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1998年(平成10年)

平成10年長審第28号
    件名
漁船第五平安丸漁船国宝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:第五平安丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:国宝丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン未満限定)
    指定海難関係人

    損害
平安丸…船首材に擦過傷
国宝丸…船体前部を大破、のち廃船処分

    原因
平安丸…居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
国宝丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五平安丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の国宝丸を避けなかったことによって発生したが、国宝丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月27日02時40分
長崎県五島列島福江島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五平安丸 漁船国宝丸
総トン数 19.80トン 4.95トン
登録長 14.95メートル 10.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 198キロワット
漁船法馬力数 20
3 事実の経過
第五平安丸(以下「平安丸」という。)は、網船1隻、灯船3隻及び運搬船2隻で構成される中型まき網漁業船団の灯船として操業に従事するFRP製漁船で、A受審人と甲板員の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.80メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成9年8月26日16時00分長崎県奈留島港を発し、僚船とともに五島列島福江島周辺の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、船橋当直を甲板員に委ねて漁場に至るまでの間操舵室後部で休息し、18時00分ごろ姫島0.4海里の地点において、同人と交代し、航行中の動力船の灯火を表示して操舵室前部中央からやや右舷寄りに置いたいすに腰掛け、左手で操舵輪を握り、右手を機関の遠隔操縦レバーにかけて1人で操船と魚群探索に当たり、姫島周辺から福江島西方にかけて魚群探索を行ったものの、成果を得られなかったので、姫島北方沖合に移動することとし、翌27日02時21分五島柏埼灯台(以下「柏埼灯台」という。)から332度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点において、針路を092度に定め、機関を全速力前進より少し下げて10.0ノットの速力とし、手動操舵によって進行した。
02時26分半A受審人は、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首45度1.4海里ばかりに国宝丸を含む数隻の小型漁船の映像を認め、同時34分柏埼灯台から003度3.6海里の地点に達したとき、これらの小型漁船を左方に替わしながら北上するつもりで針路を354度に転じたところ、国宝丸の映像を左舷船首4度1海里に見るようになったが、他の小型漁船の灯火に紛れて国宝丸の灯火を視認できないまま、ソナーを使用しての魚群探索を続けながら同船を自船の左舷側約120メートルに隔てて無難に航過する態勢で続航した。
その後、A受審人は、連日操業の繰り返しで睡眠時間が1日につき平均4時間ほどしかなかったうえ、長時間の魚群探索と船橋当直の疲れから、眠気を催すようになったが、1人で長時間にわたる船橋当直の経験があったので、まだ大丈夫と思い、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして船橋当直を交代するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、やや下向きの姿勢で操舵輪の左横に備えたソナーを見ながら進行するうち、02時38分ごろ国宝丸の映像が左舷船首15度560メートルばかりとなったころ居眠りに陥った。
こうして、平安丸は、A受審人が居眠りに陥り、舵がわずかに左にとられた状態となって左転しながら国宝丸に向首する態勢となり、同船を避けないまま続航中、02時40分柏埼灯台から000度4.6海里の地点において、船首が334度を向いたとき、原速力のままその船首が国宝丸の右舷船首部に後方から65度の角度で衝突し、乗り上がった。当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、国宝丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同月26日14時30分長崎県奈留島白這(しろばえ)の船だまりを発し、福江島北方約4.5海里の新曽根付近の漁場に向かった。
17時00分ごろB受審人は、漁場に至り、魚群探索を行いながら操業地点の選定に当たり、同時30分ごろ前示衝突地点付近において、機関を停止し、水深約80メートルのところに錨を船首から投入して錨索を約120メートル延出して錨泊し、19時00分ごろから集魚灯を点灯して操業を開始した。
翌27日02時15分ごろB受審人は、やりいか約10キログラムを獲たところで、集魚灯を消して操業を打ち切り、帰港することとし、同時30分ごろ揚錨を終えたが、釣り上げたやりいかで甲板が汚れていたことから、機関を中立運転とし、船首を039度に向け、航行中の動力船の灯火を表示して甲板の掃除を始めた。
02時34分B受審人は、右舷船尾49度1.0海里のところに、平安丸の白、紅2灯を視認することができ、次いで同船が自船の右舷側約120メートルを無難に航過する態勢で北上するようになったが、甲板掃除に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かずに漂泊を続けた。
02時38分ごろB受審人は、平安丸が、右舷船尾60度560メートルばかりとなり、その後少しずつ左転しながら自船に著しく接近する状況となったものの、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、接近する同船に対し、注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置もとらないで、船首を039度に向けたまま、甲板掃除を終えたあと機関室に入り、燃料油の点検などを行っていたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、平安丸は、船首材に擦過傷を生じたのみであったが、国宝丸は、船体前部を大破し、のち廃船処分された。

(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県五島列島福江島北方沖合において、魚群探索を行いながら北上中の平安丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の国宝丸を避けなかったことによって発生したが、国宝丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県五島列島福江島北方沖合を1人で操船と魚群探索に当たって北上中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして船橋当直を交代するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、1人で長時間にわたる船橋当直の経験があったので、まだ大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の国宝丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、平安丸の船首材に擦過傷を生じさせ、国宝丸の船体前部を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、長崎県五島列島福江島北方沖合の新曽根付近において、錨泊して一本釣りを行ったのち漂泊して甲板掃除を行う場合、自船に接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板掃除に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平安丸が間近に接近してから、少しずつ左転しながら自船に著しく接近する状況となったことに気付かず、注意喚起信号を行うことも、また、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま、甲板掃除を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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