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1998年(平成10年)

平成9年仙審第88号
    件名
遊漁船稲荷丸漁船漁福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、今泉豊光
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:稲荷丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:漁福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
稲荷丸…船首部に擦過傷
漁福丸…左舷外板中央部に破口を生じ沈没

    原因
稲荷丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
漁福丸…音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、稲荷丸が、見張り不十分で、漂泊中の漁福丸を避けなかったことによって発生したが、漁福丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、避航を促す音響信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月3日07時55分
山形県堅苔沢漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船稲荷丸 漁船漁福丸
総トン数 2.6トン 1.23トン
全長 11.5メートル
登録長 7.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30
3 事実の経過
稲荷丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、遊漁の目的で、A受審人が一人で乗り組み、釣客5人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年8月3日04時50分山形県竪苔沢漁港を発し、同港北方沖合の釣り場に向かった。
ところで、稲荷丸は、操舵室が船体中央部やや後方に設けられ、その前部には船首方から4箇所の生け間と機関室囲壁がある前部甲板、また、同後部には1箇所の生け間と舵機室がある後部甲板があり、また漁労しながら漁場を移動することができるように前部甲板上には遠隔操縦装置が設けられていたが、操舵室内での操船中は主機から生じる騒音で甲板上で大声を発してもほとんど聞き取れない状況であった。
04時55分A受審人は、堅苔沢漁港の北方0.7海里沖合に至って遊漁を始めたが、釣果が思わしくなかったことから、次第に北方沖合に釣り場を変えて遊漁を続けた。
07時50分A受審人は、波渡埼灯台から342度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で遊漁を行っていたところ、波渡埼灯台の北方2.1海里に位置する高山と称する釣り場に移動することにし、針路を023度に定め、機関を毎分回転数1,200にかけて7.0ノットの速力で魚群を探索しながら自動操舵により移動を開始した。
A受審人は、移動を開始するにあたり、前部甲板上に3人後部甲板上に2人の釣客をそれぞれ座らせ、周囲を見回したものの、当時海面上にもやが低く漂っている状態でもあったので、正船首1,000メートルのところに漂泊中の船体高さの低い漁福丸に気付かず、また他船も見かけなかったので、沖合の方には釣り船がいないものと思い、その後目指す釣り場を外さないよう船尾方及び右舷正横方の高い山により山立てしながら船位の確認にあたり、前方の見張りを十分に行わないまま進行した。
ところが、07時54分A受審人は、正船首200メートルのところに引き続き漂泊中の漁福丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、目指す釣り場に近付いていたことから、山立てに続いて魚群探知機による探索に気を取られ、同船に気付かず、これを避けないまま続航中、07時55分波渡埼灯台から352度2.1海里の地点において、稲荷丸は、その船首が漁福丸の左舷側中央部に後方から78度の角度で原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風がほとんどなく、北東方の弱い海流があり、海面上にはもやが低く漂っていた。
また、漁福丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製和船型漁船で、B受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、同日04時00分同県小波渡漁港を発し、同港北北西方約10海里沖合の漁場に至り、漂泊して一本釣り漁を始めた。
ところで、漁福丸は、甲板上船体中央部で横方向に渡された板の上に船尾方を向いて腰掛けた姿勢で操業を行うようになっており、眼高が水面上約1メートルで船体の高さが低い構造であった。
また、B受審人は、趣味を兼ねて漁業に従事していたものであり、主に日曜や祭日に波渡埼から鯵ヶ崎の2海里沖合までの範囲で一本釣り漁、刺網や貝採りなどを行っていたが、有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかった。
こうして、B受審人は、適宜漁場を移動しながら操業を続け、06時10分波渡埼灯台から352度2.1海里の釣り場に移動し、その後北東方の弱い海流に流されるたびに潮上りを繰り返し、ほぼ同じ釣り場に漂泊しながら操業を行っていた。
07時54分B受審人は、海流の影響を受けて船首がほぼ305度を向き船尾が鯵ヶ崎方を向いて前示衝突地点で漂泊していたとき、左舷正横少し後方200メートルのところに稲荷丸を初めて認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、音響信号装置を備えていなかったので、避航を促す音響信号を行うことができないまま、同船が7ノットほどに減速した状態でもあったことから、漁況を聞くのに接近中で近付いたら停船するものと思い、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく引き続き漂泊中、07時55分少し前同船が原速力のまま左舷正横至近に迫り、衝突の危険を感じて大声を発したが及ばず、漁福丸は、305度を向き、前示のとおり漂泊状態のまま衝突した。
衝突の結果、稲荷丸は船首部に擦過傷を生じ、漁福丸は左舷外板中央部に破口を生じて間もなく沈没した。

(原因)
本件衝突は、堅苔沢漁港沖合において、釣り場を移動中の稲荷丸が、見張り不十分で、漂泊中の漁福丸を避けなかったことによって発生したが、漂泊して一本釣り中の漁福丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、接近する稲荷丸に対して避航を促す音響信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、堅苔沢漁港沖合において、魚群探知機で探索しながら目指す北方沖合の釣り場に向けて移動する場合、同釣り場で漂泊して操業中の漁福丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、移動開始時に周囲を見回した際に他船を見かけなかったので、目指す沖合の釣り場の方には他船がいないものと思い、船尾方の高い山による山立てを行いながら釣り場を外さないよう船位の確認及び魚群の探索に努め、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の漁福丸に気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、稲荷丸の船首部に擦過傷を生じ、漁福丸の左舷外板中央部に破口を生じて沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、堅苔沢漁港沖合で漂泊して一本釣り中、稲荷丸が衝突のおそれがある態勢で接近する状況を認めた場合、避航を促すための有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかったのであるから、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、稲荷丸が漁況を聞きに接近中で自船に近付いたら停船するものと思い、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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