見張りを兼ねて手動操舵に当たり、16時07分萩大島港赤穂瀬南防波堤灯台から250度(真方位、以下同じ。)930メートルの地点に達したとき、針路を300度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.8ノットの対地速力で進行した。
定針したころ、A受審人は、右舷船首方を一瞥(べつ)して船舶を見掛けなかったことから、前方に他の船舶がいないものと思い、その後6海里のレンジとしていたカラーレーダーで他のまき網船団の漁船の動静を確かめることに専念し、レーダー監視を綿密に行うことも、船首を左右に振ったり操舵室の左右の通路に出て船首死角を補う目視による見張りもしなかったので、前方の見張りが不十分となったまま航行した。
16時15分A受審人は、尾島の71メートルの三角点(以下「尾島三角点」という。)から086度1.6海里の地点に至ったとき、右舷船首5度1.2海里のところに、船尾から引綱を延ばして低速力で航行して、トロールにより漁ろうに従事していることが明らかに分かり、同船に方位が変わらないまま、衝突のおそれのある態勢で接近していることを認めることができる状況であったが前方の見張りが不十分で、このことに気付かず、登美丸の進路を避けることなく続航した。
16時19分A受審人は、同船との距離が450メートルに近づいたものの、依然、見張りが不十分でこれに気付かず、同時20分わずか前、近距離の小型船舶の有無を確かめようとしてレーダーレンジを0.75海里に切り替えたとき、船首に衝撃を受け、16時20分尾島三角点から042度1,650メートルの地点で、福寿丸は、原針路、原速力のまま、その船首が登美丸の左舷中央部に前方から約45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
衝突後、A受審人は、僚船に連絡して登美丸の漁網の揚収を依頼し、登美丸を萩市玉江漁港に曳(えい)航するなどの事後措置に当たった。
また、登美丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、底びき網漁業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日13時00分萩漁港を発し、相島東方の漁場に向かった。
ところで、底びき網漁業は、打瀬網と称する漁法で、魚が捕獲される長さ約15メートルの袋網の前方に、長さ約30メートルの魚を誘導する袖網をつなぎ、袖網の開口部に重しのチエーンを付けた長さ約15メートルの竹のビームを付け、ビームの両端に結び付けた直径28ミリメートルで長さ約100メートルの股(また)綱2本を、同径で長さ400メートルの引綱1本につなぎ、その先端に取り付けられた撚(よ)り戻しと、操舵室前部両舷のたつから後方に延ばした2本の索とを船尾方約3メートルのところで結合して、これを15分から20分かけて投網し、1.5ノットの低速力で約2時間曳網したのち、約30分かけて揚網して底魚などを漁獲するもので、B受審人は、荒天などを除き、年間を通してほとんど同じ漁場に、毎日午後出港して翌日早朝に帰港していた。
B受審人は、14時10分萩相島灯台から088度2.I海里で、水深68メートルの漁場に着き、底びき網を投網し、同時25分東方の櫃島に向けて機関の回転数を毎分1,900にかけ、1.5ノットの曳網速力で操業を開始したが、トロールにより漁ろうに従事していることを示す形象物を備えていなかったので、同形象物を揚げていなかった。
その後、B受審人は、尾島の北東方沖合で北北西に転じて曳網し、15時50分尾島三角点から023度1.5海里の地点に達したとき、揚網に備えて水深の浅い地点に向けて曳網することとし、針路を180度に定め、1.5ノットの曳網速力のまま進行中、数隻のまき網船団の漁船が左舷船首方から接近し、これらの漁船の様子を見ていたところ、いずれも自船の進路を避けたので、航行船舶の方で避けてくれるから大丈夫と思い、左舷船首方の見張りを十分に行わなかった。
16時15分B受審人は、尾島三角点から036度1.0海里の地点に至ったとき、左舷船首55度1.2海里のところから、自船に向かって接近する福寿丸を認められ、同船が方位を変えないまま、衝突のおそれがある態勢で接近してきたが、左舷船首方の見張りが不十分で、このことに気付かず、音響信号装置を備えていなかったので、避航を促すための有効な音響による信号を行うことなく曳網を続けた。
16時19分B受審人は、同船との距離が450メートルに近づいたものの、そのころ機関室に赴き、予備の軽油タンクから、燃料常備タンクに燃料を補給する作業に従事していてこのことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく南下した。
B受審人は、16時20分少し前機関室から操舵室に戻り、揚網作業に当たるため、防水用のズボンを同室後方ではきかけていたとき、左舷至近に迫った福寿丸を初めて視認し、衝突の危険を感じてとっさに左舵一杯をとり、左舷側の引索を緩めて船尾のたつの外側に同索を替わした直後、登美丸は、原速力のまま、その船首が15度左転して165度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福寿丸は、船首に擦過傷を生じ、登美丸は、前部マストが折損し左舷中央部外板に破口等を生じたが、玉江漁港の造船所に曳航されて、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、山口県萩港北方沖合において、航行中の福寿丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している登美丸の進路を避けなかったことによって発生したが、操業中の登美丸が、漁ろうに従事していることを示す形象物を揚げなかったばかりか、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、山口県萩港北方沖合において、単独で操舵と見張りに就き、船首死角のある状態で漁場に向けて航行する場合、前路でトロールにより漁ろうに従事中の船舶を見落とすことのないよう、船首死角を補い、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方に他船がいないものと思い、右舷側のいすに腰掛けたまま、レーダー監視を綿密に行うことも、船首を左右に振るなどして目視による船首死角を補うこともせず、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でトロールにより漁ろうに従事中の、登美丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、登美丸の左舷中央部外板に破口等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、山口県萩港北方沖合の漁場において、単独で操舵と見張りに当たり、トロールにより漁ろうに従事する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する漁船が自船を避けていたので、航行船舶の方で自船を避けてくれるから大丈夫と思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷船首方から衝突のおそれがある態勢で接近する福寿丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることもしないまま、曳網を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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