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1998年(平成10年)

平成9年横審第78号
    件名
貨物船第七中央丸油送船近竜丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、西村敏和
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:第七中央丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:近竜丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
中央丸…右舷船首外板に亀裂を伴う凹損
近竜丸…船首外板を圧壊

    原因
中央丸…動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵(主因)
近竜丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第七中央丸が、動静監視不十分で、左舷側を無難に航過する態勢の近竜丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、近竜丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月28日17時03分
北海道釧路港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七中央丸 油送船近竜丸
総トン数 3,467トン 2,947トン
全長 106.71メートル 104.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット 2,942キロワット
3 事実の経過
第七中央丸(以下「中央丸」という。)は、専ら石材、砂及び砂利の輸送に従事する、2倉の船倉を有してそれらの間にジブクレーンを、船首尾にサイドスラスターを装備した船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか8人が乗り組み、空倉でバラストとして海水を載せ、ジブクレーンを格納した状態で、船首3.10メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成8年12月26日15時30分千葉県木更津港を発し、北海道釧路港に向かった。
ところで、釧路港は、釧路川河口の左岸南方に広がる東区と同河口右岸西方に広がる西区があり、同港西区は、同河口の右岸から南西に約1,500メートル伸びる釧路港西区東防波堤(以下、防波堤の名称については、「釧路港」を省略する。)、同じく西方約3,400メートルの陸岸から南に約1,100メートル伸びる西区西防波堤及び、同防波堤南端からほぼ南に約600メートルの地点を西端とし、同地点から東北東に約430メートル伸び、この地点で屈曲して東に約1,900メートル伸びる西区南防波堤で囲まれており、北側の陸岸には東から順に第1石油さんばし、第1ふ頭、第2ふ頭及び第3ふ頭が造成されていた。
そして、西区南防波堤と西区西防波堤南端との間が大型船の出入りする釧路港西区の西側港口(以下「西口」という。)で約500メートル及び、第3ふ頭の南側岸壁と西区南防波堤の間で約700メートルの水路幅があり、同南端の東約300メートルの地点に左舷標識である釧路港西区灯浮標(以下「西区灯浮標」という。)が投置されていた。
翌々28日16時25分A受審人は、西口の4海里手前で昇橋し、当直者の甲板長及び甲板員を入港準備作業のために降橋させ、航行中の動力船の掲げる灯火を確認して単独の船橋当直に就き、同時30分入港部署を令して順次減速し、このころ船首甲板上における作業のため船首マスト上部に設置してある作業灯2個を点灯した。同時45分手動操舵に切り替えて自ら操舵に当たり、同時50分釧路港西区南防波堤西灯台(以下「南防波堤西灯台」という。)から279度(真方位、以下同じ。)210メートルの地点に達し、針路を南防波堤西部分に沿う066度に定め、機関を適宜停止及び極微速力前進にかけて2.1ノットの対地速力で進行した。
16時53分A受審人は、南防波堤西灯台から347度110メートルの地点で、右舷船首18度2,200メートルに、近竜丸の白、白、紅3灯を初認し、一見して遅い速力で出航中の船船であることを知ったが、同船との距離がまだ十分にあるので同船に対する動静監視を十分に行わないまま続航した。
16時59分A受審人は、南防波堤西灯台から050度420メートルの地点に至り、近竜丸が右舷船首12度800メートルに接近し、自船の船首方約300メートル隔てて無難に航過する態勢であったところ、この状況下、着岸予定の第3埠頭19号岸壁に向かうこととなったが、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことから、同船が増速したことに気付かないまま同船の前方を航過できると思い、船首のサイドスラスターを使用して左転を始め、17時00分南防波堤西灯台から050度480メートルの地点で針路を027度として近竜丸と新たな衝突の危険のある関係を生じさせ、右舷船首49度550メートルに接近している近竜丸の進路を避けずに進行した。
このころA受審人は、近竜丸の昼間信号灯による単閃光5回ばかりの発光信号にも気付かず、前方の着岸予定岸壁付近の状況に気をとられ、17時02分ごろ近づいた同船の明かりに驚いて機関を停止し、同時02分右舵一杯、機関を全速力後進及び船首尾のサイドスラスターを右回頭一杯としたが及ばず、17時03分南防波堤西灯台から044度670メートルの地点において、行き足がほぼ停止し、077度に向首した中央丸の右舷船首と近竜丸の船首が前方から18度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、近竜丸は、主に千葉港から東北地方及び北海道にガソリン、灯油及び軽油の輸送に従事する、船首にサイドスラスターを装備した船尾船橋型油送船で、B受審人ほか10人が乗り組み、空倉でバラストとして海水を載せ、船首3.00メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、同月28日16時45分釧路港西第1区の第1石油さんばしを発し、航行中の動力船の灯火、危険物船舶運送及び貯蔵規則に定められた標識である赤灯を表示して北海道函館港に向かった。
B受審人は、釧路港西区を出航するにあたり、西区灯浮標を船首目標として西行し、同灯浮標に近づいたところで左転して西口に向ける予定で離さんして揚錨し、1等機関士を主機遠隔操縦盤に就け、自らは操舵室前面右舷側の窓際に立って遠隔操舵装置を操作し、甲板上では甲板員全員に離岸後の後片付けとガスフリー作業の準備にあたらせ、16時50分機関を極微速力前進にかけ、同時53分南防波堤西灯台から081度2,200メートルの地点で、4.2ノットの対地速力になったとき、針路を275度に定め、機関を毎分回転数100の微速力前進にかけて進行した。
16時56分B受審人は、南防波堤西灯台から077度1,700メートルの地点で、5.9ノットの対地速力になったとき、左舷船首12度1,500メートルのところに、船首マストに作業灯2個を点灯した入航中の中央丸の白、白、緑3灯を初認し、同船の行く先か不明であったが、自船の機関を後進にかけるとき、毎分回転数が30まで下がらないとクラッチが入らず、港内操船時の機関操作に注意を要するものの、中央丸は南防波堤に近寄ってくるので左舷対左舷で替わればよいと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行うことなく、同一針路で続航した。
16時59分少し過ぎB受審人は、南防波堤西灯台から067度1,100メートルの地点に達したとき、左舷船首28度700メートルに接近した中央丸が左転を開始し、自船と新たな衝突の危険のある関係を生じさせたが、前方の西区灯浮標との位置関係に気をとられ、依然同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、機関を後進にかけるなど衝突を避ける措置をとらないで進行し、17時00分6.9ノットの対地速力になったとき、左舷船首19度550メートルのところに同船が接近しているのを認め、昼間信号灯で単閃光5回ばかりの発光信号を行ったうえ、右舵一杯をとり、機関停止に続いて全速力後進を令し、同時01分機関が後進にかかったが及ばず、近竜丸は、原針路のまま3.0ノットの残速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、中央丸は右舷船首外板に亀(き)裂を伴う凹損を生じ、近竜丸は船首外板を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、釧路港西区において、着岸予定地に向けて航行中の中央丸が、動静監視不十分で、左舷側を無難に航過する態勢で同港西区の西側港口に向けて出航中の近竜丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、近竜丸が動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、釧路港西区の第3ふ頭19号岸壁に向けて航行中、港口に向けて無難に左舷を対して航過する態勢で出航中の近竜丸を認めた場合、同船の前方を航過できるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし同人は、同船が増速したことに気付かな、、まま同船の前方の航過できると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と新たな衝突の危険のある関係を生じさせることとなることに気付かず、同船の前方に向け、左転して衝突を招き、中央丸の右舷船首外板に亀裂を伴う凹損を、近竜丸の船首外板に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、釧路港西区港口に向けて出航中、無難に左舷を対して航過する態勢で入航中の中央丸を認めた場合、同船の行く先が分からなかったから、新たな衝突の危険のある関係が、生じるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前方の西区灯浮標との位置関係に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、中央丸が自船の前方に向け、左転したことに気付かず、警告信号を行わず、機関を後進にかけるなど衝突を避ける措置をとらないで進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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