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1998年(平成10年)

平成10年神審第9号
    件名
漁船芳光丸漁船幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、清重隆彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:芳光丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:幸丸船長 海技免状:ニ級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
芳光丸…船首部に破口や亀裂などの損傷
幸丸…左舷船首部を大破して沈没、のち廃船、船長が頚椎捻挫など

    原因
芳光丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
幸丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、芳光丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月23日05時40分
淡路島潮埼南南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船芳光丸 漁船幸丸
総トン数 4.1トン 1.99トン
全長 12.80メートル
登録長 7.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80  60
3 事実の経過
芳光丸は、音響信号の設備を有しない、一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の弟の甲板員が乗り組み、たい一本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成8年10月23日02時00分兵庫県福良港を発し、途中、餌となるいかなごを漁獲するため、淡路島潮埼南南西方沖合の漁場に向かった。A受審人は、02時30分ごろ潮埼南南西方3海里付近の漁場に至り、船尾から長さ約2メートルの網を入れ、同業船14ないし15隻と引き網漁を開始し、その後同漁場に集まった多数のたちうお引き縄中の漁船とともに群れをなして操業を繰り返し、いかなご約2キログラムを獲たところで、漁場を移動してたい一本釣り漁に取り掛かることにした。
05時30分A受審人は、航行中の動力船の灯火のほか、操舵室の約2メートル前方で甲板上の高さ約1.5メートルのところにある60ワットの傘付きの作業灯1個を、船首にある生け簀(す)を照らすよう斜め下方に向けて点灯し、仁頃港西防波堤灯台から223度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点を発進し、潮埼西南西方1,500メートル付近の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、漁場に集まった多数のたちうお引き縄中の漁船のほとんどが、両色灯と船尾灯を点灯しただけで操業を行っていることを知っており、発進時、これら周囲の漁船を避けるため、機関を極微速力前進とし、3.0ノットの対地速力で、操舵室右舷寄りにある舵輪後方のいすに腰を掛け見張りを兼ねて手動操舵に当たり、前路のたちうお引き縄中の漁船を避けながら潮埼方向に向けて北上した。
05時35分A受審人は、仁頃港西防波堤灯台から225度2.7海里の地点に達したとき、漁船もとぎれたようなので、針路を023度に定め、機関を半速力前進に増速し、8.0ノットの対地速力で進行した。
定針したころ、A受審人は、付近にたちうお引き縄を行っている漁船が存在することが予想され、右舷船首3度1,350メートルのところに、両色灯と船尾灯を点灯しただけの幸丸の紅1灯を視認できる状況にあり、その後同船が前路を左方に横切り方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁船群の中を抜け出て近くには漁船が見当たらなくなったことから、付近に他船はいないものと思い、いすに腰を掛けたまま、前路の見張りを十分に行わなかったので、幸丸に気付かず、早期に右転してその進路を避けないで進行した。
05時40分わずか前、A受審人は、船首至近に迫った幸丸の紅1灯を初めて視認し、急いで左舵一杯をとったが及ばず、05時40分仁頃港西防波堤灯台から231度22海里の地点において、芳光丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が幸丸の左舷船首部に前方から30度の角度で衝突し、これに乗り上げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日出時刻は06時12分であった。
また、幸丸は、音響信号の設備を有しない、一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たちうお引き縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日04時00分福良港を発し、潮埼南南西方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、平成7年11月に幸丸を中古で購入して以来一本釣り漁業などに使用し、平素から日出前に漁場に向けて発航することを常としていたが、灯火についての関心が薄く、購入時、両色灯及び船尾灯は装備されていたものの、マスト灯が設備されていなかったのに、自船が加入する漁業協同組合の同業船の多くが自船と同じように、両色灯と船尾灯のみを表示しただけで操業を行っていたことから、問題ないものと思い、マスト灯を設備していなかった。
04時20分ごろB受審人は、潮埼南南西方1.5海里付近の漁場に到着し、漁の準備を行ったのち、自船と同じように両色灯及び船尾灯を表示しただけで固まって操業している漁船群から離れた北方に位置し、05時30分仁頃港西防波堤灯台から231度2.0海里の地点で、両色灯と船尾灯を表示し、径2ミリメートル(以下「ミリ」という。)で重りのついた長さ約20メートルの幹糸の先に釣針65個を取り付けた径1ミリ長さ約180メートルの道糸を船尾から出し、針路を233度に定め、機関を回転数毎分300の前進にかけ、1.0ノットの対地速力で引き縄を開始した。
発進後、B受審人は、右舷船尾に腰を掛け左手で舵柄を侍ち、右手で釣糸を操りながら見張りに当たったが、同位置からは船体中央部よりやや後方にある幅80センチメートル高さ1.7メートルばかりの操舵室に遮蔽(しゃへい)されて死角を生じ、左舷前方が見通せない状態であった。
05時35分B受審人は、仁頃港西防波堤灯台から231度2.1海里の地点に達したとき、左舷船首27度1,350メートルのところに、漁船群の中から出てきた芳光丸の表示する白、緑2灯を視認することができる状況にあり、その後同船が前路を右方に横切り方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢となって接近したが、自船が引き縄をしてゆっくりと進行しているので、接近する他船が避けてくれるものと思い、右舷船尾に腰を掛けたまま釣糸を操って、身体を左舷側に移動するなど死角を補う適切な見張りを行わなかったので、芳光丸に気付かず、間近に接近したとき行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力働作をとらないまま進行した。
B受審人は、05時40分少し前、身体を左舷側に大きく振って前方を見たとき、左舷船首至近に芳光丸の灯火を初めて視認し、衝突の危険を感じて釣糸を船尾付近にくくり付け、操舵室左舷後方に移動して甲板上に伏せたとき、幸丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、芳光丸は船首部に破口や亀裂(きれつ)などの損傷を生じ、幸丸は左舷船首部を大破して沈没し、のち引き揚げられたものの廃船とされ、B受審人が頸椎捻挫などを負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、淡路島潮埼南南西方沖合において、両船が互いに進路各を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、芳光丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、見張り不十分で、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、潮埼南南西方沖合の漁場において、単独の船橋当直について漁場を移動する場合、前路を左方に横切る幸丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、多数の漁船の中を抜け出て近くには漁船も見当たらなくなったことから、付近に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方から接近する幸丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、芳光丸の船首部に破口や亀裂などの損傷を生じ、幸丸の左舷船首部を大破させて沈没させ、B受審人に頚椎捻挫などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、潮埼南南西方沖合の漁場において、両色灯と船尾灯を表示しただけで引き縄を行って進行する場合、右舷船尾の見張り位置からは操舵室に遮蔽されて死角を生じ、左舷前方が見通せない伏態であったから、前路を右方に横切る芳光丸を見落とすことのないよう、身体を左舷側に移動するなど前方の見張りを適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が引き縄を行ってゆっくりと進行しているので、接近する他船が避けてくれるものと思い、前方の見張りを適切に行わなかった職務上の過失により、芳光丸の接近に気付かず、間近に接近したとき行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたうえ、幸丸を沈没させ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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