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1998年(平成10年)

平成9年門審第41号
    件名
貨物船ふじ丸漁船生成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:ふじ丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:生成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ふじ丸…損傷なし
生成丸…右舷中央部外板に破口、航海灯マストを折損

    原因
生成丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ふじ丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、生成丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るふじ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、ふじ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月4日13時22分
徳山下松港南西沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ふじ丸 漁船生成丸
総トン数 338.98トン 4.92トン
全長 49.05メートル
登録長 10.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
ふじ丸は、主として山口県徳山下松港でセメントを積載して九州各港に運搬する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、ばら積みセメント361トンを積載し、船首2.08メートル船尾3.66メートルの喫水をもって、平成8年2月4日12時40分徳山下松港を出港し、佐賀県唐津港に向かった。
A受審人は、仙島水道を通航し、13時07分富田航路第2号灯浮標を左舷側200メートルに見る、三田尻灯台から076度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点において、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵で進行した。
13時13分A受審人は、三田尻灯台から081度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首37度2.0海里に北上しながら接近する生成丸を視認し得る状況であったものの、そのころ右舷船首5度2.0海里に1隻の操業漁船を、左舷船首25度1.8海里に2隻の操業漁船をそれぞれ認め、これらの船舶の動向に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかったので、生成丸に気付かなかった。
A受審人は、13時17分三田尻灯台から087度3.3海里の地点に至り、生成丸との距離が1海里となり、同船との方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同時21分左舷船首37度450メートルに迫った生成丸を初めて視認し、同船と間近に接近する状況となったものの、これまでの経験から、小回りのきく漁船は直前になって反転したりするので、そのうち生成丸が避航するであろうと思い、大きく右転するなり、速やかに機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
13時22分少し前A受審人は、衝突の危険を感じ、単音5声に続けて長音1声の汽笛を吹鳴し、急いで右舵一杯をとり、機関を後進としたが効なく、13時22分三田尻灯台から096度2.6海里の地点において、ふじ丸は、原針路、原速力のまま、その船首が生成丸の右舷中央部に、ほぼ直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
また、生成丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、同日06時10分山口県防府市富海漁港を出港し、07時10分野島の東方海域の漁場に着いて操業を始め、かれい、小えび等約30キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、12時25分船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって漁場を発し、帰港の途についた。
12時45分B受審人は、周防野島灯台から033度1.5海里の地点において、針路を八崎岬の少し西に向く325度に定め、機関を全速力前進にかけて7.5ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、13時13分三田尻灯台から111度3.6海里の地点に達したとき、右舷船首53度2.0海里に前路を左方に横切るふじ丸を初めて視認したものの、同船を右舷船首45度より右方に視認したことから、同船の前路をこのまま無難に航過できるものと思い、引き続き同船の動静監視をすることなく航行した。
13時17分B受審人は、三田尻灯台から105度3.1海里の地点に至ったとき、ふじ丸との距離が1海里となり、同船と方位が変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、そのころ左舷前方の僚船3隻との無線交信に気を奪われ、依然、ふじ丸の動静監視を行うことなく、針路を変更するなり機関の運転を止めるなどの避航措置をとらず、同船の進路を避けないまま続航した。
B受審人は、同時22分少し前ふと右舷前方を見たところ、ふじ丸が至近に迫っていることに気付き、このままでは同船の船首を替われそうにないと思い、急いで機関のクラッチを切り、舵柄を一杯に引いて左転したが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふじ丸に損傷はなかったものの、生成丸は右舷中央部外板に破口を生じ、航海灯マストを折損したが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、山口県徳山下松港南西沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の生成丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るふじ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のふじ丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人が、単独で操舵と見張りに当たり、山口県徳山下松港南西沖合を同県防府市富海漁港に向け北上中、右舷前方に徳山下松港から出港して西行するふじ丸を視認した場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ふじ丸を初認したとき、同船が右舷船首45度より右方に見えたことから、自船がふじ丸の前路を無難に航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ふじ丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷中央部外板に破口と航海灯マストの折損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人が、徳山下松港を出港して同港南西沖合を西行する場合、同海域には操業漁船や航行船が多いから、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、他の操業漁船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する生成丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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