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1998年(平成10年)

平成10年函審第51号
    件名
漁船第八恵祐丸プレジャーボート常呂トラック衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大石義朗、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第八恵祐丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:常呂トラック船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
恵祐丸…球状船首部に軽微な擦過傷
常呂トラック…船首部に亀裂、右舷外板に破口及び操舵室の囲いに破損をそれぞれ生じ、のち廃船、船長が約6週間の通院加療を要する左尺骨遠位端骨折及び左足関節外果骨折など

    原因
恵祐丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
常呂トラック…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八恵祐丸が、見張り不十分で、前路で漂泊していた常呂トラックを避けなかったことによって発生したが、常呂トラックが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月23日10時40分
北海道網走市能取岬北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八恵祐丸 プレジャーボート常呂トラック
総トン数 7.3トン
全長 17.50メートル 8.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 66キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第八恵祐丸(以下「恵祐丸」という。)は、定置網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的をもって、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水で、平成10年5月23日10時30分北海道常呂郡常呂漁港を発し、常呂川河口北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、発航時から単独で船橋当直に就き、10時35分常呂港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から048度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路を323度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力とし、操舵室の中央に立ち手動操舵により進行した。
10時37分A受審人は、北防波堤灯台から340度1海里の地点に達したとき、正船首1海里のところに漂泊している常呂トラックを認めることができる状況となり、自船が全速力で航行したことで船首が浮上し、操舵室の中央の見張り位置からは船首方向の水平線が見えなくなり船首方に死角が生じていたが、前路に支障となる他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、常呂トラックの存在に気付かなかった。
A受審人は、その後常呂トラックに向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然前路の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、同船を避けないまま続航中、突然船体に衝撃を感じ、10時40分北防波堤灯台から328度2海里の地点において、恵祐丸は、原針路、原速力のまま、その船首が常呂トラックの右舷船首部に前方から53度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、常呂トラックは、主として釣りに使用されていたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、ほっけ釣りの目的で、船首尾とも0.25メートルの喫水をもって、同日05時00分常呂川河口から約400メートル上流の右岸にある定係地を発し、同河口北方沖合1.8海里ばかりの釣り場に向かった。
B受審人は、釣り場に至り、機関を停止して直径約3メートルのパラシュート型シーアンカーを投入し、錨索を10メートルばかり延出してその一端を船首部右舷側のパイプにとって漂泊を開始したあと、船体中央部の腰掛けに右舷側を向いて座り、同舷側から釣り竿を出して釣りを始め、風潮流により東方に流されて釣り場から離れると同シーアンカーを収め、機関を使用して元の位置に戻る潮上りを繰り返して釣りを続けた。
10時20分B受審人は、潮上りを行って前示の衝突地点に移動したあと、パラシュート型シーアンカーを投入して錨索を延出したのち、船首を090度に向けて釣りを行っていたところ、10時37分右舷船首53度1海里のところに恵祐丸が自船に接近して来るのを認め、その後時折同船を見ながら釣りを続けた。
B受審人は、その後恵祐丸が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で自船を避けずに接近していたが、自船は漂泊しているのでそのうち恵祐丸の方で避航するものと思い、速やかに機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとらないで釣りを続け、10時40分少し前同船が200メートルに接近したとき、衝突の危険を感じ、ようやく機関を始動してクラッチを中立とし、パラシュート型シーアンカーを収めようとして錨索を取り込んだが、時すでに遅く、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、恵祐丸は球状船首部に軽微な擦過傷を生じただけであったが、常呂トラックは船首部に亀(き)裂、右舷外板に破口及び操舵室の囲いに破損をそれぞれ生じ、のち廃船とされ、B受審人は、衝突の衝撃で海中に転落し、恵祐丸に救助されたが約6週間の通院加療を要する左尺骨遠位端骨折及び左足関節外果骨折などを負った。

(原因)
本件衝突は、北海道網走市能取岬北西方沖合において、恵祐丸が、見張り不十分で、前路で漂泊していた常呂トラックを避けなかったことによって発生したが、常呂トラックが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道網走市能取岬北西方沖合において、常呂川河口北方沖合の漁場に向けて航行する場合、全速力で航行したことにより船首が浮上し、操舵室中央の見張り位置からは船首方向に死角が生じていたのであるから、正船首方で漂泊していた常呂トラックを見落とさないよう、船首を左右に振るなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で漂泊していた常呂トラックに気付かず、同船を避けずに進行して同船との衝突を招き、恵祐丸の球状船首部に軽微な擦過傷、常呂トラックの船首部に亀裂、右舷外板に破口及び操舵室の囲いに破損をそれぞれ生じさせ、B受審人に左尺骨遠位端骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、北海道網走市能取岬北西方沖合において漂泊中、右舷方から来航する恵祐丸が自船を避けずに接近しているのを認めた場合、速やかに機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが同人は、自船は漂泊しているのでそのうち恵祐丸が自船を避けるものと思い、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により恵祐丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も左尺骨遠位端骨折等を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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