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1998年(平成10年)

平成10年神審第21号
    件名
貨物船第53明力丸貨物船第拾壱三社丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、清重隆彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第53明力丸二等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第拾壱三社丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
明力丸…右舷船尾部ブルワークに曲損
三社丸…左舷船首部に凹損

    原因
明力丸…追い越しの航法(避航動作)不遵守

    二審請求者
理事官坂本公男

    主文
本件衝突は、第拾壱三社丸を追い越す第53明力丸が、その進路を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月18日03時00分
播磨灘北部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第53明力丸 貨物船第拾壱三社丸
総トン数 761トン 198トン
全長 68.57メートル 49.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 588キロワット
3 事実の経過
第53明力丸(以下「明力丸」という。)は、船尾船橋型の砂・砂利・骨材運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、土砂2,300トンを積載し、船首4.8メートル船尾6.0メートルの喫水をもって、平成7年12月18日02時10分兵庫県家島の尾崎鼻灯台から116度(真方位、以下同じ。)850メートルの錨泊地を発し、大阪港に向かった。
02時15分ごろ揚錨作業を終えて昇橋したA受審人は、船長から指示を受けて単独の船橋当直に就き、同時32分半鞍掛島灯台から269度3.3海里の、家島諸島宇和島を右舷側300メートルに通過したとき、針路を093度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
定針時A受審人は、右舷前方0.5海里ばかりに、同じく家島を発航して東行する第拾壱三社丸(以下「三社丸」という。)の白灯1個を視認し、その後同船を追い越す態勢で徐々に接近した。
02時44分半A受審人は、鞍掛島灯台から260度1.1海里の地点において、針路を播磨灘北航路第9号灯浮標を正船首わずか左に見る105度に転じたところ、右舷前方400メートルに接近した三社丸とほぼ同一針路となり、間もなく、このまま続航すると同船の左舷側を約80メートル隔てて航過する状況となることを認めた。
02時59分少し前A受審人は、自船の船橋前部と三社丸の船首とがほぼ並ぶ状態となったころ、右舷船首20度1海里ばかりに前路を左方に横切る態勢の第三船の白、白、紅3灯を視認し、その進路を避けることとした。
そして、A受審人は、自船が徐々に右転すれば、右舷側近くを同航している三社丸も第三船を避けるため右転するものと思い、一時的に減速する措置をとるなど、三社丸を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、02時59分右舵5度をとって回頭を開始し、間もなく針路を125度として第三船のかわり具合を見ていたところ、03時00分少し前、三社丸の船首が右舷側間近に迫っていることを認め、左舵をとったが及ばず、03時00分鞍掛島灯台から121度1.9海里の地点において、原速力のまま120度を向首した明力丸の右舷船尾に、三社丸の左舷船首が後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、三社丸は、船尾船橋型の砂利・石材運搬船で、B受審人ほか2人が乗り組み、砕石700トンを積載し、船首2.4メートル船尾42メートルの喫水をもって、同日02時00分家島港を発し、神戸港に向かった。
B受審人は、発航操船に引き続いて単独で船橋当直に就き、02時30分少し過ぎ鞍掛島灯台から267度3.3海里の、家島諸島宇和島を右舷側100メートルに通過したとき、針路を089度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、操舵室左舷側のいすに腰掛けて10.0ノットの対地速力で進行した。
02時41分B受審人は、鞍掛島灯台から265度1.4海里の地点において、針路を播磨灘北航路第9灯浮標を左舷船首に見る105度に転じたところ、同時44分半左舷後方400メートルばかりのところで明力丸が針路をほぼ自船と同じ105度に転じ、その後自船を追い越す態勢で接近したがこのことに気付かないまま続航した。
03時00分少し前B受審人は、前路を左方に横切る第三船の灯火を認めていたものの、その方位が左方に変わりつつあるので引き続きいすに腰掛けて自動操舵で進行中、左舷船首間近に明力丸の船体とマスト灯の光芒(こうぼう)を認め、あわてて立ち上がって右舵一杯をとったが効なく、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。衝突の結果、明力丸は右舷船尾部ブルワークに曲損を生じ、三社丸は左舷船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が播磨灘北部を東行中、三社丸を追い越す明力丸が、三社丸を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、播磨灘北部において、三社丸を右舷側近くに見て追い越す場合、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けるべき注意義務があった。ところが、同船は、自船の進路を左方に横切る態勢の第三船を視認してこれを避航する際、一時的に減速したのち、三社丸を確実に追い越し、かつ、これから十分遠ざかるまでその進路を避ける措置をとらず、自船が徐々に右転すれば、三社丸も第三船を避航するため右転するものと思い、三社丸の進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、明力丸の右舷船尾部ブルワークに曲損を、三社丸の左舷船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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